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宿泊税は観光振興のための特定財源か?

 現在、各地で導入されている(つつある)宿泊税はその多くが法定外目的税となっています。
 東京都では宿泊税を以下のように説明しています。
「宿泊税の税収は、国際都市東京の魅力を高めるとともに、観光の振興を図る施策に要する費用に充てられます。」
 他の自治体でも、宿泊税の使途について同じように説明しています。(例:京都市福岡市
  これを財政学的に言うと、観光振興のための特定財源(予め使途が決まったもの)ということになります。しかし、観光振興費全体は宿泊税額より圧倒的に巨額ですので、なんとでも言い訳することが可能です。
 宿泊税の歴史の長い東京都における宿泊税収入と観光費支出の関係を見ることで、両者の間に何らかの相関関係が存在するか(観光振興のための特定財源と言えるのか)検証してみます。なお、東京都の場合、オリンピック開催という特殊要因がありますので、招致決定前の平成25年度決算までの数字を使って分析します。

1 東京都における観光費の推移

 地方財政状況調査のデータがある平成元年(1989)から平成25年(2013)までの東京都の観光費の推移は以下の通りです。(赤線が宿泊税が導入されたH14)

 一見してわかりますが、地方自治体もバブル景気とその後の景気対策で財政が膨張した平成前期の方が、宿泊税導入後の平成後期より多額の観光費が支出されていたことがわかります。

2 観光費と宿泊税の相関状況

 宿泊税が導入された2年目平成15年度から(1年目は半年分のため)25年度までの状況を散布図にしたのが下図です。

 これも一見してわかるとおり、何の相関関係も見出せない分布状況になっています。一応、相関係数を計算してみましたが、わずか0.17でした。

3 宿泊税は財源不足全般を補填するために存在する一般財源

 わずか11年分のデータですが、ここまで相関係数が低ければ、観光費と宿泊税額の間には何の相関関係もない=宿泊税は観光振興のための特定財源ではない、と言い切って良いと思います。
 金額ベースで比較してみても、宿泊税導入5年前までの(H09~13)の観光費の平均値と導入後の平均値を比較すると、宿泊税の税収が約11億円あるにも関わらず、金額は約4億円の減少になっています。

 これから言えることは、宿泊税は観光振興のために使われたわけではなく、財源不足全般を埋めるために使われたということです。

4 宿泊税導入の真相

 宿泊税が導入された平成14年(2002)は、いわゆる地方財政危機(バブル景気による税収増に伴う財政膨張と崩壊後の景気対策のための公債発行増加により発生した)がピークを越したばかりでした。税収確保のために、政府機関や本社が集中して圧倒的な競争力を持つ宿泊産業を利用して租税輸出を図ったというのが真相でしょう。
 都民に直接増税するわけではないので選挙での反発は回避できますし、1万円と言う免税点を設けたことで利用者ホテル双方からの反発も抑えられたはずです。その点からは、なかなかに巧妙な増税策だったというのが、正直な感想です。
 そして、現在、多くの自治体の住民がこの巧妙な増税策に引っかかろうとしているわけですが、宿泊業が東京都のような圧倒的な競争力を持たない自治体で免税点を設けない制度にした場合、何が起こるかは言うまでもないでしょう。