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Une Semaine à Zazie Films 週刊ザジ通信【3月16日㈬~3月22日㈫】

今年も3月10日から始まった大阪アジアン映画祭は、20日に各賞が発表になり幕を閉じました(オンラインは翌21日まで)。アジア映画ファンに愛されて回を重ねること17回目。私は、後半の17日から2泊3日で参戦して、8本の映画を観て帰ってきました。今回はいつもと趣を変えて、最近この通信にもそのお名前が度々登場している元東京国際映画祭のプログラミングディレクターY氏が長年ウェブサイト上で続けている、国際映画祭期間中の“映画祭日記”をマネて、鑑賞した作品の感想を、紹介もあわせて時系列に綴ってみようと思います。一度やってみたかったんです!(笑)長編になりそうですが、ご容赦願います。

出発は木曜朝。10時台品川発の新幹線で。長引くコロナ禍でこの2年の間、旅行にほとんど行ってないので(去年の11月、マイレージ修行で出雲に行っただけ)、新幹線に乗るのは去年3月の、同じ大阪アジアン映画祭出張以来。新大阪に到着したら、そのまま会場に直行して午後から3本続けて映画を観るので、早お昼ではありますが、名古屋を過ぎた辺りで、品川で買った駅弁(つばめグリルのハンバーグ弁当)を車中で食べます。仕事だけど、旅気分が盛り上がります。うっかりビールも飲んじゃいそう(我慢した)。

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新大阪から在来線に乗り換えて大阪到着後、会場の一つシネ・リーブル梅田へ。先ず1本目は“特集企画 ニューアクション!サウスイースト”部門のベトナム映画『椿三姉妹』(バオ・ニャン/ナム・チト共同監督)から。シリーズ映画の4本目だそうで、大富豪の三姉妹の、愛と欲が渦巻くドロドロ系ドラマ。あまりにもあまりなコテコテさで、かえって中毒になる人が出そう。私は6月公開の『三姉妹』に続いて、次の配給作が『椿三姉妹』になったら混乱するかも…と心配していたけど、その心配は杞憂に終わりました(笑)。

続いてABCホールに移動してコンペ作、フィリピン映画『ビッグ・ナイト』。2017年に公開された『ダイ・ビューティフル』(ココマル配給!)のジュン・ロブレス・ラナ監督の新作。スラム街のサロンで働くゲイの美容師が、何の間違いか村の麻薬常習者リストに名前が載ってしまい、警察の手にリストが渡る前に、何とか自分の名前を消そうと東奔西走する一夜のお話。民話みたいにA点からB点へ、B点からC点へと、助けを求めて渡り歩くエピソードがなかなか面白いし、社会の闇をしっかりと描いていて骨太…だけど、オチが私好みではなかった。残念!

そしてこの日の最後もABCホールでコンペ作、香港=マレーシア合作の『野蛮人入侵』。監督・主演を務めるのはタン・チュイムイという、2006年『愛は一切に勝つ』という作品で、ロッテルダム映画祭の最高賞を獲った実績の持ち主。出産、離婚を経てカムバックした女優が、アクション映画に主演するために、未経験だったアクションの武術指導を受けることになり、メキメキと上達しスキルを得るが、撮影現場に連れていた自分の子を何者かに誘拐され…、というジャンルで言えばアクション映画。前半の武術指導シーンがリアルで引き込まれます。何の予備知識もなく観たので、次に何が起こるか分からず、「ゲーッ!面白れーッ!」と前のめりだったのですが、最後に待ち受ける、ある種の“仕掛け”に、私は映画的興奮を得られず、逆に興ざめしてしまったのでありました。残念二連発!

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初日夜はABCホールからホテルまでの帰り道途中、マンボウ中の21時以降も営業している焼肉屋を見つけ無事夕飯。23時前には眠りにつき、翌朝は7時起床。出張中いつもなら朝ランをするところですが、事前にチェックした天気予報でこの週末は雨だったのでシューズも持ってこず。予報通りの雨だったので、走らなくても罪の意識を感じなくて済みました。

金曜朝1本目は、シネ・リーブル梅田でコンペのインド映画『シャンカルのお話』。1962年、英国から独立して国づくりの途上にあるインドの、上流家庭の一家の娘アンジャナと使用人シャンカルの交流をメインに据えた、ちょっとマーチャント=アイヴォリー風味のドラマ(設定は違うけど『日の名残り』とかの感じに近い)。監督は、これも『野蛮人〜』と同じく出演している俳優。娘の母親役を演じているイフファナ・マジュムダール。初の長編劇映画だそうです。前半の上映で既にご覧になった同業者の方が「何も起こらな過ぎ」(葛藤なさ過ぎ、の意味も)とおっしゃっていましたが、私は割と気持ちよく作品の世界観に身を委ねられました。神保町の某劇場さん(ほぼ言ってる)にご紹介したかった…。

