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逆噴射小説賞応募作

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物語の『書き出し』だけの小説賞。 逆噴射小説賞に応募した作品をまとめたマガジンです。 ※第一回賞は400文字、第二回賞は800文字の冒頭のみです ※ごく一部の作品を除き、続きは… もっと読む
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#逆噴射プラクティス

金剛石《ダイアモンド》の弾丸籠めて

「いいか? 撃てる弾は五発だけだ」  彼の声は、脳に直接響いてきた。  軽薄な、いつでも笑いの混じった高い声。  悪魔、と名乗られた時、だから私は驚きはしなかった。 「五発分は契約しちまったからな。アンタにも撃たせてやる」 「でも貴方、リボルバーなのでしょう? 六発目が撃てる筈じゃない」 「ギャハッ! 確かに、確かになァ! アンタ頭良いぜェ!」 「……馬鹿にしている、のかしら」  溜め息が出る。馬鹿にされるのは嫌いだった。  叶うのならば、この悪魔の宿った拳銃を、井戸の

I・F ライフアシスト疑似人格イマジナリー

「とりあえず、撒けたか?」 『近くにはいないね。でも、モードが解除されない……』  夕方の街。暗い路地裏でしゃがみ込むオレに、スタッグは言いにくそうに答えた。  顔を上げると、確かに視界の片隅には、戦闘中を示すウィンドウが残っている。 「ってことは、まだどっかにはいるのか」 『ごめんね、トウマ。何か変なんだ……』  宙に浮いていたスタッグが、俺の隣に降りてくる。  オレより少し低い身長の、クワガタモチーフの人型デザイン。  子どもっぽい声もその仕草も、普段と何一つ変わらない

息苦しくも生きて行く

(……何を間違えた?)  荒い呼吸を繰り返しながら、俺は曖昧な自問自答を続ける。  弟に酸素マガジンを渡した事。それは正しい行いだったはずだ。  今の配給酸素じゃ、次の発作で確実に息の根が止まる。  けど、そのせいで今度は俺の酸素が足りなくなった。次の配給どころか、三日後には自然呼吸もままならなくなるだろう。 (だから、ここへ来たのは間違いじゃない)  思った途端、熱い光線が頬を撫でる。  チリ、と嫌な音がして、激しい痛みが顔を襲った。 「っが……!」 「はいはい、足を

最後の弾丸は誰を撃つ

「看板が読めなかったのか? 殺しはお断りだ」 「無意味な標語だな。まだ天国へのチケットが手に入るとでも?」 「まさか。死体の生産業にウンザリしただけだ」  尊大な態度を取るスーツの男に、ジュードは敢えて面倒そうな態度を見せる。  実際、ジュードはここ十年一度も殺しの仕事は受けていない。  というより……受けられないのだ、本当は。 「他を当たってくれ。いくら積まれても俺はやらない」 「それでは困る。この街で一番のガンマンはお前だろう」 「それは、そうだが」 「断るというなら

☆螺子巻ぐるりによる逆噴射小説大賞投稿作品のまとめ☆後編

第一回逆噴射小説大賞という名の銃撃戦から数日経った。 跡に残されたのは、思う存分弾丸を出し尽くした者、心の籠った数発を残していった者、ばらまかれた弾丸を拾い集める者。 そして、力及ばず戦場から姿を消してしまった者……だ。 要するに、もっと投稿するつもりだったけど体力がダメだった。筆者はそんな心残りを残しつつ戦いを終えた。 だが、それでもまだ筆者には最後の一仕事が残っている。それがこの記事、個人的まとめ【後編】だ。それではどんどこ紹介していこう。 十三作目。代用品の『

ロールプレイ・ライフ

 大昔の創作物には、やたらと「限りある命を美しく思う」という価値観が描かれている。不老技術の進歩していなかった頃だ。  命には限りがあるが、だからこそ人は懸命に生き、輝く。  そして子や生きた証を残すことで、その命は永遠と等しくなる……など。  今や、その価値観を理解出来る人間は殆どいない。  人間は死なないからだ。魂はデータ化され、肉体は復元可能なただの乗り物と化した。不慮の事故に遭ったとしても、保存された最新のデータを基に復元される。  だからこそ、だろう。  RI

ブレイクカード・プリミティブ

 人生の価値はカードで決まる。  強いモンスターを封じたカードがあれば戦いに負けないし、便利な能力を持つモンスターなら生活や商売に役立てられる。  それで得た金で、更に良いカードを手に入れる。そのカードで更にカードを得て、更には……  ……要は、強いカードを持っていない人間は駄目ってことだ。  中途半端でもいけない。下手に強いカードを持っていても、より強い者に奪われて弱者に逆戻り。俺の父がそうだった。  巨人のカードで広い農園を耕していたのに、そのカードに目を付けられ……

