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息苦しくも生きて行く


(……何を間違えた?)

 荒い呼吸を繰り返しながら、俺は曖昧な自問自答を続ける。
 弟に酸素マガジンを渡した事。それは正しい行いだったはずだ。
 今の配給酸素じゃ、次の発作で確実に息の根が止まる。
 けど、そのせいで今度は俺の酸素が足りなくなった。次の配給どころか、三日後には自然呼吸もままならなくなるだろう。

(だから、ここへ来たのは間違いじゃない)

 思った途端、熱い光線が頬を撫でる。
 チリ、と嫌な音がして、激しい痛みが顔を襲った。
「っが……!」
「はいはい、足を止~め~なぁ~いでぇ~!!」
「分かってるよ! うるさいんだよお前!」
 げほっ。叫んだ拍子に咳が出る。
 ヤバい、息がキツイ。マガジンは新品の筈だよな……?
「あーあー、肺活量がめっちゃ少ないねぇ」
「っ、仕方ねぇ、だろ! 有酸素運動なんて贅沢なモン……!」
 体力を付けようにも、俺らにはそれに使う酸素も無いんだ。
「ま、そっか。酸素盗みに来るくらいだもんね?」
 言いながら、目の前の女は軽やかに身を翻し、俺の後方へ光線銃を撃つ。
 ばぎゃっ。短い破砕音が聞こえて、背後からの攻撃が収まった。
「ほらほら、走りに集中して! 大丈夫、無事抜け出せば酸素はある!」
「ちっ」
 舌打ちしつつ、言われた通りに黙って走る。
 これだけ激しく身体を動かしたのなんて、いつ振りだ?
 思い返そうとして、俺は走った記憶なんて全然ない事に気が付く。
 そりゃそうだ。走ったらその分だけ酸素を浪費する。追加の酸素マガジンを買う金があれば、その金でもっと買うべきものがある。
 運動する余裕なんて、これっぽっちも無かったんだ。

「さぁあと少ぉぉしぃぃ~! 仲間が待ってぇい~るよォ~!」
「……マジ、それ、止めろ、ドヘタ!」
「うんうん。だから必要なんだよ、私にも酸素が」

 扉を抜けて、女は施設の柵を軽々と乗り越える。
 そして柵の上から俺に手を伸ばし、尋ねた。

「折角だしさぁ。君も入りなよ、『呼吸機関』に」
「……テロ組織の一員とか、真っ平だわ」


【続く】

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