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【3分小説】タピオカグリーンティーとキャッシュレス化

タピらずに 歌えるものか カラオケぞ

「これ私の作品なんですよ。」

常連さんが、ボソボソと言った。サラリーマン川柳の優秀作品が書いてある紙を私に嬉しそうに見せながら。

「eさん、よかったですね。なんだか私も嬉しいです。」

私は出来立てのタピオカグリーンティーを渡した。

私はその常連さんをeさんと読んでいる。

本名も職業も知らない。わかっているのは、彼の顔がeという文字に似ていること。

そして、ボソボソしゃべることだけだ。

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私は細々とタピオカ屋を営んでいる。

キッチンカーでの移動販売。かれこれ開業してから10年だ。

私のタピオカは、色と大きさに特徴がある。

タピオカの色は、エメラルドグリーン。みんなが今見ているNoteのイメージカラーに近いかな。この色が好きでわざわざ買いにくる人もいるんだ。

ちなみにeさんは、このグリーンを少し濃くした色の服をよく好んで着ている。ごめん、どうでもいい話だよね。

あと、うちのタピオカは大きいんだ。飲むと「声がよく出る」ってみんなが言ってくれる。カラオケでいい点がとれるようになると評判だ。

最近のタピオカブームのおかげで、うちも繁盛している。少しだけ贅沢が出来るようになった。結婚記念日に表参道にディナーに行ったり、両親を連れてお泊りディズニーにも行けた。

ブームになって半年たった頃かな。eさんがお店に来るようになったのは。

タピオカブーム様様だよ。

でも、少しだけ悩みがあった。お客さんからキャッシュレスにしてくれと要望が多くなったんだ。初めは女子高生だけだったけど、サラリーマンやご老人まで求めるようになってきた。

試しにeさんにキャッシュレスにした方がいいか聞いたんだよね。そしたら「やった方がいいよ」って言ってくれた。次の日には、申し込み書類まで持ってきてくれたんだ。手続きにも親身になってアドバイスしてくれた。おかげさまでキャッシュレス化ができた。

キャッシュレス化でどこがいいかって?とにかく楽だ。それにお金の受け渡しがないからスピーディーにお客さんに対応できる。おつりを計算しなくていい。現金を持って帰る手間も少なくなった。

今では現金で決済するのをやめてしまったほどだよ。

あと、楽しみが1つ増えた。キャッシュレス業者が1ヶ月ごとに明細を送ってくれるんだ。売り上げた金額が載っている。今月はこれだけ売れたんだってわかるんだ。今まで計算なんてしたことなかったからね。

思ったより沢山の売り上げがあった。とても達成感があるよ。

ほんとにeさんに出会えてよかった。足を向けて寝れないなぁ。

そうそう昨日もeさんが来ていた。珍しく2杯も買って行ったよ。

「いらっしゃい。今日もいつものでよろしいですか?」

「はい。今日は2つもらえますか?明日の朝も飲みたいので。」

eさんはいつものようにボソボソと言った。

「朝から飲んでいただけるなんて嬉しいです。」

「明日は朝からフル稼働したいので。」

「朝からカラオケですか?いいですね、満喫してくださいね。」

私はタピオカグリーンティーを2つ渡しながら言った。

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ピンポーン。

早朝からインターホンが鳴った。

「はい。」

こんな朝早くから誰だろう。少々疑問に思いつつドアを開けた。

「税務署の職員です。税務調査に来ました。」

ハキハキとした声で税務署の職員は言った。見覚えのある顔だった。

「あぁ、eさん。あなた税務署の職員だったのですか。」

「はい。隠していて申し訳ありません。中にはいってもいいですか。」

eさんは一ミリも表情を変えずに言った。

「えぇ、、どうぞ。」

リビングにeさんを通した。リビングに入り、イスに腰をかけると早速eさんが話を始めた。

「あなたの営んでいるタピオカ屋さん、申告してないですよね?」

いつもとは違ってハキハキと話している。昨日買ったタピオカを飲んで来たな。

「そうですね。」

私は答えた。

「タピオカ屋は申告する必要があります。どれくらい儲かっているか計算されてますか?」

「いえ、してません。それにあんなちっぽけなお店でも確定申告が必要なんですか?あのお店は売上なんてほとんどないんですよ。」

「しらばっくれても無駄ですよ。キャッシュレス決済業者から売上の金額は確認取れてます。」

あぁそうか、キャッシュレス決済業者から全てバレたのか。

私は目の前が真っ暗になった。

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結局、所得税やら消費税やらで2千万円を納税することになった。

我が家は破産寸前。

納税の義務を怠った私が悪いんだけどね。

あっそうそう。 eさん、調べてみたら有名な方みたい。

ここに載っていたので、参考までに君にも教えておくよ。

国税庁HP

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