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おまえはプリンキピアで神を殺す覚悟をきめろ(逆噴射聡一郎ではない)

 よくきたな。おれは逆噴射聡一郎ではない。おれは毎日かなりの量のクトゥルフ神話TRPGテキストをほんやくしているが、誰にも読ませるつもりはない。だが今回おれは真の男がプレーすべき鋼のゲームがあることを伝えるために、この原稿を用意した。
 今年も新学期の混乱が終わり、本格的に論文指導をしていかねばならない時期になった。学術論文と言えば、普通の生活とは程遠いアカデミズムの産物であり、大よそメキシコとは無関係のように思えるだろう。だがほんらい、学術界という名のメキシコは温室や象牙の塔などではなく、吸血鬼に満ちた国境の酒場や、象の塔のような獅子や黒蓮の粉末に満ち溢れたきけんな土地だ。

 真の男たちはこの世の神秘を白日に引きずり出すために研究を積み、実験を行い、論文をまとめる・・・それはデスペラードが武器を掻き集め、酒場で情報を収集したついてに乱闘し、友やベイブと共に復讐を実行するのと本質的にはさほど変わらない。生き馬の目を抜くけつ断力と大胆さを持つ者しか最初にナプキンを取ることはできないのだ。

 オール、オア、ナッシング・・・こういう戦場に放り込まれて、おまえは戦えるか?勝負の体勢にも入れなず二挺拳銃に脳天を吹き飛ばされるのが関の山だろう。だからおまえは開拓の精神を萎えさせ、「やっぱり安全資産を確保しなきゃ」と思ってますます自分の身を重くし自縄自縛をやめられず、医者の目が気になってビールとテキーラを混ぜて飲むことすらできずえんえんとさめがめとかマインスィーパーで時間をつぶしやがて・・・老人になる。それはイヤだと押し殺した声を振り絞るなら、これからの話に耳をそばだてろ。あとアイッチュンカードやグーグルなんかカードを用意しておけ。

           テキーラ・ブロンコも良い

プリンキピアとは

 プリンキピアはスマッホとかSteamとかでダウンロード購入し遊べるゲームだ。元々はゲームコンテストに応募された作品で無料ダウンロードできた。スマッホに移植された後も開発は続けらえ、グラフィックや音楽、ゲーム性が強化された完全版が「PRINCIPIA: Master of Science (プリンキピア:マスター・オブ・サイエンス)」のタイトルでリリースされた。

 そしてその完全版が今回スマッホに移植されたのだ。「エッ、1999年に公開されたやつ?低スペックでどうしようもないゲーム?しょうもなくて誰もやってないのでは?」プレーイングもせずにそのような思い込みをするあほは、シエラマドレの崖で万有引力の法則を自分の身体をもってして体験することになる。プリンキピア・・・それは人間が神へと挑む、厳しい戦いと覚悟の物語なのだ。
 このゲームは17世紀ウヨーロッパの学術界を舞台にしている。つまり現実の歴史のシミュレーションだ。この世界には二種類の人間がいる。学者とそれ以外だ。学者以外はこのゲームと関係ないので全て無視して構わない、見ての通り、学者たちはどいつもこいつも学問と新発見への情熱に目がギラついた男の中の男で、鰻のように上昇する知能指数はハレーションを起こし、たぶんカラテも強い。おまえはこの学者たちとなって、17世紀の科学史を塗り替えていくことになる。

     東京少年D団で知能指数を上げてから取り掛かるのも手だ

 プレイヤーキャラクターとして何人かの科学者を選べるが、それぞれの人物は得意とする専門分野や寿命などが異なっており、バンデラスやガラルドー並みにかっつ躍が期待できる連中もいれば、ブシェミのように死神が既に手招きを始めている奴もいる。

