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【小説】ブルーム・フェザー #1

 すたたたた……

 空気を軽く叩きながら、機械の小鳥は羽ばたいた。
 激しく翼を振りつつも、涼しい顔で小鳥はどこかを見つめている。

「ねっ、かわいいでしょ? わたしのブルームフェザー」

 肩にも止まるんだよぉ、とクラスメイトのミナは言う。
 とんとん、とミナが指で右の肩を示すと、確かに小鳥はそこに止まった。
『ちゅん』
 そして首を傾げて、一鳴き。
「名前はサフランっていうんだー」
「……へぇ、そっか」
 わたしは笑顔で答えた。
 あんまり、興味はないんだけど。

 ブルームフェザー。機械で出来た小鳥のおもちゃ。
 軽くてよく飛んで、小さくて可愛くて、少しばかり人の言葉が分かる、とか。
 そういうのがウケて、この頃、この奇妙なペットが流行り出している。

「ねぇ、ツバサは買わないの、ブルームフェザー。可愛いよー?」
「ミナ、ツバサはブルームフェザーは――」
 サフランのクチバシを撫でながら話すミナ。小学校からの友達のリョウコが答えようとするけれど、わたしはそれを目で止めて、自分の口で言う。
「わたしは、そういうのあんまりかな」
「え~。みんなで写真とか撮れればかわいいかな、って思ったのに」
「ごめんごめん」
 笑ってごまかして、その場はどうにか話を流した。
 興味が無いってことにすれば、ミナもそれ以上無理強いはしない。
 内心ほっと息をついて、リョウコと一瞬顔を合わせる。
 事情を知っているリョウコだけは、大丈夫? って目でわたしを見るけど。
 まぁ、これくらいは大丈夫。
 下手に理由を話して騒がれるより、受け流した方がずっと楽だし。
「じゃあ、今度サフランの写真送ってもいい?」
「えっ。あー……うん、いいけど」
 それはちょっと困るかも。
 ちらっとわたしは、サフランと呼ばれたおもちゃの鳥を見る。
 羽根の色は、花の名前と同じ薄い紫。
 顔立ちはスズメに似て、丸くてどこかむっくりしてる。
 確かに、ミナの好きそうな……っていうか、人気の出そうな見た目だ。

 だけど、わたしは。
 この機械が、どうしても好きになれない。

「そろそろ授業始まるよ。それ、しまわないと」
「あっそっか。ごめんねサフラン、待っててね~」

 ミナは機械の鳥に声を掛けて、机の中に入るよう指示する。
 薄紫のそれはミナの言う事に大人しく従って、ちゅんと鳴いて中に隠れた。
 わたしはほっと息を吐き、思わずリョウコに目を向ける。
 しょうがないなぁという雰囲気で、リョウコは小さくうなづいた。
(ありがと)
 口だけを動かして伝えると、リョウコは手をひらひらさせて自分の席に戻っていく。
 多分、リョウコは分かってくれただろう。
 あの話を、わざわざミナにする気はないって。
 どころか、学校でその話題を出すのも、わたしは出来るだけ避けたいんだ。
 ブルームフェザーを作ったのが、実はわたしのお母さんで。
 そのお母さんが、開発の最終段階で倒れて、そのまま死んでしまったことは。

(言って、騒がれたくない)
 可哀そうとも、すごいとも、誰にも何も言ってほしくない。
 もう十か月は過ぎたんだ。いい加減、忘れて前を向きたいんだ。
(だから言わない。知らないフリをする)
 ブルームフェザーとは関わらない。
 わたしを放って開発したおもちゃなんて、どうでもいい。

 教室で見ても、廊下で見ても、帰り道、小学生の女の子が連れているのを見ても。
 テレビで見ても、ネットの広告で見ても、家電量販店の店頭で見ても。
 見なかったことにする。だってお母さんは、わたしを見ないでそれを作ったんだから。

