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Une Semaine à Zazie Films 週刊ザジ通信【8月31日㈬~9月6日㈫】

8月31日から始まったヴェネチア国際映画祭は早くも後半戦。現地に出向いている日本人映画ジャーナリストの方々のツイートを読んで、映画祭の雰囲気をちょっとだけ味わったりしています(にしても、レッドカーペットの背中バックリ、ティモシー・シャラメの衣装は強烈でしたね…)。一方、トロント国際映画祭は明日開幕。こちらは買付けのためのマーケット的なニュアンスが強い映画祭なので、コロナの余波で例年より少な目だとは思われますが、日本の配給会社の買付け担当、劇場の番組編成担当の方も今日辺りから続々と出発しているものと思われます。良い作品との出会いがありますように!

ヴェネチアと言えば、去年のコンペティション部門出品作で、審査員特別賞を受賞した『洞窟』というイタリア映画が、今夜WOWOWで放映になります。去年10月の東京国際映画祭・ワールドフォーカス部門でも上映されていますので、ご覧になった方もいらっしゃると思います。弊社が2011年に公開した『四つのいのち』のミケランジェロ・フランマルティーノ監督、10年ぶりの長編新作(寡作!)。前作『四つのいのち』と同じフランスの会社が海外セールスを担当しているのですが、実はこの映画、去年の夏「興味があれば、ザジのために東京で試写を組みますよ」という提案をもらって、わざわざDCPデータを送ってもらい、ひと足先に観せてもらっています。海外のセールス会社が、広く日本の配給各社に声をかけて、買付けの検討をしてもらうため東京で試写を組むことはよくあるのですが、一社のための“プライベート試写”というのは、他社さんでは珍しくはないのかもしれませんが、ザジではそうはありません。

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『洞窟』。悩みました。前作と同様、セリフがほぼ無く(今回はテレビの画面から流れるニュース映像を映すシーンで音声が流れますが、あとは聴き取れない囁き声ぐらいしかありません)、取り立ててストーリーがあるワケでもなく、洞窟の調査隊一団が、黙々と調査する姿を追うだけ。なのに目が離せない。とにかくユニーク。エリック・ロメール監督の『満月の夜』や、ルイ・マル監督『五月のミル』を手掛けた名手レナート・ベルタの撮影も美しい。思い切って買い付けようか…。

迷うこと数日…。社内で何度か話し合いがもたれましたが、最終的には断ることに。どんなに商業的に成功させることが難しいだろうと容易に想像できる作品でも、誰か一人が「それは分かってるけど、どうしてもやりたい!」と思い入れることが出来たなら、うちのような規模の会社なら突進することも可能です。でも、これに関しては「やりたいよね~」「でも難しいよね~」「やりたいよね~」「でも厳しいよね~」の繰り返し。突破口が見い出せませんでした。しかし、なんだかんだ言っても前作をヒットさせられなかった、というのが突進出来なかった、一番の要因でした。

その後、東京国際映画祭での上映が決まり、「どこか配給してくれる会社が現れないだろうか…」と他力本願に思ったりしつつも、「爆発的大ヒット作を放って、余裕が出来た暁には買っちゃおうかしら」などと未練たっぷりではあったのですが(そんな余裕が生まれることはないのに。笑)、ふと気が付くと今夜の放映が決定していたのでした…(弊社は今回のテレビ放映には関わっていません)。そういえば、2020年のベルリン国際映画祭で観て、「オファーしようかな?」「むずかしいよな~」「でも可能性あるんじゃ?」「いやムリでしょ~」と頭の中で一人二役で悩んで、結局オファーもせずに終わった作品に『デリート・ヒストリー』というフランス映画があるのですが、これもその年の東京国際でかかって、翌年WOWOWで放送、というパターンでした。

一昨年連載していたザジ30年の歴史を振り返る“Histoire De Zazie Films‘’では、『四つのいのち』も含めて「(お客様が)来なかった映画」について書いた回がありますが、今回は「買わなかった映画」についてのお話でした。もうひとつ、「買えなかった映画」というパターンもありますね。それについてはやはり“Histoire De Zazie Films‘’や、過去のザジ通信でも折に触れて書いてきたかと思いますが(値段が高騰して手が出なかったアニエス・ヴァルダ監督の『顔たち、ところどころ』とか)、また日を改めて書いてみようかな。でもつくづく、買付けは“縁”だということに尽きます。よく買い物好きの人が、お店に入ると「わたしを買って!」と服が話しかけてきた、みたいなことを言うことがありますが、それこそアレに近いものが映画買い付けの世界にも存在している気がします…。

あ、ぜひ今夜23:30からの『洞窟』、ご覧になってみてくださいね!

texte de Daisuke SHIMURA






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