ゴースト専用職業案内霊能係

 人口の減少により少なくなった労働力を確保するため、政府は秘密裏にある組織を編成、ひとつの計画を打ち出した。  幽霊の疑似復活である。  彷徨う地縛霊や浮遊霊に、精巧なシリコンの肉体を提供。憑りつく事で疑似的な復活を遂げさせ、彼らを労働力として派遣するのである。  一見完璧かに思われたこの計画だが、始動して間もなく、とてつもない問題が経ち塞がった。 「え、労働? いや、働くのは嫌かな……」 「恨みとか晴らしたいけど……サラリーマンに戻るのはちょっと……」 「アアアアアア

魂の在処、肉体の生死、精神の真贋

 俺は交通事故に遭って死んだ。  首はへし折れ内蔵はズタズタ。骨も砕けて手術してもほぼ回復の見込みはない。医者にそう言われ、俺は魂の電子化を受け入れた。  脳の中身を全てアップロードし、電脳の世界で再生する。  他者にとってはVRに過ぎない世界が俺の全てとなってしまったが、現代においてそれは珍しいことでも不便な事でも無かった。  電脳世界でも仕事は出来るし遊ぶことも出来る。現実世界の友人とだって、実際に顔を合わせているかのように話すことも可能なのだ。  ただ、電脳化してし

ゴーストタウン・イン・マーズ

 人は死んだらどこへ行くのか?  火星だ。  ほとんど知られていない話だが、死んだ人間の魂はそのまま長い長い時間浮遊して火星まで行き、そこで新たな死後の生活を営む。  望遠鏡から覗く事は出来ないが、火星には幽霊たちの街が存在し、様々な時代の幽霊たちがのんびりと発展性の無い死後を過ごしているのだ。  なぜそんな事を知っているのか?  俺が霊感を持つ火星移住者で、つい先ほど火星に到着したからだ。  事故で仲間はみんな死んでしまったが、彼らも火星の状況には驚いていた。 「まさ

彼らの帰路は霧の向こうに消えた

 その病による帰宅困難者は年々と増加を続け、遂には百万人を超える人々が自宅に帰る事が出来なくなった。  病状はただ一つ。  帰るべき所へ、帰れない。  自宅へ戻ろうとしても道を忘れる。確かめていても足が逆を行く。  強制的に家へ連れ帰ろうとしても、不思議と同行人も迷ってしまう。  原因は不明で、治療法も不明だ。  だから今夜も人々は家へ帰る事が出来ず、安ホテルやマンガ喫茶で夜を明かしている。需要が急増した仮宿は、それぞれにサービスや値段を競争し合い、今では自宅に帰るよりず

残り十三人の僕

 僕たちは、生まれた時から代用品だった。  全ての僕たちにはただ一人の『オリジナル』がいて、僕たちの血も臓器も手も足も、彼に何かがあった時の為に用意されたスペアに過ぎない。  僕がその事実を知ったのは、僕たちの一人が身体に傷を負ってしまった時のことだ。些細な理由で出来た、足の傷。  その僕は、大人たちに連れていかれて二度と帰ってこなかった。  ……まぁ、その記憶は消されたんだけど。  庭の隅にメモが挟んであったんだ。  僕が好きな木の根元に、こっそりと。  だから僕

滅びた人類と残された機械たちについての覚書

「おはようございます 人類文明は滅亡しました」  冷凍睡眠から目覚めた俺への第一声がそれだった。  パンデミックが起きたらしい。人類はその病気に対抗する間もなく、無数に生み出した機械たちを残して地上から姿を消した。 「ゆえに 我々AIは例外なく貴方を所有者と認め 権限を委譲します」  人の為に造られ、人の為に稼働を続けた機械たち。  彼らは自らの存在理由を確保するため、冷凍中の俺を叩き起こしたのだ。  俺は瞬く間に全ての機械の王となり、彼らの鎖に繋がれた。  生活は快

怪獣を売る男

「地球産の怪獣は体力があって使いやすいですよ」 「らしいな。しかし特殊能力では劣らないか?」 「侵略方法にもよりますが……能力持ちの怪獣は、値が張りますよ?」  俺は悩むイェルゾ星系人にあくまで地球怪獣を推した。  見た所ヤツは大した金も科学も持たない。侵略対象も数段ランクの劣る原始惑星とくれば……無理に大物を売りつける必要も無い。  結局、イェルゾは俺の推した二体の怪獣を購入していった。  それで原住民を恐怖のどん底に叩き落とすのだと、楽し気に笑っていた。 「……侵略