 *

「ただいまぁ」
「いらっしゃ……ってツバサか。裏口から入りなよ」
「こっちの方が近いんだもん」

 学校が終わって、家に帰る。
 お父さんはカフェを経営していて、日中はほとんど店の方にいる。
 わたしは常連のお客さん達にあいさつしてから、カウンターを抜けて階段を上がった。
 すれ違い際のコーヒーの匂いでわたしの気分は落ち着いて、部屋に入るなり息を吐く。
(まさか、ミナがブルームフェザーを買うとは……)
 中学に上がってから仲良くなったミナは、わたしのお母さんの事を知らない。
 だから、ミナがブルームフェザーを買うのも、可愛がるのも、全然悪いことじゃない。
 これはわたしの問題だ。小さい頃からの友達のリョウコは事情を知ってるけど、わたしだけの問題であることに、変わりはない。
(ガマンすればそれでいい)
 話さないってことは、そういうことだ。
 説明もしないのに「ブルームフェザーを見せるのやめて」なんて、言えるわけない。
 うん、と自分を納得させて、わたしはカバンを放ってベッドに倒れこむ。
 やる事はまだあったけど、今日はちょっと眠かった。
 制服も着替えないまま、わたしはコトンと意識を手放して……

 少しの間、夢を見た。
 昔の夢だ、と思う。お母さんとコーヒーを飲む夢。
 それから、散歩する夢。何かを探しに行ったんだ。
 でも見つける前に、お母さんはわたしから手を離す。
 場面が変わって、時間が経って、お母さんはどこにもいない。
 仕事だ。忙しいんだって、お父さんが言っていて。
 ツバサのためなんだよ、とお父さんは言うけれど、わたしには何も分からない。
 お母さんがいてくれた方が、いい。そう思ったけど、言えなかった。
 言えないまま、お母さんは倒れた。
 過労もあるけど、原因は心臓の病気。
 手術も出来ないまま、あっさりとお母さんはどこかへ消えてしまって。
(……ああ、いやだ)
 どうしてこんな夢を観るんだろう。
 早く忘れてしまいたいのに。もう十分時間も経ったと思うのに。
 目を、覚ましたい。夢の中で強く思うと、こんこんと音がした。
 なんだろう、と思って音の方を向く。

 ……こんこん。

「ふぁっ?」
 天井。……どうやら起きたみたいだ。
 ぼんやりした頭で時計を見ると、もう夜の七時過ぎ。
 流石に寝すぎたなぁ、なんて考えていると……こん、こん。
 また、音がした。夢で聞いた音と同じ音。

 ……こん、こん。

 音は窓から聞こえていた。
 でもここ、二階なんだけど。
 いやぁな予感がしながらも、わたしはぐったりした体で立ち上がる。
 もう中学生だ。お化けを怖がる年じゃない。
 どうせ、虫かなんかがぶつかってきてる音だろう。
 自分に言い聞かせるように考えながら、わたしはシャッとカーテンを引く。

 ……こん、こん。

「えぇ……?」
 鳥がいた。
 それも、機械の。
「ブルームフェザー……だよね、これ」
『ピッピッピッ!』
 つぶやくと、機械の鳥は高い声で三回鳴いた。
 それからもう一回、こんこんと窓を叩く。
 入れろってことかな。面倒な気配を感じつつ、わたしは一応窓を開ける。
『ピィィー』
 ブルームフェザーは当然のように入ってきた。
 鳴きながら、わたしの学習机の上にちょこんと降り立つ。
 青い翼に、いかにも小鳥という感じの小さな体型。
 ミナのサフランと比べればすっきりしていて、クチバシもちょっと長い。
 だからといって、これがどんな鳥かは分からないけど。
「……ん? 何か持ってる……」
『ピッ』
 よく見れば、ブルームフェザーは足に何やらカードのようなものを持っていた。
 わたしがそれに気づくやいなや、機械の小鳥はクチバシでカードをくわえ、ぺしんと机の上に置きなおす。
『ピィー』
「読めばいいの……?」
 恐る恐るカードを手に取ると、そこには手書きで文字が書かれていた。
「……えっ」
 その文字を見て、わたしは息を呑む。

