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手塚治虫の理解不能の散らかりマンガ!影響受けすぎて暴走した美少女SFファンタジー!ラブコメロリコンの衝撃作「プライムローズ」

今回は美少女SFファンタジー「プライムローズ」をお届けいたします・
ラブコメロリコンマンガブームに乗っかって
手塚治虫が描いたあどけない少女が戦うSFバトルマンガ

ぶっちゃけ個人的にはあまり好きではない作品なのですが
なぜ好きになれないかを交えてご紹介していきたいと思います。

それではいってみましょう。

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本作は1982年7月から「週刊少年チャンピオン」にて連載された作品です。

あらすじは
いつの時代ともどこの世界ともわからない
ふたつの国家を中心に話が進みます。
ひとつは独裁軍事国家グロマン国と、
それに支配されている小国ククリット国

両国はお互いの平和維持のため人質交換として、
それぞれが幼い王子と王女を相手国に差し出します。
グロマン国からククリット国へと送られた王女こそ
この物語の主人公「プライムローズ」ことエミヤであります。

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それから16年の歳月が過ぎわがまま放題に育てられたエミヤが
男勝りのわんぱく美少女剣士として暴れまわるというのが大枠のストーリーであります。


非常に乱暴なあらすじですがまぁこんなもんでしょう(笑)

というのも

あらかじめお断りしておきますが個人的にはあまり好きではない作品です。
もちろん主観的な面もありますが作品全体的に見ても失敗作であると思います。どんな作品であれ絶対「好き嫌い」が存在してしまいますし
それはエンタメである以上必ずです。例外はありません。
そして個人的な主観に大いに左右されますが一般的に見ての作品の立ち位置
その時代の相対的な面も考慮してレビューしております。
そしてそれは
誰かを納得させるために配信しているわけではありませんので
あくまでもひとつのものさしとして参考にして頂ければと思います。


…さて
本作は結構、構想段階からとっ散らかった作品なのであります。
まず
最初はSF設定だったのですが編集から「SFは売れない」と言われ、原始時代の設定をぶっ込んでSFなのに古代遺跡があるような世界観になってます
SFを意識せずに描いたSFマンガという建付けになってますけど完全にSFでこの時点でもうこの作品の爆裂さが理解できるかと思います(笑)

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さらに構想の段階では
手塚先生いわく…
「二つの部族、二つの国の対立、小競り合い、暴動、革命
当時のソ連とポーランドみたいな関係を描いた」
と。
そして
「この部族のモデルはイースター島でそれと「風と共に去りぬ」みたいに運命にどういうふうに流されるか描きたい」と語っています。

もう何が何だか訳分かりません(笑)

続けて

「モーゼの「十戒」のイメージとか核戦争で文明が滅びて、
また中世に戻って文明がまた進んで、また滅びて砂漠になる。
未来とも過去ともわからないここら辺をボカした形でやりたい」

とも言っています。

「地殻変動現象も描きたいし、これらを当時の時代背景にあてはめ
一種の宇宙進化論的な形に持っていこうかな」

とも言っているんですね。
さすが手塚先生
構想が先走り過ぎてもはや何がしたいのか分かりません

手塚先生って乗りに乗ってるとアイデアが溢れ出過ぎちゃうんでたまにこういう暴走モードになってとっ散らかりまくるんで
少し病んでるくらいがちょうど良い具合になるんですけどねぇ…。


で本作の注目は
当時のラブコメロリコンマンガブームの影響で
嫉妬でおなじみの手塚先生が今回は1978年作、高橋留美子先生の「うる星やつら」に影響を受けて始まった作品と言われていることですね。

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「うる星やつら」の影響を受けているのはコスチュームを見れば一目瞭然なのですがこのロリコンブームというのが厄介なもので現代的に説明するとちょっとややこしいんで少し補足しておきますね。

まずこの時期の「ロリコン」というジャンルは現代のようにジャンルが細分化されていなかった頃の定義でありこの時はまだ非常に大まかな括りのまだ抽象的なジャンルであったという事を捉えておいてください。

そして
「ロリコン」というジャンルに対してエログロやアブノーマルのようなあぶないイメージを持っている方もおられるかも知れませんが当時は全然そんなことはなくマンガ表現として正統派なジャンルのひとつでした。

しかしその後、日本の犯罪史に残るある事件によってこのロリコンブームが一気に沈静化してしまいます。
それは犯人のシリアルキラーがこのロリコン好きということで
アニメ、マンガ業界に激震が走り以後ロリコンが非常に悪いイメージとして捉えられていくことになるんです
この辺りの相関関係というのは非常にデリケートな問題ですからあえて深堀しません。

