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『グレイス・オブ・マイ・ハート』 『フォレスト・ガンプ』的アプローチによるアメリカPOP音楽の解体書。

評価 ☆☆



あらすじ
1958年、歌手を目指していた若い女性エドナは、コンテストに出場する衣装を決めようとしていた。母親が知り合いに頼んで自宅までドレスを運んでもらったからだ。自分が気に入ったドレスを見つけようとするのだが、結局、母親が選んだドレスを着ることになる。



「自分がやりたいと思っていた道が見えていても、途中で迷うこともある」。『グレイス・オブ・マイ・ハート』は、自分がどう進んでいいかわからなくなった時、進むべき道を教えてくれる映画でもある。



1960年代から70年代を舞台に、シンガー・ソングライターとして活躍する女性の仕事、恋、結婚、人生を綴っている。I・ダグラスやE・ストルツなどの俳優たちもグッドだが、『グレイス・オブ・マイ・ハート』の主役は60年代から70年代感覚の音楽。特にバート・バカラックとエルビス・コステロの「GOD GIVE ME STRENGTH」は最高です。ヒットするんじゃないかな。『いちご白書』のB・デイビソンもいい味出してる。



公開当初、僕は、こんなコメントをある雑誌に書いた。



『グレイス・オブ・マイ・ハート』は1996年に公開された映画で、アリソン・アンダーソン監督・脚本、イリアナ・ダグラスが主演している。キャロル・キングをモデルにしていると言われているが、公言されているわけではない。いわばモチーフテーマである。



この後、エルビス・コステロとバート・バカラックはこの映画で共作した「GOD GIVE ME STRENGTH」がきっかけで、同曲の入ったアルバム「painted from memory」を発表している。いい曲ですね。僕もバート・バカラックは大好きである。



この映画は、まさにアメリカPOP界における『フォレスト・ガンプ』である。アメリカの1950年から1970年代の歴史を、音楽というフィールドに限定し、架空のミュージシャンたちという設定に変えて、その流れを掴もうとしている。モータウン、サイケデリック、サーフィン音楽などのムーブメントが数多く綴られていく。それはあたかもアメリカの音楽歴史であり、当時の世界のポップ・ミュージックの歴史でもあった。



アメリカのポップ音楽の歴史を学ぶ良い題材でもある。主人公はキャロル・キングがモデルになっているが、僕はそちらよりも彼女を取り巻く音楽業界、アメリカ社会が気になった。特にあらゆる業界においての白人至上主義というか、黒人差別主義のすごさ、同時に「自由」を掲げた若者たちの無軌道ぶりとドラッグなどの快楽主義と傾倒そしてコミューン的共同体への帰結を求めようとする流れと当時の音楽を重ね合わせている。



それにしても、何をやるにも紆余曲折ですね。なんだか、人間は悟るためではなく、いろんなことを悩むために生まれてきたように思える。人生いろいろあります。本当に。



追記



YOUTUBEの出現によって音楽業界は大きく変わっていった。バート・バカラックもまた過去のひとから再評価されている。同じようにカーペンターズなども。山下達郎や竹内まりあなどもそうだし、80年代ジャパニーズシティーポップの再評価もそうだ。歴史観の喪失がもたらすものは、時間の洗礼を証明するものか、あるいは否定するのものか、この映画すら時代遅れに思える反面、音楽のもつ反歴史性の強さに驚いてしまう、今日のこのごろである。



初出 「西参道シネマブログ」 2005-08-22



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