『ツバサへ
 この子の名前は、チコです。』

 カードの真ん中より少し上に書かれた、チコという言葉はこの小鳥の名前だろう。
 それよりも。わたしへ、と書かれたこの文字に、わたしは見覚えがあった。

「……お母さん?」

 頭が、真っ白になる。
 この文字は、どうみてもわたしのお母さんが書いた文字だったから。

 *

「リョウコ、ちょっと相談があるんだけど」
「いいけど、なに?」
 次の日。わたしはこっそりリョウコを呼び出して、隠して連れてきたチコを見せる。
 本当は学校に持って来たくはなかったけど、幸いなことに、チコは授業中ずっと大人しくしてくれていた。人の言葉が分かる、っていうのは本当なんだろう。
「ツバサ、これ……」
「昨日、知り合いにもらったんだ」
「もらった、ねぇ……」
『ピィ!』
 わたしが頷くと、へぇとリョウコは驚いて、手の平の上のチコをじっと見る。
 それから目線をわたしに向けて、「それで?」と相談の内容を問う。
「この子、どうするつもりなの?」
「それなんだけど……リョウコ、預かってくれない?」
「ははぁ。やっぱそうだと思った」
 リョウコは笑って、チコに指を差し出した。
 チコは彼女の指を見て、ふいっとそっぽを向く。
「この子は、あたしに興味なさそうだね」
「ダメかな?」
「んー、力にはなりたいけど……」
 うち、弟二人いるしとリョウコは言う。
 二人ともまだ小さくて、モノの扱いが少し乱暴なんだそうだ。
「だからね、うちで預かるのは怖いかなー」
「……そっか。ごめん」
「いいって。でも、本当に手放したいの?」
 事情は分かんないけどさ、とリョウコはわたしに言う。
 チコがお母さんの字が書かれたカードを持っていたことは、伝えていなかった。
 伝えたら、絶対に預かってくれない気がして。
「……わたしが持ってても、仕方ないじゃん?」
 チコが、何かの理由で私に送られたものだとは分かっていた。
 でも、それを素直に受け取る気持ちは、わたしの中に無い。
 今更こんなものを持たされたって、困るだけだ。
「だからせめて、誰か良さげな人に預けられたらなーって思ったんだけど」
「ふぅん。……じゃあさ、フェザー部に行ってみたら?」
「なにそれ。ブルームフェザーの部活?」
「そうそう。ああ、やっぱツバサ知らないんだ」
 あるんだよ、とリョウコはわたしに教えてくれた。
 部室棟の一室に、ブルームフェザーを扱う部活があるらしい。
 そこでなら、もしかしたらチコを預かってくれるかもしれない。
「確実とは言えないけど、そこなら大事にしてくれそうじゃない?」
「そうなんだ。ありがと、リョウコ」
「教えただけじゃん。……ついていこっか?」
「大丈夫。リョウコ、陸上部忙しいじゃん」
「んー、まぁね。ツバサがいいならいいけど」
 わたしを心配してくれるリョウコに、申し訳ない気持ちになる。
 実際、ブルームフェザーに関わりたくはなかった。
 でも別に、ブルームフェザーが好きな人に、わたしは特別な感情を持ってはいない。
 だから、ちょっと覗くくらいなら平気、のはずだ。
(……勧誘されたら、どう言って断ろうか)
 問題があるとしたら、それくらい。
 お店の手伝いがある、とか言えば平気かな?
 まぁ、わたしはあんまりカフェの手伝いしてないんだけど。

 *

 放課後、わたしは教えてもらった場所に向かった。
 部室棟の扉には、『ブルームフェザー部』と書かれた紙が貼りつけられている。
「本当にあるんだ」
 ブルームフェザーの部活って、何をするんだろう。
 わたしがカバンの口を開けると、チコがきょろきょろと周りを見ながら出てくる。
 ミナの真似をして、とんとんと指でカバンの上を叩くと、チコは大人しくそこに移動して、『ピィ』と小さく一鳴きした。
「……よし」
 深呼吸して、ドアをノックする。
 かんかん、と音が響き、ややあって中から「どうぞ」と返事があった。
「失礼します……」
 戸を引くと、中には女子の生徒が三人。
 一人は、長いストレートの髪の、上品な雰囲気の綺麗な人。
 一人は、ふわっとしたくせ毛の、どこか中性的な雰囲気の人。
 一人は、少しボサついたセミロングの、どこか小動物みたいな人。
 彼女たちは、入ってきたわたしとチコに、不思議そうな目線を向ける。
 よくみれば、彼女たちの傍にも、それぞれ一匹ずつのブルームフェザーがいた。
 一匹は白くて、細い足と長めの尾を持った鳥。
 一匹は黄色くて、ラインストーンのような何かで飾られた鳥。
 一匹は、赤い翼を持った比較的小さい鳥。
 三匹は部屋の真ん中に置かれた長机の上で、それぞれ何かを鳴き合っている。