続いてABCホールに移動してコンペの韓国映画『ブルドーザー少女』(パク・イウン監督)。これはもう、“ブルドーザーを運転して悪と闘う少女”の画、を見せたいために作られた映画、という感じ。少女が暴走し過ぎなので、ちょっとついていけなかったかも。そしてそのままABCホールで、これもコンペの香港映画『アニタ』(リョン・ロクマン監督)。言わずと知れた香港のスター、アニタ・ムイの40年の短い生涯を、80年代から90年代の香港芸能史、社会情勢(SARS禍など)を背景に描く、高揚感たっぷりのエンタテインメント作。レスリー・チャンとの友情、そして別れのエピソードは涙無くしては観れません。映画の出来は冷静に観たら、コテコテで凡庸なのかもしれませんが、幸福だったあの頃の香港を思い出して胸が熱くなります。

この日は18時台から続けてもう1本観る予定だったのですが、同じ回で『アニタ』を観ていた同業の方々と、ホール出口で盛り上がってしまい、そのままお好み焼き屋に流れてしまいました。テヘ。ちなみに『アニタ』は、某メジャー系配信会社が世界配給することが決まっているそうで、大阪アジアンがスクリーンで観られた唯一の機会になる可能性もあるらしい。ここは何とか映画館で公開してもらいたいです!

そして早くも最終日の土曜。今日も朝からABCホール。コンペの韓国映画『おひとりさま族』(ホン・ソンウン監督)。カード会社のコールセンターに勤める優秀な社員でありながら、人との付き合いを最小限にして孤高の生き方を貫いていた主人公が、アパートの隣室の青年の孤独死、後輩社員との軋轢、実家で母の死後一人暮らしをする父との衝突を経て、静かに気持ちを変化させていくさまを繊細に描くドラマ。主人公も良いのですが、脇のキャラクターが皆良かった。“脇役がちゃんと立ってる映画は、良い映画”の法則、です。決して売り易い映画ではないのですが、どこか買って公開してくれるといいな(自分では買わんのか?)

当初は速攻でシネ・リーブルに移動して、ドキュメンタリーを1本観る予定を立てていたのですが、間が20分ほどしか空いていないのが発覚。タクシーを飛ばせば間に合いそうですが、最終日ぐらいはゆっくりランチを食べようと思い、予定を変更しました。で、梅田地下街をうろうろして、今回初の串揚げ。“おまかせ”で1本ずつサーブされる高級店ではなく、昼定食で10本いっぺんに出てくる庶民の店ですが、充分に美味かった!

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食べ終わってもまだ1時間半以上あります…。もうお腹いっぱいでコーヒーも入らないし、どうしようかな、と思いながら地上に出て、ふと通りを見上げるとカラオケBOX…。昨日『アニタ』で、日本の歌謡曲の広東語カバーの数々を聴いて「カラオケ行きて―!」熱が上がっていたところだったので、サックリ1時間歌いましたとも!わざわざ大阪に来て。先ずは下積み時代のシーンで、アニタがお姉さんとデュエットしていた「面影」(しまざき由理)、「つぐない」(テレサ・テン)、「夕焼けの歌」(近藤真彦)、「駅」(竹内まりや)…。あぁ、スッキリした(笑)。

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何食わぬ顔でABCホールに戻り(笑)、今回最後に観るのはコンペ作のモンゴル映画『セールス・ガール』。モンゴルの都市部に暮らす女子大生が主人公の、“草原の出て来ないモンゴル映画”(実際はちょっとだけ草原、出て来ます)。ひょんなことからセックスショップ(いわゆる“大人のおもちゃや”)でバイトすることになったヒロインが、ショップのオーナーの謎の中年女性との不思議な交友を通して一歩二歩、成長する、みたいなお話。これ、イイですねー!始めは、うっすらとヒゲも生えた野暮ったい主人公が、時間が経つにつれて、どんどん洗練されていくさまは見ていて楽しい。時折入る、モンゴルの若いミュージシャンの曲もなかなかいい感じ。オヤジの私よりも、若い子が観てどう感じるか、ちょっと聞いてみたいです。

…ということで、大長編になってしまったので本日はここまで。一度やってみたかった“映画祭日記”ですが、Y氏のような鑑賞眼や膨大な知識に基づいた感想が書けず、結局個人的に「好き」か「嫌いか」に終始してしまいました。二度目はないな(笑)。でも大阪アジアン映画祭、やっぱ楽しいなー。

texte de Daisuke SHIMURA

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