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『ベストキッド3/最後の挑戦』 キャストに無理があるのは事実。ひとは平常心のために戦う。

評価 ☆



あらすじ
あの大会から1年が経過。空手道場のコブラ会は練習生が全員辞めてしまった。空手道場の経営をしていたジョン・クリースも苦しい生活を強いられていた。道場のオーナーであり、兄弟子でもあるテリーに道場を返そうと家を訪れる。テリーはクリースにタヒチで骨休めするようにすすめる。



ショーン・ペンがインタビュー番組で面白いことを言っていた。「娯楽が欲しいのなら、女を買って、麻薬をやってりゃいい。映画はそれ以上の魅力がある」。名言です。



1989年公開の『ベストキッド3/最後の挑戦』はエンターティメント映画としてみると、かなり問題がある出来だ。監督はジョン・G・アビルドセン。出演はラルフ・マッチオ、ノリユキ・パット・モリタなど。キャストも無理がある。主役のラルフ・マッチオはどう見ても大学生には見えないし、相手役の女の子は美人ではない。敵役も単なるサイコな人たちとして描かれていて面白味がない。



それでも、この映画には考えさせられることが多かった。特に暴力に対して暴力で対抗することが正しいのか、という問題提起をしている。『インファナル・アフェア』や『スター・ウォーズ』シリーズでも同じものが描かれているけれど。



執拗に戦いを迫る悪役たちと拒み続けるダニエル&ミヤギ。悪役たちはあらゆる方法でバトルに引きずり込もうとする。その解決策として出てくるというか、心の拠りどころとなっていたのが空手の精神、日本古来から伝わる心のあり方だった。



現在の日本人にもなくなりつつあるのが専守防衛、つまり戦わないからこそ戦いの準備をするという姿勢。地位でも、名誉でも、金でもないもののために心を鍛え上げる。嫌がらせや暴力に動じることのない心は、かつての日本人にあったものである。プライドといってもいいし、平常心と表現してもいいかもしれない。



ジョン・G・アビルドセン監督の描く人間たちは暖かい。相手を受け入れることの寛容さと悩みが常にテーマになる。戦いのシーンなんて少ししかない。ほとんどが人間の葛藤の物語である。『ロッキー』もそうだった。



娯楽映画としてはオススメできないかもしれない。しかし、少なくとも僕にはカッとしている頭をクールダウンさせる力を持つ映画と評価したい。癒しでもない、教訓でもない。



いわば、間違った心のあり様と金至上主義の社会に対して、どう対抗すればいいかを教えてくれる。ちょっと変わった映画である。



ちなみに小学生の息子がこの映画を私に観るように勧めてくれた。彼もまた心の中の悪と戦っているのかもしれない。大人たちと同じように。



追記



『ベスト・キッド』シリーズは現在も作り続けられている。特にNETFLIXで「コブラ会」は人気らしい。80年代のコンテンツはどうして息が長いのだろうか?



初出 「西参道シネマブログ」 2006-02-24



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