見出し画像

「仮面ライダージオウOver Quartzer」を見て平成を終わらせた

祝え!平成仮面ライダーの大いなる幕引きを!
もうとっくに令和の時代だが、そんな事は関係ない。
最後の平成ライダーであるジオウが放送している限り、未だに平成は終わっていない。そう思い知らしらされ、そして同時に平成という時代に一つの終止符を叩きつけられた。

何の話か。
「劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer」の話である。

仮面ライダージオウは平成仮面ライダー20周年記念作であり、これまでのライダーたちとクロスオーバーするその作風は、色々と言われつつ平成ライダーらしいお祭り感を持って受け入れられている、と思う。
冬の劇場版「平成ジェネレーションズFOREVER」では、メタ的な視点を盛り込みつつ、歴代の平成ライダーたちを一つの映画に集合させ、多くの観客に感動を与えた。

そんな作品の集大成と言えるのが、この夏の劇場版Over Quartzer……なのだが……

少し、様子が、おかしい。
いや、それさえもいつもの事と言えばそうなのだけれど。
にしてもなんだろう。えっ、ヘボット?だれか今ヘボットって言いました?

上映開始後、不穏な評判や意外なゲストの存在が私の耳に入った。
出来るだけネタバレは避けたいと思っていた所だが、なんか想定とは少しズレた位置に本作はあるようだ。

そしてTV本編中に流れたCM。
「お前たちの平成って 醜くないか?」

大体わかった。
少ない情報を繋ぎ合わせ、ようやく内容についての想定を立てた私がOver Quartzerを実際に観たのは、昨日の事だった。

思っていた以上だった。

「そこまで言われちゃしょうがねぇけど、完全には許さねぇからな!」
観終えて、時間が経って、今の感想はこれだ。
怒りではなく。むしろ大いに楽しい時間を過ごさせてもらって満足はしているし、今も若干ニヤつきを抑えられないところもあるのだが、別にお前……許すつもりはねぇんだからな!!

果たして何が起こったのか?
感想を述べる前に、おおむねの流れを説明する。
言うまでも無くネタバレ満載なので、何も知らず観たいという方は視聴後まで読まないことをお勧めする。

不穏ながらも【物語の形】を保っていた前半

物語は、常盤ソウゴがゼロワンの夢を観るところから始まる。
「ジオウが終わって、新しい仮面ライダーが始まるんだ」
いきなりメタい認識をぶつけられて戸惑う観客。そうこうしている内に、ソウゴの元にあのクリム・スタインベルトがコンタクトを取って来る。

クリムの祖先を守るため、戦国時代、長篠の合戦が行われるその場所へと時間遡行するソウゴたち。
しかしそこにいた織田信長は、後世のイメージとは全く違っていて……

コメディみの強い雰囲気で行われる戦国時代パート。
ゲイツを替え玉にしようとする信長や、ソウゴたちの語る魔王のイメージを信長の伝記に利用しようとする忍者。
そして語られる、『歴史なんてものは後世の人間が勝手にイメージしたものに過ぎない』『そこにいる人間は、ただその瞬間瞬間の現在を生きている』というメッセージ。

それは、最高最善の魔王を目指すソウゴの存在にも重なり、けれど逢魔降臨暦を手にするウォズは複雑な表情……
果たしてそれが意味する事とは?

放たれるギャグ描写の数々は観客の心にも届いており、劇場では何度も笑いが起きていたりもした。したのだが……
「見ている人が混乱してしまうからね」
うん、やっぱりメタ濃度が高い。一体どうしたのだろう。
不思議に思いつつも、騎馬戦合戦をめちゃめちゃにするロボバトルで思考はリセットされる。ところで、弾丸の勇者だからボウガン使ったのかな。流石にそんなことはないかな。

そんなこんなで形の上ではすべてが解決した戦国パート。
クリムと剛はソウゴにウォッチを託し……

その瞬間から、全ての終わりが始まった。

【全てを破壊】する後半の開始

常盤ソウゴが全てのウォッチを継承した事により、全平成ライダーの力は奪われ、唐突に魔王の戴冠式が行われることとなる。

おかしい。何かがおかしい。
ソウゴは戸惑いながらも、用意された玉座へと歩を進めていく。
だが、その先にいたのは……

そして真実が語られる。
常盤ソウゴは、『普通の高校生』である主人公が困難の末に魔王となるという『用意された物語』を実行するために用意された、替え玉に過ぎないと。

「平成ライダーが悪いんだ」
「設定も世界観もバラバラで苦情も多くてね……」

ウォズもまた、その『物語』を用意し導くための存在……管理者集団クォーツァーの一員であった。

そしてソウゴを倒したクォーツァーの真なる魔王、常盤SOUGO=仮面ライダーバールクスは、平成という時代のリセットを敢行する。

天空のゲートに吸い込まれて行く平成生まれの人間たち。

用済みになったソウゴは牢屋に入れられ、全てを失う。
失意のソウゴはけれど、牢屋で一人の男と出会う。

『仮面ライダーとして選ばれなかった』その男……木梨猛。

仮面ノリダー。
個人的には世代じゃないからよく知らないものの、その存在は知っている。要するに仮面ライダーの非公式パロディコントキャラクター

木梨猛は「自分は仮面ライダーとして選ばれなかった」「だからずっとここ(牢屋)にいる」とソウゴに告げながら、「仮面ライダーとして選ばれた」彼を、紛れもなく本物の一人であると鼓舞する。

そんな話があるか!?

