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エッセイ:女児は宝石がお好き

一目見た瞬間、わたしの中の女児が叫んだ。「これだー!!!!」

今の会社に入って、わたしの女児心が爆発した。今の会社というと、Zen Stonesを運営している日開……日本開運印鑑である。うちはハンコ屋さんなのだ。
ただのハンコ屋ではない。うちは最高級の天然石に、開運の印を刻む開運印鑑を取り扱っている。この道50年だ。ペーパレスだ押印レスだと叫ばれている昨今においても、うちの印鑑は人気である。高齢の方や事業をされている方に特に喜ばれる。
もともと、天然石というものは好きだった。地球の歴史が刻まれた神秘の石である。だけどわざわざ店に行くほどでもないし、手に取ろうともしなかった。アクセサリーのひとつだと思っていた。石とは無縁の生活だったのに、急に石に囲まれるようになった。水晶、アベンチュリン、ラピスラズリ。印鑑のかたちに切り出した石は存在感があった。

幼い頃、わたしは熱狂的なセーラームーンのオタクだった。その反動から、少し大きくなるとキラキラしたものを毛嫌いするようになった。おジャ魔女やプリキュアはどこか気持ち悪くて見なかった。あのキラキラな瞳が苦手だったようだ。キラキラはゴージャスで、品がないように見えた。ああいうものを好む女になってはいけないと自分を閉じ込めるようになった。
それがいい歳になって身近に美しいものがあると。あの頃の女児心が爆発するのである。キラキラ、かわいい!キラキラ、もっとほしい!わたしの目が女児アニメのごとくキラキラしてしまう。専ら天然石のショップやジュエリーショップを見てはうっとり過ごす日々だ。

そんなわたしが「これぞキラキラ!」とうなった石が、モアサナイトである。その姿はまるでダイヤのようだが、炭素でできているダイヤとは異なり炭化ケイ素という、地球上にはなかった全く新しい結晶なのだ。天然のモアサナイトはジュエリーに使用するのが禁じられているので、市場のモアサナイトは人工である。
モアサナイトは光を取り込むと、なんと虹色に輝くのだ。屈折率、散率ともにダイヤより高い。人工なのでエシカルかつサステナブル。今の時代にぴったりな石と言えるだろう。
あんまり強く輝くため、人によっては安っぽく見えてしまうかもしれない。だが、それがいい。女児は品があるかどうかより、キラキラ輝くかどうかが大事。むしろギラギラでもいい。
そんなギラギラのモアサナイトを、一粒シンプルに指輪にするのだ。6mmぐらいがいい。爪留めにするのだ。爪留めこそ指輪である。それがわたしの指に嵌ったら……右手の人差し指がいい。強く煌めくモアサナイト。その光がわたしの肌に落ち、わたしそのものが美しくなれるのではないだろうか。眺めるたびに王子様を待つお姫様のうたたねに溺れるのではないだろうか(わたしに王子様は来てくれませんでした)。
指輪の重ね付けもファッショナブルで憧れるが、モアサナイトをひとつ携えたらそれで満足してしまうかもしれない。あんまり手をがちゃがちゃ飾るよりも、潔くて美しいのではないだろうか、わたしの手には。

モアサナイトを指にお招きする妄想をもくもくさせながら、今日もわたしは働く。ダイヤに比べたら高いものじゃないが、わたしの小遣いだと少々足りない。そのためにしばらくは節制生活です。

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