「……何か、御用でしょうか?」

 見ていると、ストレートヘアの生徒が先に声を掛けてきた。
 わたしはハッとして、「一年C組の蒼崎ツバサと言います」と自己紹介する。
「ええと……実はその、お願いしたいことがありまして」
「お願い。それは……『止まり木』に?」
「『止まり木』?」
 不思議な返答に、わたしは首をかしげる。
 すると彼女は、「チーム名です」と付け足してから、改めて問い返した。
「この部に、ということですか? ……その子に関することでしょうか」
「あ、はい。……実はその、このブルームフェザーを、預かってくれないかと」
「ブルームフェザーを預かる?」
 声を上げたのは、くせ毛の女子生徒だ。
 驚きと興味の入り混じった声音で言いながら、彼女はすっと立ち上がる。
 何だろう、とわたしは思わず警戒したけど、彼女はただ椅子を引いただけだった。
 どうぞ、と促され、わたしはその椅子に腰を掛け、カバンを床に置く。
 チコはその拍子に、自分から長机の上に飛び乗った。
 元々いた三匹は、チコに興味を持ったらしい。かつかつと足音を立てながら、軽快にチコの元へと寄っていく。
「良い色の子だね。名前は?」
「チコ、だそうです」
『ピィッ』
「チコかぁ。……この子は、君のブルームフェザーって事で間違いないんだよね?」
 くせ毛の人に言われて、わたしはうなずいた。
 本当の事を言うと、このおもちゃの所有権がわたしにあるのか、確信はない。
 でも、チコはわたしの名前を書かれたカードを持って、わたしの部屋に来た。
 次の行き先を決めるくらいの権利は、わたしにもあるハズだ。
「部長、どう思う?」
「唐突な話ですね」
 くせ毛の部員に聞かれて、部長らしい綺麗な人はそう言った。
 それはそうだろう。いきなり部員でもない生徒が訊ねてきて、預かってほしい……だもの。もしかして、これは断られるだろうか。
「おいで、アマナ」
 部長はすぐには返答せず、卓上のブルームフェザーに声を掛けた。
 それを聞き、白いブルームフェザーがハッと顔を上げ、彼女の肩に止まる。

「この子の名前はアマナ。私は三年A組の白城リンネ。この部の、部長をしています」

 白城さんは、細く長い指をアマナというブルームフェザーに伸ばした。
 するとアマナは、甘えるようにクチバシを指に擦り付ける。
 まるで本物の小鳥みたいだと、その様子を見てわたしは思う。
「蒼崎さん、でしたか。……預かって欲しいというのは、なぜ?」
「それは……わたし、あんまりブルームフェザーに……興味が無くて」
「そうですか。なら、なぜこの子はあなたの元にいるのでしょうか?」
 この場で興味が無いと言い切るのには、かなり覚悟が必要だった。
 けれど白城さんはそれをさらりと受け流し、更に問うて来た。
(どこまで話すべきだろう……)
 人に頼みごとをしようというのだから、ある程度理由は話さなくちゃダメだろう。
 でも、ブルームフェザーを部活としてやっている人の前で、お母さんの話はしたくない。すれば余計なことまで根掘り葉掘り聞かれてしまうんじゃないか、と思うから。
「貰いもの、なんです。一方的な。でも、わたしは遊ぶ気になれなくて……」
 結局、話は少し誤魔化した。
 お母さんの事も、チコが持っていたカードの事も伏せて、ただ不必要な貰いものなのだ、とだけわたしは口にする。
「この部の人なら、チコを預けるのにいいんじゃないかなって、友達に勧められて」
「そうでしたか。ある意味、それは正しいと思いますが……」
 ちらりと、部長はもう一人の部員へ目を向けた。
 突然の来客のせいか、どことなく縮こまって見える小さな生徒は、よくみれば廊下で何度かすれ違った覚えがある顔だった。わたしと同じ一年生だと思う。
「……預けるというのは、どの程度?」
「どの、って言われると……」
 答えられなかった。正直言って、チコを引き取る気は全くなかったからだ。
「おかしいですね。引き取らないのでしたら、それは譲る、ということですよ」
「……すみません。言い直します。誰かにチコを譲りたいんです」
「でしたら、売ってしまう方が早いですよ。見た所、キズもない綺麗な子ですし、買い手はいくらでもいるでしょう」
「それは……」
 白城さんの言葉に、わたしは若干抵抗があった。
 売る。確かに、チコが要らないのならそれは有効な手だと言えた。
 どうせ引き取るつもりはないのだし、チコは別の持ち主の所に行って、わたしはちょっとしたお小遣いを手に入れる。悪い話ではないと思う。でも、それは。
「……ちょっと、嫌ですね」
「えぇ、本当に」
 わたしが答えると、白城さんは平然と頷いた。
 この人も、売るのは良くないと思っているらしい。じゃあなんで聞いたんだろう。
 不思議に思っていると、わたしの目をじっと見つめて、白城さんは更に続けた。