           ブシェミは科学者ではない

 科学者どもの中で、特に恵まれた位置にいるのは、やはり『プリンキピア』を書き上げた張本人であるニュートンだ。複数の専門分野でトップクラスの学識を持ち寿命も長い。ニュートンはニューロンととても名前が近い。これをとってもニュートンがただならぬ男であることが分かるだろう。
 おまえはゲームを始めるにあたって、ニューロンを選んでも良いし、ライプニッツなどニュートンと鎬を削った碩学で奴に挑んでも良い。おれはベッヒャーでフロギストン説を覆した。
 ゲームを始めると、おまえの選んだ科学者は特定の研究テーマを持った状態から始まる。これを推理したり実験したりすることで、発見を見出すことができる。発見が理論ならそれを証明するために検証すればいいし、実験や観察が必要なものは暫時行動に移せばいい。これらの証明行動を行うと、おまえの見出した発見は完成度がみるみる上昇していく。そして完成度を高めた後に論文を作成し、出来上がれば科学アカデミーに提出する。基本はこれだけだ。
 「なるほど、お勉強ゲームか。子供に遊ばせて偏差値が倍点・・・」などと捕らぬ狸の皮算用をやらかしている奴は放っておけ。ゲームは学ぶものではなくまず遊ぶものだ。もちろん楽しむ>好む>知るの三段法則に従って結果的にえらえっるものがあるということはある。だが自己啓発とかスキルアップのためにおまえの楽しみを屠って捧げるな。
 研究・検証・論文の三秒しが上手く回ることはまずない。発見のために推理や実験がどれだけ必要になるかは身体で覚えていくしかないし、発明やスケッチは不器用ならネジの飛んだ残骸や黒塗りしかできない。九分九厘完成した論文を提出する前にニュートンに先を越されることもあるし、おまえの才能を妬んだ科学者がパワーワードでおまえの行動を妨害してくることさえあるのだ。このゲームに「カラテ」コマンドが無いのは残念だ。辻斬りがしたければ維新の嵐でもするといい。そして何より、おまえが精魂傾けて書き上げた論文をロンドン王立協会に喜び勇んで提出したのに「ひどい論文です。彼のような人物が研究者を気取っているのは許せません」とフックが批判したせいで不受理になった日にはフックに渾身の右フックを叩き込むコマンドをおまえは血眼になって探し回るだろう。
 おれはおまえのために用意された専属執事ではないので、いちいち手取り足取りコーチングすることはしない。だが、先ほど述べたように右フックというコマンドは存在しないので、特にカラテ衝動に駆られかねない落とし穴を教えてやろう。
 まず、研究の前にはその分野の知識をしっかり身につけておけ。大学のある土地へ行き、金を貯めて講義を聞くのが良い。

      大学などの図書館ではコナンに敬意を払え

知識は研究の進行速度に直結する。特に研究テーマを他分野に変更する際には、他の専門家に対抗できるだけの基礎学力無しに挑むな。それはギターケースに銃器を満載したマリアッチをダニー・トレホでもないのに投げナイフだけで殺しにかかるようなものだ。だが忘れるな、「学びて思わざれば罔し。思いて学ばざれば殆し」このゲームはテストの点数を競う趣旨ではないので、いくら知識があっても研究を進めず他の科学者が先に論文を提出すれば意味はない。

 次に、工作技術と描画力を忘れるな。図や発明品は完成さえすれば検証せずに論文を書いて提出できるが、逆に言えば完成しないと発見から先に進めない。 そしてある分野の実験を行うには、分野に対応した実験器具が必要なことに注意しろ。持っていなければ売買を使え。

 上手く回って名声が上昇していけば、科学アカデミーに申請を出し、正式な会員となることも可能になる。そして地位を重ね会長となることも不可能ではない。そうなれば、おまえはもはや論文を審査する側へ移っているはずだ。おまえのライバルが自分の研究している分野の論文を提出しようとするのを反対票で潰すことが可能になる・・・だがそれは、今まで自分が苦しめられてきたことを他人に強要することに他ならない。科学の発展に寄与し、人類の向上を目指し活動してきたはずのおまえが、それを阻害する老害と転じるのだ。それに意味はあるのか?学術界を牛耳る立場にまでなったというのに、おまえは何のためその手を悪に汚すのか?その時、おまえはプリンキピアに手が届く寸前にいるはずだ。

心ならずも神に挑む者

 数々の分野で権威となった科学者だけに挑戦が許される最終テーマ、それがプリンキピアだ。

 現実の歴史においてはニュートンが執筆した、自然哲学の数学的諸原理ことプリンキピアは、力学・物理学・天文学と関連しあいながらも別々に発展してきた学問を統一し、一つの理論とした。それはニュトンにとって、偉大なる意志すなわち神がこの世界を統一性を以ってデザインした証拠であり、この世界は数学的秩序に満たされた完全世界であることを彼に告げる福音であった。

 プリンキピアは神が世界にあまねく用意した美しい法則を記した賛歌だった。だが、プリンキピアが生み出したものは、この世界を一変させてしまった。

 人は科学で世界の隠秘を暴き、放り出し、鞭打った。力学通りに動く機械は人を歯車に巻き込みながら停まらない駆動を始め、挙句の果てに遂に地球を飛び出した人間は、自分達の他には宇宙に生命など無いこと、自分達が宇宙の孤児であることを知ってしまった。 人間の過去も現在も未来も科学によって計れるものとせん、多くの人々がそう誓って雄々しく旗を掲げて突撃し、華々しく散る者もいれば、何かしらの成果を掴み取った者もいた。

 人間は再び楽園を失ったのだ。

 その手を悪徳で汚し、この世のすべてを暴きつくし、それでもなお足らずおまえはプリンキピアを世に出すと言うのか。確かにおまえが出さなくとも他の誰かが同じことをするかもしれない。だが、おまえが思い留まっているその僅かな間、世界は不確定のまま揺れ動いている。それを壊すのか。
 ニュートンが思い描いた夢を違えた科学世紀、白日が血の気のない石の上に照りつける中、おまえは真の男が味わってきた世界を敵に回す苦悩を今こそ噛み締めているはずだ。「アカデミック、イクオール、メキシコ...」おまえがそう呟いたのをおれは聞き逃さない。プリンピキア、それは己の覚悟を鍛えなおすゲーム・・・神の愛を振り捨ててメキシコの荒野に赴く真の男に捧げられた哀歌だ。

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