菊川市の行政評価を見てみる。

1 菊川市の行政評価の公開状況について
 菊川市では、”政策-施策-事務事業”の三段階すべてで評価シートを作成し公開しています。菊川市HP
 各々の段階は、市総合計画の”目標別取組-(取組中の施策)-実行計画”に対応しています。総合計画の各段階を行政評価の三区分に対応させるという標準的な構成です。
 渥美議員の6月議会での質疑動画を見させていただきましたが、行政評価における手段-目的関係については、首長側も十分承知しておられるようなので、いつも通り、その点を見ていこうと思います。

2 基本目標-目標別取組(政策)
 総合計画中の最上位である”基本目標”と”目標別取組”の関係を確認しておきましょう。
 基本目標1に対し、5つの目標別取組が設定されています。1・2が子育て環境整備、3~5が教育環境整備になっています。菊川市総合計画HP

3 目標別取組(政策)の概要
 目標別取組1-1の目的ですが、総合計画を読むと、”子育て家庭の不安を取り除くこと”に集約できそうです。

 実現するための取組の方向として次の3つをあげています。
● 就学前教育から小学校教育へと円滑に移行できるように、幼稚園・保育所と小学校の連携や交流を図ります。
● 親子で交流できる場の提供など、子育て家族のニーズに応じた多様な子育て支援を充実させ、仕事と子育てが両立できる取り組みを進めます。
● ライフステージの各段階に応じ、結婚・出産・育児がしやすい環境づくりを支援します。
 政策の達成度を測るための成果指標として、次の4つが設定されています。
1 「子育てしやすいまち」だと思う市民の割合(市民アンケート調査結果)
2 幼稚園に行くことを楽しみにしている園児の割合(幼稚園アンケート調査結果)
3 幼児施設入所待機児童数
4 子育て支援センター利用者数
 目的、取組方向、指標がどのように対応しているかを図示してみましょう。

 私の勝手な解釈に基づく体系化ですが、成果指標は1の「子育てしやすいまち」だと思う市民の割合」だけで良かったんじゃないのか?2の「幼稚園に・・・」というのは、既存のデータから使えそうなものを持ってきただけかなー、というのが作成してみての感想です。

4 政策(目標別取組)-施策
 目標別取組1-1に対して4つの施策が設定されていますので、体系図にしてみましょう。

 成果指標1はやはり特定の施策に結び付くというより施策全体に関係する印象です。
 成果指標2は施策1-1-2の指標と、成果指標3は施策1-1-1と1-1-3、成果指標4は施策1-1-4と、それぞれアウトカム-アウトプットの関係になっているようです。
 3でも書きましたが、政策の成果指標は1だけにして、2~4は施策の指標にした方がいいように思います。

5 政策(目標別取組)-施策-事務事業
 さらに事務事業を体系図に加えてみます。

 菊川市ではすべての事務事業を評価対象にしています。これは素晴らしいことなのですが、俗に”生活費”と言われる事務用品費等の出所になっている事業や児童手当の支給のような自治体の政策としての判断が入る余地のない事業も対象になっています。事業指標を見てこうした事業と思われるものを除いて、目的-手段関係をわかりやすくしたのが下図です。

 図を見てどのような印象をもたれたでしょうか。菊川市には失礼ながら、”けっこう雑然としている”という印象を受けた方も多いのではと思います。例えば、施策1-1-2は職員研修事業がメインかと思えばそうでなかったり、1-1-3にあるべき”放課後児童クラブ”が1-1-1にあったり、1-1-1の施策指標の”定員数”に関係する事業が3施策に分散していたり、同じことは1-1-3の施策指標にも言えます。
 しかし、私は、これが菊川市に特別の問題があって生じたこと、だとは思いません。静岡県内の行政評価の体系性をいくつか検証した経験から見て、ごくありふれた雑然さです。日本の行政の仕組みがつくり出している総合計画ならぬ”フランケンシュタイン計画”の限界を示したものだと思います。

6 フランケンシュタイン計画
 自治体が総合計画をつくるにあたっては、審議会等で有識者を交えた議論が行われます。その結果、政策-施策レベルでは目的-手段関係に沿った、いわゆる”戦略的な枠組”が出来上がります。
 しかし、自治体は”戦略的な枠組”に従って、施策達成の手段としての事務事業を自由に実施できるわけではありません。国の法的な(努力)義務付けがあったり、補助金等による誘導があったり、他にも様々な圧力や経緯があり、事務事業は”所与のもの”として存在しているのが現実です。
 しかし、建前としては、政策-施策-事務事業という”戦略的な枠組”に従って行政をしていることにしなければなりませんから、事務事業をその”枠組に”はめ込んでいくことになります。
 この過程で、うまくはまらないものは”枠組”そのものをいじくって押し込む余地をつくったり、枠組みに入らないことに目を瞑って放り込んだり、ということになります。
 これをイメージ化したのが下図です。このつぎはぎだらけになった状況を表現したのが「フランケンシュタイン計画」です。