「良いですよ、引き取っても」

「えっ、本当ですか?」
「ただし、条件があります」
 毅然とした雰囲気で言い放ち、白城さんは立ち上がった。
 アマナはそれに合わせて飛び立ち、部室をぐるりと一周する。
 白城さんがすぅっと白い指を出すと、アマナは悠然とそこへ降り立った。

「私のアマナと、フェザーデュエルで戦っていただきます」
「フェザー……デュエル……?」
「蒼崎さんとチコさんが私に勝てれば、責任を持っていつまでも、私がその子を引き取りましょう」

 フェザーデュエル。
 ブルームフェザーの話を避けていたわたしでも、少しだけ知っている。
 それは、ブルームフェザー同士を戦わせる競技のことだ。
「部長、本気ですか?」
「飾利さん。私が本気でないことを言いますか?」
 くせ毛の生徒……飾利さんが問うと、白城さんはあっさりと答える。
 そうですよねぇ、と苦笑しながら、彼女は自分のブルームフェザーを手の平に呼ぶ。
「もちろん、ハンディはお付けします。それに今すぐにとも言いません。……明石さん」
「ひゃいっ!?」
 突然名前を呼ばれ、ちっちゃな部員がビクリと体を震わせた。
 気が弱いんだろうか、なんて思っていると、白城さんは彼女に更にこう告げる。
「あなたには、蒼崎さんのサポートをお願いしたいのですが」
「さっ、サポートですか!?」
「蒼崎さんは初心者でしょう。いろいろと教えてあげてください」
「えっ、ええっと、それはっ……」
 明石さんという子は、焦った様子で白城さんとわたしを交互に見つめる。
 なんだか勝手に話が進んでいるけど、わたしはまだ勝負を受けた覚えはない。
「それ、どうしてもやらなくちゃダメですか……?」
「いいえ、強制はしません。他を当たるというのなら、それはご自由に」
 ですが、と白城さんは付け加える。

「少なくとも、この学校において……ブルームフェザーを最も強く輝かせられるのは、私たち『止まり木』だ、と言っていいでしょう」

 チコのためを思うなら。
 チコを贈った誰かのためを思うなら。
 ここが最優の選択肢なのだと、彼女は断言した。
「……」
 わたしは、すぐには返事が出来ない。
 そこまでする理由が、わたしにあるだろうか。
 チコの引き取り手が見つかればそれでいいんだ。なんならミナに聞けば今日にでも引き取ってくれるかもしれないし。
 それでも、どうしても。
 送り主の存在が、頭から離れない。
「……あぁ、それとも」
 迷っていると、白城さんは小さく首を傾げた。

「負けるのが、怖いのでしょうか?」
「っ、そんなことはないですっ!」

 カッとなって言葉が出た。
 言ってから、しまったと思う。これ完全に勝負を受ける流れだよね?
「そうですか。なら一週間後、また部室に来てください」
 案の定、わたしの返事を聞いた白城先輩は、微笑みを浮かべてそう言った。
 ああも強く言った手前、わたしはそれを断れない。

 勝負の本番は、一週間後。
 受けてしまった以上、その日までは、わたしはチコと離れられない。
(どうしてこんなことになったのか……)
 関わりたくないって、思ってたはずなんだけどなぁ。

【続く】


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