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『アジョシ』 ウォンビンの魅力を引き出すには丁寧な仕事こそが大切。斬新さなど砕け散るほどの。

評価 ☆☆☆



あらすじ
質屋を営むチャ・テシクは特殊部隊要員だったがいまは引退。質屋に来る客、隣りに住む少女ソミくらいしか話をしない。ソミは母親が留守の時にやってきて2人でご飯を食べたり、cdプレイヤーをつかったりしている。ソミはちょっと問題のあるコだった。



『オールド・ボーイ』以来、韓国映画は敬遠している。理由は簡単で韓国映画の暴力シーンが嫌いだから。エグいし、描写過多だ。ここまで暴力を映像で見せる必要があるのか。もっとイマジネーションに任せる部分があるのでは? と思う。



年を取るに従って暴力を振るう場面が嫌いになってきた。現実としても有り得る場面だから。いろんな意味で暴力はこの世界を覆っている。あえてフィクションの世界でも暴力を取り上げる必要があるの? という疑問が僕の中にある。



2010年公開の『アジョシ』はさほど期待していなかった。監督はイ・ジョンボム。出演はウォンビン、キム・セロンなど。暴力シーンが多い映画なのもわかっていた。予想通り、前半部分から嫌な話が続く。麻薬や臓器売買といった話である。ウォンビンもカッコイイとも思えなかった。キム・セロンも可愛い子役ではない。



悪役は良かったけれど、セリフも汚いし、エロいシーンも全然好みではなかった。話そのものもどこかで見たようなものをひっつけている感じがしていた。



ところが観終わってみると不思議と感動している自分に気づく。困ったことに「悪くない」のだ。むしろ、最近の日本映画の引用をこれだけしているのに、結果的に日本映画以上の作品になっている。驚きを通り越して韓国映画を見直すべきだと思ってしまった。



具体的にいえば『アジョシ』の題材や基本は、阪本順治監督の『闇の子供たち』みたいだ。さらに、悪者たちの造形は『デス・ノート』を真似ている。ひとりで殴りこみに行くシーンは東映ヤクザ路線でしかない。



使い古された題材を丁寧に、本当に丁寧につないだのが『アジョシ』という映画である。誰もが考えついて、テレビドラマでも再現しようと思えばできるものを、商業映画としてうまく料理している。



さらに、『アジョシ』がこれほどに感動的で、絶対にテレビでリメイクできない(したとしても面白くならない)のは、臓器移植に関する衝撃的な場面、痛々しいナイフアクションがあるからだ。イノセンスとバイオレンスの落差こそが『アジョシ』の秘訣だということを知っている。イ・ジョンボム監督の仕事に好感が持てる。



振り返ってみるとウォンビンの佇まいも悪くない。確かに彼はただ者ではない。日本のイケメン俳優たちで彼に勝てる人間が何人いる? 顔つきもそうだけど、姿勢や肉体の鍛え方、仕草なども意識的。しかも、それらが成功している。



他の俳優たちもいい。キム・ヒフォンの面構えも悪役っぽい、敵の用心棒的な男であるタナヨン・ウォンタラクンもGOOD。母親役のキム・ヒョソは素晴らしい。彼女のような女優が日本にもっと必要だ。



丁寧な仕事こそが大切なのだ。斬新さを凌駕して面白い商業映画を作り上げる秘訣はここにある。韓国映画の質の高さを認めざるをえない一本だった。



初出 「西参道シネマブログ」 2013-2-16



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