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角の生えたラーメン屋


角の生えたラーメン屋 作/絵 LAIN.

ここは死後の世界、体から離れた魂が七日七晩かけて歩く一本道。その道の途中にあるラーメン屋。その店の名は「赤船屋」。
その名の通り真っ赤な船の形をしていて、木製のカウンター席には最大8人まで座れる。 


エリネス「らっしゃい!」

彼女はこの店を営む、エリネス・ナディアン。真っ赤なポニーテールに二本の牛の角を生やした女主人だ。

店に来たのは難病に掛かり40歳で亡くなった男性の魂。
「けほっけほっ...」
エリネス「おや、辛そうだね」
「えぇ、自分でもこんな早くに死ぬなんて驚きですよ」
エリネス「あんた名前は?」
山本「山本です」


エリネス「よし、まぁ座りな。お代はいらないよ」
山本「けほっ、もう生きてないとは言え、こんな状態でラーメンなんて食べれるかな...」
エリネス「そんなら塩ラーメンにしてみるかい?」

エリネスが角を牛から、くるんと巻かれた羊の角に形を変えると、グツグツと煮込まれたスープと黄金に輝く麺を合わせ、その上にネギやもやし、メンマにチャーシューといった具材を乗せた。ドンッとカウンターに置かれたどんぶりには見事な日の丸が描かれている。

山本「おぉ...」
エリネス「騙されたと思って食ってみな」
山本「い、いただきます」

山本は白く透き通ったスープに目を輝かせ、レンゲで一口飲み干した。その瞬間、山本の薄グレーの魂が、温かい日の光のように元気を取り戻した。

山本「さっぱりとしていて、それでいてダシが効いている。」
エリネス「塩ラーメンはスープの味が決め手だからね」
山本「ネギがシャキシャキで、チャーシューは分厚くて柔らかい...、麺は噛むのが惜しいのど越し」

山本は自分が病気だったことすら忘れ、一滴残らず塩ラーメンを飲み干すと、席を立った。

山本「ご馳走さまでした、僕はまた生まれ変わって新しい人生を生きてみます」
エリネス「あぁ、頑張っておいで」

その店は「赤船屋」。悩める魂が、ラーメンの暖かい湯気に釣られて集まる場所。

「...ご、ごめんください」
エリネス「らっしゃい!どうぞお掛けになって」
次にやってきたのはまだ若い女性の魂、名前は「育子」。詳しくは割愛するが、車の事故で亡くなったらしい。


育子「はぁ...死んじゃったんですね、私」
エリネス「そうね、何か目標とかあったのかい?」
育子「高校を卒業したらファッションデザイナーになるつもりだったんです。自信は無いけど...」
エリネス「自身無いの?それなら、濃い目に挑戦ね!」

エリネスの角が何本にも枝分かれした鹿の角に変わると、鍋から濃厚なスープの香りが広がった。

育子「こ、この匂い!」
エリネス「自信を着けたいなら、スタミナを補給しないとね」

そう言ってエリネスはとんこつラーメンを一杯、カウンターに乗せた。


エリネス「どうぞ!」
育子「い、いただきます」

スープが麺を包み、濃い目の味が口いっぱいに広がるラーメンだ。

育子「このスープ、全然臭みが無い...!」
エリネス「トッピングの紅しょうがは、とんこつの臭みを無くすの」
育子「このきくらげも、コリコリしてて美味しいです!」
エリネス「良かった!」

そうして、ゆっくりと濃厚なとんこつラーメンを味わった育子は、箸を置いて「ご馳走さま」を告げると次の人生へと向かって店を出ていった。

エリネス「あ、そろそろ材料が無くなる」

あの世市場からラーメンの材料を調達した帰り、威厳のあるお寺の横を通った。入り口には「閻魔」の文字が掘られ、それを見たエリネスが「ちっ」と舌打ちをして通り過ぎようとすると

閻魔「待たんか沙羅(さら)!!父親に挨拶もなしに帰る気か!」
エリネス「げっ、出た!」

ドスンッと大きなお腹を付きだし、目の前に現れたのは閻魔大王。死者を六道のいずれかに送る役目を持つ者であり、エリネス(沙羅)の父親だ。

閻魔「沙羅よ、お前は一体何をしておるのだ?」
エリネス「前から言ってるだろ!ラーメン屋!それから沙羅ってやめて!あたしはエリネス、エリネス・ナディアン」
閻魔「生意気ばかり言うな!いずれ、わしの後を継ぐのだから、とっとと寺に戻ってこい!」
エリネス「あたしはパパのやり方が嫌なの!魂がどこに向かうかは、自分で決めていいはずよ!」
閻魔「ええい、だまれ!くだらないラーメン屋など止めて、わしの言うことを聞け!」
エリネス「...くだらない?ラーメンが!?」
 
エリネスの角はぐんぐん伸びていき、うねりにうねった。プライドを傷つけられた彼女の怒りを物語るがごとく形を変えると、先端から真っ赤な火を燃やした。



閻魔「こ、コラ娘よ!何をするのだ!」
エリネス「決まってるわ!パパにもあたしのラーメンを味あわせてやる!!」

エリネスは鍋に火を付け、鳳凰(ほうおう)の鶏ガラでダシを取り、醤油ベースのスープに自慢の具材を入れていった。

エリネス「はぁ...はぁ」
閻魔「な、なんと綺麗な」
自然と声が出てしまい咳払いで誤魔化す。
閻魔「ふんっ、まぁ一応食べてやろう……う、上手すぎる!!!」

ラーメンほど現世で愛されている料理もありませんよね。生きていて、悩んだらラーメンを一杯!あなたの好きなラーメンは何ですか?

エリネス「しまった!閉店の札をかけるの忘れてた!」

「赤船屋」はあの世で絶賛、開業中~

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