ちなみにこの事件は手塚先生が亡くなる前年の事ですから
先生自身がこの後ロリコンというジャンルがどのような変遷を辿っていくのかは先生の知らないことであり今回の記事の中での文言はすべてこの事件前の価値観、イメージとしてお話させていただきますのでご了承ください。


…手塚先生は「うる星やつら」のラブコメブームに乗っかり
本作ではこれ見よがしに強調されたセクシースーツの美少女キャラを描いたのですが正直この手の作画は向いていないんですよね。

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これは先生の悪いところで新しいものが流行ると何でもかんでも対抗して
黙っちゃいられなくなってシャシャリ出てくるんですけど
このジャンルは正直苦手だし、言っちゃあなんですが時代遅れ感がハンパないです(笑)

ヒロインのセクシー描写も、ある意味では本作の見どころのひとつでもあるんですが、わざとらしくてむしろ全然エロくないですし
絵柄ももうすでにこの時期には手塚タッチが時代とマッチしなくなっていて
残念ながら見向きもされなくなっちゃっているんですよね。


そもそも何度か言っておりますが手塚漫画とはキャクター主導ではなく
ストーリー主導なのでキャラが暴走しちゃうと駄作になっちゃうんです。
半裸のセクシースーツを着た美少女が戦うSFファンタジーって
なんかそれだけで狙ってんなって感じするじゃないですか(笑)


現に連載が始まる前というのはいくつか案があってその中から
編集さんと方向性をチョイスしていくのですが
本作の場合は「これがやりたい」って手塚先生が前のめりでご指名して来たらしいので相当最初からやる気まんまんだった事が伺えます。

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当時『週刊少年チャンピオン』で手塚番(手塚治虫の担当編集者)をされていた伊藤さんのお話では
「ここでエミヤの裸を描いてもいいですか?」とか、
エロテッィックな描写において相談されていたことを明かしておられますので完全に手塚先生は意図的にセクシー描写を狙っていたことが分かります。

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でもこれがそもそもの逆効果なんですよ。
「おてんば娘のちょっとエロいコスチュームの恋愛SF活劇を楽しんでくれい」的な事を良かれと思ってストレートにやっちゃうからドン滑りするんですよね。(見て分かるようにセクシーというより完全にロリです)しかもロリというより手塚タッチがそもそも幼さを強調している(…というかセクシーが描けないといった方が正確)


つまりは手塚治虫って素が一番エロい(笑)

意図させた萌えより素の萌えの方がエロい
露出が多いとかそういうことするから余計おかしな方向にいっちゃう。

ファンに言わせれば
その前に描いていた三つ目の和登さんの方が十分エロいですよ。
忍ばせたエロでなく滲み出たエロこそが手塚治虫の本質なんです。


何を以てエロティックとみるかは説明が難しいですけど
あえて言うとディズニーに憧れた手塚タッチはエロいけど、
ディズニーはエロくないというった感じでしょうか。
同じような系統のものを描いていてもやはり手塚治虫が内に持つ「性」への変態性、漂うフェチズムの濃度と言えばいいんでしょうか
ムダにエロいのがそもそもの手塚タッチの特徴なんです。

だから変にイキんで露出の多いコスチューム着て暴れまわっても
逆にダサくなる。
だってどう足掻いても「うる星やつら」とか松本零士調のセクシーとは系統が違うんですから無理に寄せていかなくてもいいんですよ。


逆に言うとエロく描いてこの程度ですから(笑)

藤子F先生がセクシーを描くようなものなんですから
そこは純粋に抵抗してほしかったと思います。



というわけであまりストーリーの話もしてきませんでしたけど
とりわけ注目するところもなく手塚タッチも古く
全体的にとっ散らかった作品であるというのがボクの見立ててあります。

本作深く掘り下げると
ロリコンブームの立役者とみなされている吾妻ひでお先生との関連性であるとか同時期に連載していた内山亜紀先生の「あんどろトリオ」との相関関係とか(ロリの創始者と言われる吾妻ひでお先生が手塚治虫の影響を受けているので、むしろ手塚治虫がロリの始祖といっても過言ではない)

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活発な少女がちょっと恋に芽吹いていく描写など
手塚治虫的表現の見どころはあるにはあるんですけど全体的には
時代に対抗して粉砕された作品という立ち位置でしょうかね。

常に時代のトレンドを追い求め続けた天才作家のとっ散らかりマンガ
時代の変遷を感じるという意味では面白いと思いますのでぜひお手に取ってみてください。


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