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「滋賀地域交通ビジョン素案」に対する意見募集から見るパブリックコメント制度(その2)

 今回は滋賀県のパブリックコメント手続きにおいて提出された意見の取り扱い状況やビジョンにおける真のテーマである交通税導入手続きにおける位置づけを見てみます。

1 提出された意見の内容と県の対応

(1) 県民意見
 県民意見は全部で35件提出されました。(ビジョンに関係ない意見5を除く)詳しい内容はこちらから
ア 県が進めようとする施策方向に賛同する意見 11件
イ 賛否に関わらない文章表現上の意見     4件
ウ 県が進めようとする施策方向に反対の意見  20件
エ その他                  2件
 上記の意見の内、県が取りまとめて公表した文書で具体的に対応したのは、12意見49か所です。
A 意見を受けて文言を追加・修正した      23か所
B 意見の内容は素案で表現されていることを説明 3か所
C その他の対応(今後、対応を検討する等)   11か所
D (実質的に)特段の対応無し         12か所
 施策の方向性に反対の意見は内容に関わらず一つにまとめられています。(意見数や個所数には含めていません)又、方向性に賛同する意見でも、過激に過ぎたり、交通税には反対する(国の財政措置を要求する)意見については具体的な対応はありません。
 意見を受けて文言を修正したり追加したりした内容も、ビジョンの本質に関わるようなものは一つもありません。
 こうした県の対応については、その1で紹介した論文の記述が非常にわかりやすいので、やや長いですが引用します。

 これらの結果を見ると、 本文が修正されるのは、字句の軽微な修正や、 一定の文言の付加または削除が可能な範囲に限定されていることがわかる。 そして、政策の根幹に関わるような新たな提案は、たとえ内容が優れているものであっても採用されることはないといってよい。 まして、 行政が推進しようとしている方向性を否定するような提案は、まず採択されることはない。
 そもそも一定の方向性を持って立案され、議論を積み上げてきたものを根底から否定することは、パブリックコメント制度の役割を超え、市民の 「示威」 の手段となっているに過ぎない (それはそれで意味がないわけではないが)。
 それらの意見提出者が目的を遂行するためには、現在のようなパブリックコメント制度とは別の、早い段階での政策形成に係る市民参加制度、または議員や行政へのロビイ活動等に委ねるしかないだろう。
(市民のためのパブリックコメント制度 松井 2016 P11-12)

(2) 市町意見
 全部で8つの市町から提出されています。詳しい内容はこちらから
 市町から提出された内容は丁寧に対応していますが、提出した市町の数は半数以下(13市6町)となっていて、具体的な事業内容等を明示するわけではない地域交通ビジョンへの関心は必ずしも高くないようです。
 市町意見への対応も県民意見への対応とほぼ同じで、ビジョンの本質に関わるようなものは一つもありません。しかしながら、県民意見とは違い、個々の意見にも必ず対応しています。
※ 県の対応についてはこちらへ
(番号は県民意見や市町村意見の対応欄の数字と一致しています)

 その1で記述した「パブリックコメント制度は、住民参加によって民意を反映した決定を行うためのものというよりも、決定を行った理由等について説明し、又、内容をより精緻なものとすることで住民を説得することを狙ったものということができる。」は、本パブリックコメントにも当てはまっていると思います。

2 今後のスケジュールについて

 その1では、参考論文から、政策サイクル全体の中でのパブリックコメントの機能を以下のようにまとめてみました。
「政策サイクル全体から見ると、パブリックコメントで提出された意見はその政策の全体設計や見直しの際の参考となる可能性がある。その意味では、当該政策に対する住民の評判を収集する仕組みということができる。」

 報道によると滋賀県は令和6,7の2年度をかけて、具体的な施策内容や財源措置について定める「滋賀地域交通計画」を作成するとしています。計画の作成主体は「滋賀地域交通活性化協議会」ですが、税制という観点からは「滋賀県税制審議会」も関わってきます。
 そのスケジュールはおおむね下図のようになることが予想されます。

(05/01修正) 
滋賀県民政策コメント制度に関する要綱」第3条(2)により滋賀県税制審議会のパブコメは行われない可能性が極めて高いと思われます。

 交通計画を策定したすぐ後に知事選があるので、交通税条例の議会提出に必要な税制審議会の答申を得る手続きは知事選後になると思います。知事選で導入推進派が勝った場合、税制審議会の正式審議を経て、11月議会で条例案を可決し、年末に総務省協議を行い、交通税の収入を含めた予算案を2月議会に提出するというスケジュールが想定されます。これは三日月現知事の発言とも一致しますので、間違いないところだと思います。

 令和7年度下半期のどこかで行われる(協議会が中間報告を行う場合、そこでパブリックコメントが実施される可能性もあります)「滋賀地域交通計画」のパブリックコメントの文言から交通税を落とさざるをえない状況をつくれるかが、一つの勝負所になるのではないでしょうか。(政治関係のことは知識0なので、まったくの想像です。)

※1 計画作成を支援する業者選びのプロポーザルが始まっていました。委託仕様書を見ると、実質的にパシコンの一社応募っぽいですね。
※2 協議会の下に設けられるWSに市民が参加するようですが、これがどのように選ばれるのか?(想定組織図