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地方交付税入門-その3-(基準財政需要額その1)

 今回と次回の2回で「基準財政需要額」について説明します。今回はその中の「個別算定経費」を特に解説します。
 最初におさらいしておくと、「基準財政需要額」は各地方公共団体がナショナルスタンダードの支出を行った場合にどの程度の歳出額となるかを可視化するためのモデルです。

1 基準財政収需要額の計算方法

 「基準財政需要額」=「各行政項目ごとの基準財政需要額の合算額」となります。行政項目がどういう構成になっているかは下表のとおりです。細かい内訳はこちらを参照してください。各行政項目は、大きく「個別算定経費」と「包括算定経費」に分かれます。

 「個別算定経費」は文字通り各項目毎に金額を積算していくものです。
 その金額は次の式で求めます。(測定単位)×(単位費用)×(補正係数)
 「包括算定経費」は人口や面積を基礎にざっくりと計算します。2以降で個別算定経費の計算項目を解説していきます。
☆ 基準財政需要額の計算方法 = 各行政項目ごとの経費を積み上げて算定する。「個別算定経費」と「包括算定経費」で計算方法が違う。

2 測定単位

 「測定単位」は各行政項目について財政需要を測定するために用いる指標のことです。具体的な内容はこちらを参照してください。
 同じ項目でも、都道府県と市町村で違った指標が選ばれる場合があります。例えば、都道府県の小学校費は教職員数が測定単位になっていますが、市町村では児童数、学級数、学校数が測定単位になっています。これは小学校の場合、都道府県は教職員の給与を負担し、市町村は学校の運営経費を負担する、という役割分担を反映したものです。
 又、準拠する法令によっても違った指標が選ばれます。例えば、都道府県の警察費と市町村の消防費です。警察官の定数は「警察法施行令」で詳細に定められています。実際の定員は都道府県が条例で定めますが、基準財政需要額の算定には施行令の数値が用いられます。
 一方、消防にはそのような法令がありません。ただし、「消防力の整備指針」という告示で市町村が備えるべき具体的な内容(消防車の数等)が示されています。そして、その内容はおおむね人口に比例したものとなっています。
 警察費が警察職員数を測定単位とするのに、消防費が人口を測定単位とするのは、準拠する法令の違いを反映したものなのです。

☆ 測定単位は財政需要を測定するための具体的な指標。役割分担や準拠法の違いなどを反映して設定されている。そのため、同じ行政項目でも都道府県と市町村で違ったものが選ばれることがある。

3 単位費用

 さて、一番説明しにくいものにきました。意味は直感的にわかると思いますが、測定単位1毎に必要となる経費の金額です。ただし、計算方法は非常に面倒くさいものです。
ア 標準団体
 計算にあたっては「標準団体」というモデル団体を使用します。そして、そのモデル団体が行政項目の各「小項目」を実施するのに必要な経費を詳細に積み上げていきます。この標準団体の規模は下表のとおりです。

 なぜ、モデル団体をつくるかというと、それは立法上の都合です。単位費用は「地方交付税法」で毎年定めます。よって、全国の地方自治体ごとに単位費用を定めていたら膨大な手間となります。これを避けるために、標準団体の単位費用を定めて、人口や面積等の違いは「補正係数」で反映させる、という建付けになっているのです。
イ 標準団体における所要額を求める
 単位費用は次の式によって計算されます。単位費用=標準団体の必要金額(積上金額-国庫負担金)÷標準団体の測定単位
 表2では標準団体の規模として、人口と面積等を示しましたが、実際は、都道府県市町村別にもっと詳細に定義されています。例えば、警察費では「警察署数」、「交番数」等6つの項目が設定されています。

 警察費は積上総額(28,162,205千円)-国庫負担金(2,251,018千円)=25,911,487千円が標準団体の必要金額になります。
 上式では計算結果のみを示しましたが、実際の算定にあたっては小項目の下に細目・細節を設けて金額を積み上げています。衛生費の例
ウ 測定単位で割って単位費用を算出する
 警察費の測定単位は「警察職員数」です。標準団体におけるそれは3,095人ですので、25,911,487千円÷3,095人=8,372千円/人が警察費の単位費用となります。
 単位費用は測定単位1につき必要となる経費の額。標準団体というモデルをつくり計算する。

4 補正係数

 単位費用は市町村であれば人口10万人を想定した標準団体を使って計算しました。標準団体と実際の各地方自治体との様々な条件の差を基準財政需要額に反映させるために用いられるのが「補正係数」です。現在、補正係数は下表のとおり8種類が規定されています。詳しい内容はこちらへ

 ただし、この補正係数はすべての行政項目にすべての補正係数が適用されるわけではありません。どの項目にどの補正係数が適用されるかは「普通交付税に関する省令」で定められています。
 例えば、「警察費」には「段階補正」だけが適用されます。それでは警察職員が1,500人のA県を想定して、どう適用されるか見てみましょう。
 A県の職員数は1,500人ですから、表の3,083人に対して1,583人足りないことになります。したがって、1,083人には補正係数0.02が適用されます。1,583人の不足のうち1,083人が計算されたので残りの500人に対して補正係数0.09が適用されます。

☆ 補正係数は標準団体と現実の地方公共団体との条件差を埋めるためのもの。各行政項目ごとに適用される補正係数が違う。

5 A県の警察費を算定してみる

 2~4で、個別算定経費に関係するすべての数値を説明しました。最後に具体的に計算してみましょう。
 A県の警察費を算定してみます。まず、「測定単位」は「警察職員数」ですから1,500人です。「単位費用」は「8,372千円」です。これに次の式で計算した補正係数1.044(小数点3位未満は四捨五入)を適用します。
(1,500×1.00+1,083×0.02+500×0.09)÷1,500=1.04444
 A県の警察費の基準財政需要額=1,500×8,372×1.044=13,110,552千円
 これを各行政項目ごとに行い、個別算定経費に係る基準財政需要額を積算します。
 最終的にはこんな表にまとめます。八王子市の例