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地方交付税入門-番外-(地方交付税の闇)

 地方交付税については研究者から様々な問題点が指摘されています。私は専門家ではありませんので、ごく一部しか取り上げることができないと思いますが、そのいくつかを紹介してみます。なお、紹介する論文の中には、後年にその内容を反駁されているものもあるかもしれませんが、そうしたことまで追い切れていませんので承知しておいてください。又、財政学者は地方交付税に厳しい財務省寄りの立場の人が多いので、そこも留意してください。

1 無駄遣いを促す交付税

 地方交付税が財源保障を行っているため、各地方自治体のコスト意識を希薄化させ、効率化へのインセンティブを阻害しているという趣旨です。いわゆる”ソフトな予算制約”が国と自治体の間で確立していることを主張するものです。
 山崎他の論文[論文名01(最下段に記載)]では、平均的に6~9%の非効率が存在し、最も効率性の高い団体と低い団体の間では70~80%の格差が生じていると主張しています。別の論文では、交付団体と不交付団体を比べると、交付団体の行政費用が構造的に不交付団体のそれを上回ることを検証しています。[論文名02]
 一方で、ソフトな予算制約の存在を否定する論文も存在しています。[論文名03]

2 総務官僚(OB)に優先配分される特別交付税

 特別交付税の配分決定過程が不明瞭なことは第4回で指摘しましたが、総務省から幹部級に出向している自治体に特別交付税が手厚く配分されていることを検証した論文です。[論文名04]
 同様に総務省OBが知事を務める都道府県に手厚く配分されていることを検証した論文です。[論文名05]
 約15年後に前記論文を検証するとともに特別交付税の配分実態について研究した論文です。[論文名06]

3 実は一般財源ではない交付税

 交付税は使途が特定されない一般財源というのが制度の建付けです。しかし、第3回で、単位費用=標準団体の必要金額(積上金額-国庫負担金)÷標準団体の測定単位という計算式を示しました。法定事業の場合、事業費の金額を積み上げるのは所管省庁です。法定でない国庫負担事業の場合も事業費は所管省庁が積算し、交付税はその地方負担分のみを算定します。
 自治体が所管官庁の定めた基準通りに事業を行えば、基準財政需要額と実際の支出額は限りなく一致することになります。そうすると、交付税は自治体が自由に使える一般財源ではないことになります。
 文字ばかりだとわかりにくいので図にします。A市の基準財政需要額が事業A,B,Cから構成されているとします。もし、交付税が一般財源で所管省庁の縛りがそれほど厳しくない場合、実際の支出には多少のばらつきが生じるはずです(図1)。

 しかし、所管省庁による縛りが厳しく自治体に裁量の余地がない場合は基準財政需要額通りに支出されることなります(図2)。

 大塚論文[論文名07]では、市部の歳出の8割を占める自治、厚生、文部、建設(旧省庁名)の4省が所管する事業において図2のような状況になっていることを検証し、交付税は”省庁のための特定財源”という性格が強いと結論しています。
 私にとって、最も”目から鱗”の論文でした。

4 地域間格差を助長する交付税

 交付税が格差を拡大するって、どういうこと?と思うかもしれませんが、これは各自治体の一人当一般財源額の格差が、地方税のみの場合よりも交付税配布後の方が大きくなっている、という意味です。
 よく東京都の財政力が圧倒的に強いと言われますが、一人当一般財源額という観点では、かろうじて上位に入る程度です。

 宮崎論文[論文名08]では、ジニ係数を用いて分析しており、2013,2015,2017の3年度で検証が行われています。結果は下表のとおりですべての年度でジニ係数が増加(格差拡大)していることがわかります。

 これは、以前から、逆転現象(1人当たり地方税(地方税/人)では下位(上位)だった自治体が、交付税が配分された後では、傾向的に上位(下位)になること。)として知られていたものをジニ係数を使って一般化したものだと思います。
 このことは広く議論されていて多くの分析があります。一方、単純に一人当の金額で論じるべきではない、という議論もされています。[論文名09]

5 必要性が疑わしい個別算定経費

 包括算定経費のところで触れましたが、基準財政需要額は回帰分析等を行うと、人口や面積の連立方程式でかなりの程度説明可能なことが示されています。包括算定経費の創設の有力な根拠となったのはこちらの論文[論文名10]ですが、基準財政需要額を連立方程式で決定することについては、他にも研究が行われています。例えば、人口の二乗値と面積の二乗値によるもの[論文名11]があります。

※ google検索で元論文にアクセス可能です。
論文名01 地方交付税制度に潜むインセンティブ効果(山下他,2002)
論文名02 地方交付税制度が歳出行動に与える影響(湯之上他,2009)
論文名03 地方交付税制度のインセンティブ問題(菅原,2021)
論文名04 補助金の地域配分における政治・官僚要因の検証(鷲見,2000)
論文名05 特別交付税における官僚の影響に関する分析(湯之上,2005)
論文名06 市町村に対する特別交付税の手続き・配分方法とその運用実態(中村,2021)
論文名07 一般財源としての基準財政需要額の批判的検討(大塚,2009)
論文名08 財政力の地域間格差と税源配分(宮崎,2016)
論文名09 地方交付税の経済分析(若松,2011)
論文名10 地方交付税の機能とその評価 PartI(貝塚,本間他1986)
論文名11 基準財政需要の近年の動向等に関する実証分析(井堀,岩本他,2006)