7 菊川市の行政評価(政策-施策評価)を見ての感想
 雑然とか、否定的なことを書きましたが、それも菊川市が政策から事務事業まですべての評価情報を公開しているから見えたことで、このレベルの情報公開が無ければ、行政がどういう目的で何をしているのか、体系だって把握することはできません。
 今回は手が回りませんでしたが、これに予算情報や人件費情報を加味すれば、もっと、色々なことが見えてくるはずです。菊川市には、この姿勢を維持していってもらいたいと思います。
 あと、本年度から策定作業が始まっている次期総合計画では、成果指標の体系性にもうちょっと気を配ってもらえればと感じます。
 最後に、菊川市で今年度から公開(作成?)が始まった事務事業評価シートを見てみましょう。

8 事務事業評価シートを見ての印象
 情報はかなり細い、記入する部分がけっこう多い、というのが一見した印象です。以下、詳細な内容を見て、雑駁ながら感想を書いていきます。
(1) 基本情報部分

 総合計画上の位置付け、事業目的、事業概要です。自治事務か法定受託事務か、といった事業の性格がわかる情報がないのが惜しいところです。
(2) コスト情報部分

 財源内訳、節別内訳があり、情報量は必要十分だと思います。予算書情報があるので、財務会計との連携はばっちりとれていそうですが、実際はどうなんでしょうか。
(3) 指標情報部分

 成果用が2ケ所、効率用も2ケ所、設定されています。
 成果指標=アウトカム指標が通常の理解ですが、実際に記入されているのは、アウトプット指標が多いというのが、ざっと見た印象です。もっとも、この事業の場合、アウトプット(保育サービスの提供数=在園児数)ですらなく、単なる内部事務の執行数です。(効率指標では、園児一人当コストが設定されていますから、アウトプットが園児数ということは認識していて、アウトカムが思いつかなかったので、この指標を設定したのかもしれません。)
 アウトカム指標がすべての事業に設定されるのが理想ですが、事業をやらせる国や県がその事業のアウトカムを意識していない場合、下請けの市町村が設定できるわけがありません。当面は、アウトプットをきちんと設定できるようにしていくのが現実的ではないか、と考えています。
 効率指標はアウトプット又はアウトカム1単位当費用が通常です。しかし、他の事業を見ると、事務改善的なことを記入している事例もあります。ちょっと、性格がよくわからなかった箇所です。個人的には、アウトプット1単位当費用を見れば、その事業のまともさをかなりの割合で判断できると考えているので、そういう運用をしてほしいところです。
 最後の人件費効率欄は、1単位当の人工数を表示するのだと思うのですが、現状、利用がないのでわかりません。
(4) 評価情報部分

 成果や課題の自由記入欄、項目別や総合での評価を記入する部分です。菊川市が導入している行政経営システムの一つにこの事務事業評価システムがあるようなので、このシステムがどの程度の情報分析能力を持っているのか興味があります。
 各評価項目別の評価の分布状況、コスト縮減とした事業が実際にどうなったかの分布状況、こういった分析ができれば、行政評価の研究上も有益だと思います(救国シンクタンクの懸賞論文を書くに際して、評価の分布状況を公開している自治体をかなり苦労して探しまわりました。)。
(5) 改善情報部分

 改善の方向性等を記載する部分です。直前の評価情報部分に次年度の方向性を記入する欄があるので、本来、その欄に記載したことを具体的にどう実現していくかについて記載するのでしょう(シートの見方に説明がないので真実は不明)。しかし、これを厳密に運営したら、ストライキが起きそうです。
(6) 次年度以降情報欄

 評価年度の翌年度や翌々年度の見通しや見直し結果の内容を記入する部分です。ここでわかりにくかったのが、評価情報欄で記載した内容との対応関係です。
 例えば、本事業の「評価情報」では”コスト維持→”となっていますが、5年度の予算額は4年度決算額に比べて”コストアップ↑”、6年度予算額は5年度予算額に比べて”コストダウン↓”になっています。
 4年度基準なら、”維持→”で問題ないと思いますが、既に5年度予算額がわかっているので、5年度を基準とした方向性を示したものと考えるのが、自然な流れのようにも思います(最初、私はそう解釈しました)。

(7) 事業の目的と実施内容との関連性「有効性と妥当性」の説明

 ここが評価シートを見ていて一番よくわからなかった部分でした。評価シート全体の流れを考えると、見直した結果の具体的な内容が、そもそもの事業目的に照らして、妥当なものか、有効なものか、ということを検証する部分と捉えるのが妥当なように思うのですが、どうも、そういう記述はされている印象がなく、評価シートの見方でも特に説明はありませんでした。
(8) 最後まで見ての印象
 やはり”書かせる”部分が多かったです。この分量を書ける問題意識と知識をもって業務をしている職員は少数派だと思います。一応、すべての事務事業評価シートを”眺めて”みましたが、半分でも埋まっている記入欄は1/5くらいだったと思います。
 どう見ても書きつぶせる見込みのない大きさの空欄がある評価シートを前にしたら、それだけで“うんざり”というのが正直なところだと思います。職員の行政評価に対する負担感は案外こんなところからも生じているのかもしれません。