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(小説)俺が『錬金術師』になった時 第2話

「残業で会社に泊まり込んだ。。。」と書くと、令和の今では、『ブラック企業』の烙印を押されてしまうのかもしれないのだが、前年に東京のメーカを自己都合退職して、両親と同居を始めたばかりの俺には、この上ない、快適な職場だった。。。

何せ、東京では電車通勤に一時間はかかっていたのが、今ではマイカー通勤で、15分程度なのである。駐車場も客先の工場で、無料で確保できていた。
※品川区の月極駐車場を借りると、俺の杉並区の、日当たり最悪の木造フロ無しアパートよりも高かった。

そうでなければ、簡単に『客先泊まり込み』などやっていられない。
前日に客先で泊まり込み作業をやっていて、翌日は午後出社を申請していたので、家に帰ってゆっくりと寝る事ができた。

前日に私が完成させたプログラムは、最後の一本だったので、もはやシステムは完成してしまっている。
後は、東京に建設中のデータセンターで、総合テストを行って、日本全国33ケ所の工場に導入して、導入試験を行うのみである。(※インターネットは当時未だ無い。日本全国専用線で繋がっていた。)

但し、この時期、俺は東京などに行くつもりもなかった。。。
そもそも税理士の資格を取って、再起を図るつもりであったのだ。
金が貯まれば、大学院にも行って、『博士号』を取りたかった。

折角、東京から帰って、親元で自室も確保して、バイトのつもりで始めたプログラマの仕事でも実績を作って、東京時代以上の収入を確保し始めたばかりなのである。
「何で今更、東京に戻る必要があるんだ。。。???」

しかし、翌日の午後出社すると、真っ先に『東京行き』の話が切り出されたのだった!
エンジニアは50名以上も、いるのにである。
「何で俺が選ばれるのだ???」

結局、前年まで東京の本社開発部に居て、東京に慣れているだろうと言う事と、俺の作ったプログラムのメンテ作業は、俺でないと心配だと言う事らしい。
そんな事になると思って、詳細なプログラム仕様書も用意しておいたのに。。。

その週末、東京の本社から、部長が単身で飛んで来た。
ユーザの調査役から『直接指名』が懸かったらしいのだ。
手に『東京土産』を抱えて、母親に直接挨拶に来たらしい。。。

本人が嫌がっている以上は、母親を口説き落とす作戦である。
俺の母親は、オーダースーツ店で外回りの営業の仕事をしていたので、この日の為に、店で最高級の英国製生地と、イタリヤ製生地を用意していた。。
準備万端である。

俺は東京暮らしが長く、家賃が高いので、親に仕送りもできない事、等々を訴えた。
部長は外注社員の単価テーブルの上限の存在、等々を言い訳にしていた。
原価計算の仕組みは、社員時代に教育を受けていたので、分かっている。

結局、出張扱いで、最大限出張経費を上乗せする事で決着した。
俺は、元お世話になっていた会社の部長から頭を下げられると、嫌とは言えなかったのだ。

とは言え、毎月の収入は、東京勤務時代の3倍に跳ね上がっていた。
毎月がボーナスの様である。貯金など、直ぐに出来る。

翌週、東京への出張命令が出た。
今後の作業の打ち合わせが名目だが、東京での住居を決めてくるのが目的の出張であった。
私は家財道具一式、全て東京で新品を購入する事に決めて、余計な引っ越し費用等を節約した。

時代は既にバブル時代に突入していた。。。
送別会の二次会は、みんなでディスコに繰り出したのである。
私は、昨年東京から帰ってくる時に、学生時代から使っていた洗濯機を処分しようと、廃品回収に出したところ、大学生協で新品購入した価格よりも、廃品回収費用の方が、高く取られた事を思い出していた。。。

<続く>

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