仮面ノリダー、某非公認戦隊とかと違ってマジモンの非公認存在であり、彼は結局自分の正体を口にすることなく終わる。
けれどその言葉はソウゴの心に火をつけ、そして記憶を失ったはずの剛たちがソウゴを助けに訪れる。

剛がライドウォッチを託したのは、ソウゴがジオウだからではない。
常盤ソウゴという人間に可能性を見出したからこそなのだ。

再びクォーツァーの前に立ちふさがるソウゴに、SOUGOは語る。
「お前たちの平成って醜くないか?」
けれどソウゴはそんな彼の言葉を否定する。
たとえどんなに凸凹でも、それはその瞬間瞬間を必死に生きた証拠なのだと。

後世のイメージのように、キレイで正しくはないかもしれない。
期待外れで醜いかもしれない。けれどそれがその現在を生き抜いた証だと語るそれは、『イメージと違う織田信長』を肯定した常盤ソウゴの言としてハッキリと重みを持って放たれる。

作り物の歴史。替え玉。タイムスリップ。ざっくり渡されたライドウォッチ。全ての前半の要素がここへ来て後半の物語に妙な説得力を持たせつつ、第四の壁が崩れ去った物語の中、消えた筈の平成ライダーたちが記録の中から蘇っていく……!

【全てを繋ぐ】クライマックス

そこからはメチャクチャかつダイナミックな戦いの始まりである。

クォーツァーが作ろうとする世界の枠に収まらない平成ライダーは世界に溢れ、舞台から生まれた斬月カチドキ、悪い冗談みたいなVシネライダー仮面戦隊ゴライダー、(よく考えたらアンタ令和だろ)仮面ライダーブレン、まさかまさかの登場を果たし芳醇の時を迎えた仮面ライダーG漫画版仮面ライダークウガなど、平成のライダーでありながらジオウの枠の中に納められなかった数多の存在が、一つのスクリーンの中で戦い始める。

仮面ノリダーの件だけは知ってしまっていた私だが、この辺りの情報は全く流れてこなかったのでビビり散らかし、Gの登場に至っては異常な興奮を持ってスクリーンにくぎ付けとなってしまった。
ああ!にしても舞台斬月見ておけば良かった!!!!

一度は敗れたジオウ自身も、崩れつつある世界の狭間でオーマジオウたる未来の自分と出会い、『なぜ自分が王様になりたかったのか?』という問いを投げかけられる。
甦る幼少の記憶。そしてソウゴは思い出す。自分が王様になりたかったのは、そう定められたからではない。みんなを幸せにしたかったからだ、と。

『作られた物語』の存在であるソウゴは、その時『自らの存在意義』を自覚し、自分自身の魔王の力=仮面ライダージオウ・オーマフォームへと変身を果たす。

全ての平成ライダーたちは最終フォームへと姿を変え、Jの力とバイオライダーの力を取り込み無敵と化したバールクスに立ち向かう。

……待って! その板はなに!?
その見るからにおかしな板は一体!?

「平成仮面ライダーキック!!」

タイトルロゴが出たぁぁぁぁぁぁ!!
20周年記念ロゴも出たぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??

『    平    成    』

やった! やりやがった!
平成という元号をその身に喰らい爆散するバールクス!
会場に響く笑い声! 笑いつつも困惑する。これはギャグなのか!?
いや真面目だ! あからさまにネタだけど本人たちはオーマジメだ!

………………
そして常盤ソウゴは王様になった、らしい。
流れるエンドロール。楽し気なパーティソング。
異常に高められたテンションは、けれど物語を振り返るような場面集でゆっくりと落ち着かされていく。
そしてエンドロール後、ついに活躍の瞬間を見せるゼロワン……

「あー……平成ライダー終わったんだなぁ……」
「色々あったけど、それが平成ライダーだったなぁ……」

新時代の風を身に浴びながら、不意にそんな感慨に浸らせられてしまう。

『仮面ライダー 令和 ザ・ファーストジェネレーション!!』

……。
…………さては反省してないな!?
いやしてるとも思ってなかったけどな!
クソッタレ! これからもよろしくな!!!!

ディケイドからジオウへ

あらすじ紹介してるだけでもテンションが異常になる異常な映画だった。

けれども実の所、前半の戦国フェイズで全ての伏線というか、理解への補助線は引かれているんだよね、悪質なことに。

歴史は都合のいい作り物だし、魔王には替え玉がいるし、本当に大切なのは後からみた歴史よりもその瞬間である。
その瞬間瞬間が結果として未来(クリム)に繋がり、未来には未来の今がある。

意味が分からない映画だけど、その補助線があるから、全ての理屈が崩壊しているわけじゃない。初っ端のソウゴのメタ発言とかで、作品自体のリアリティラインもギリギリまで下げられているから、抵抗感が薄れていく。
匠の手によるトンデモ映画なんですよね、これ。悪質なことに。
冬映画でも「創作物としての仮面ライダー」が登場しているから、そこのラインまでは問題の無い作りになっている。

その上で出てくるノリダーとか舞台斬月とか漫画クウガとかで思考領域を破壊されるのだけれど、それ自体も『平成の仮面ライダー』を語るうえで外せない要素、と言える。
ドラゴンナイトも映らなかっただけでどこかにいたのか海外に平成云々は通用しないのか、それは分からない。「結果は手段を正当化しない」と言われてしまったら無差別爆撃になってしまうのだけれど。

ところで、『作り物の物語』を押し付けられたうえで『全てを失ってしまった常盤ソウゴ』を見て、脳裏に浮かんだものがある。

「ディケイドに物語はありません」

平成ライダー10周年の際に放たれたこのセリフ。
門矢士こと仮面ライダーには、『個々の世界観と設定を持つ仮面ライダーの世界を破壊する』という使命だけがあり、物語は存在しなかった。
けれど士の旅は、リマジライダーたちの記憶の中に確かに存在していた。メタ的に言えば、ディケイドを視聴していたファンたちの記憶の中にも。

そして門矢士は復活を遂げ、以降も仮面ライダーたちの世界を回り続け……仮面ライダージオウの世界にも、やって来た。

TV本編がどうなるのか、記事を書いている現在では分からないが……彼は度々「この世界を破壊すべきかどうか」を見定めていると口にする。

結果として、士が破壊を選択していない(であろう)ジオウの世界は、クォーツァーによる作り事の世界だった。
けれどその世界の中で、本来であれば意味のない常盤ソウゴという一人の人間の中に意味が生まれ、その想いがクォーツァーによる平成の改変を防いだ。もしジオウの世界がクォーツァーによって好き放題される運命にあれば、ディケイドは『この世界の破壊』を選択していたのだろうか?

ディケイドもジオウも、ある意味では東映の勝手な都合に振り回されるための存在であった。記念作としてまとめることの困難なシリーズを一つにまとめるための、舞台装置。

そんな舞台装置でさえ、放送されて道を歩むにしたがって、彼ら自身の意味と意義を獲得していく。
それが平成ライダーなのだ、というのがこの映画の趣旨であったようにも、私は感じる。
つまり仮面ライダージオウは、ある側面でディケイドの再現であり、ディケイドの更に先に進んだ答えなのだと、そう理解した。

ところで、ディケイドがジオウ本編に出た時、一つの考えが頭によぎった人間も多くいるのではないだろうか?

常盤ソウゴリ・イマジネーションライダーなのではないか。

根拠はない。名前がカタカナであるということ以外。
結果として、ソウゴがリマジライダーだったという話はどこにも描かれていないし、多分事実ではない。
けれど、ISSA演じる本当の魔王、常盤SOUGOの存在によって、その空想にある種の味が生まれてきた。
ディケイドという物語の中で、破壊され一つにまとめられるために生まれたリマジライダー。常盤ソウゴという存在も、それらとそう違いはないのではないか、という感覚だ。

『物語の無い物語』を背負わされた10周年と、『偽りの物語』を背負わされ、はく奪されようとした20周年。

10年の歳月を経て、再び全てを破壊し、全てを繋ごうとした結果が仮面ライダージオウなのだ……と考えると、なかなか感慨深いものもあるだろう。

終わりに

私は平成ライダーが好きだ。

とはいえ、その全てを肯定するつもりは毛頭ない。
ちょっとこれは、という展開はいくつもあったし、春の香りがしたら徹底的に避けるタイプのライダーファンだ。

それでも、それこそが平成ライダーなのだと言われてしまえば、その通りだと言わざるを得ない。幼少の頃から好きだった平成仮面ライダーは、そういう存在なのだ。

全ては肯定しない。
その凸凹道を、製作側が肯定したとしても、全てを認めるつもりはない。
けれど、それが平成ライダーであるというのは間違いのない事実だし、私は結局、そんな平成ライダーをずっと好きなままで。

楽しかったな、と思う。
意味が分からなくて、めちゃくちゃで。
だけど時として心の底が熱くなって。

「平成ジェネレーションズ」と「Over Quartzer」の二本によって、個人的な平成ライダーへの想いは全て吐き出されたような感覚がある。
それによってようやく、平成ライダーの終わりを納得し、実感も出来た。

めっちゃ思う所はあるんだけど。
平成ライダー、楽しかった。ありがとう。

【終わり】





この記事が参加している募集

コンテンツ会議

サポートしていただくと、とても喜びます! 更に文章排出力が強化される可能性が高いです!