見出し画像

地方交付税入門-その5-(特別地方交付税、地方財政計画、交付税の歴史)

 今回は特別地方交付税、地方財政計画、地方交付税の歴史についてです。

1 特別地方交付税

 交付税の総額のうち”原則として”6%が「特別地方交付税」に充てられています。(当初の予定では平成27年度まに4%に縮減される予定でしたが東日本大震災対応を口実に中止されています。)
 普通交付税が財源不足額に対して交付されるのに対して、特別交付税は「特別の財政需要」に対して配分されます。その対象は「特別交付税に関する省令」で示されており、大別すると下記の通りです。なお、普通交付税と違い、基準財政収入額が基準財政需要額を超過する団体(不交付団体)にも交付されます。
(1) 基準財政需要額の算定方法の画一性を補完するもの(地域交通(離島航路等)、重要文化財等)
(2) 基準財政収入が過大に算定されたもの
(3) 普通交付税の算定期日後に生じた事情にもとづくもの(災害復旧等)
(4) その他の特別な事情によるもの(地域医療等)
(5) 基準財政需要額が過大に算定されたものや基準財政収入額が過少に算定されたもの(減額項目)

2 算定と交付の特徴

・都道府県と市町村では、市町村への交付が多くなっており、市町村では交付税額の約10%を占める。

・省令の中で算定式が示されているルール項目(算式分)とそうでない調整項目(特殊財政需要分)という区分がある。両者の金額的な割合は概ね1:1

・算定方法が不明な調整項目に加えて、総務省がいかようにでも金額を差配できる条項が省令にはある。(ここまでくると、特別な行政需要の定義は「総務省が特別と認めたもの」としか書きようがないです。)

・12月(主にルール項目)と3月(主に調整項目)の2回に分けて交付される。
・調整項目分の各市町村への配分は、都道府県に主導権がある。
☆ 特別地方交付税は文字通り”特別の財政需要”について措置される。不交付団体にも交付される。配分決定方法には不透明な部分が多い。

3 地方財政計画と地方財政対策

 両方とも実務的には翌年度の地方交付税の予算計上額を確定するために作成される書類です。地方財政計画は国会へ提出されます。基準財政収入額と基準財政需要額に基づく地方交付税がミクロに各地方自治体の財源保障をする仕組みと考えると、地方財政計画と地方財政対策は日本全体としてマクロに地方自治体の財源保障をする仕組みと言えます。
ア 地方財政計画
 地方交付税法第7条に基づき作成されるもので、地方団体の歳入歳出総額の見込額を取りまとめたものです。翌年度の地方公共団体の収入額、支出額、各省庁からの補助金等の見込み額を取りまとめたものです。<令和6年度の例
イ 地方財政対策
 上記の取りまとめで生じた歳入と歳出の差が交付税の財源(その1の5)の中に納まっていれば問題は生じませんが、超過する場合、何らかの手段でその差額を埋め、収支を均衡させなければなりません。そのためにとられる様々な財政措置のことを”地方財政対策”と言います。財源対策債の発行等様々な措置で構成されています。<令和6年度の例
 実務的には、[各省庁及び自治体からの情報収集]→[自治省と関係する省庁間での折衝]→(この過程で単位費用や補正係数に様々な調整が入ると思われます。知らんけど・・・)→ 地方財政対策 → 地方財政計画 → 各自治体からの報告→交付額の確定 という順番で公表と手続きが進んでいきます
☆ 地方財政計画と地方財政対策はマクロな地方自治体の財源保障


 地方交付税ができるまで

1 シャウプ勧告

 地方交付税も元をたどれば「シャウプ勧告」が生み出した制度です。昭和24年9月に公表されたシャウプ勧告の中では、地方税総額の増加とともに「一般平衡交付金」の創設などが提唱されていました。
 この「一般平衡交付金」が「地方財政平衡交付金」として昭和25年度に制度化され、それが昭和29年度に地方交付税に改組されて現在に至っています。

2 地方分与税

 地方交付税のもう一つの母体が昭和15年度に誕生した「地方分与税」です。これは「譲与税」と「配布税」の二つからなっています。譲与税は「地租」、「家屋税」、「営業税」の3つを徴収地に還元するもの、配布税は「所得税」、「法人税」等5税の一部を財政調整的に配布するものです。(昭和24年度廃止)
 配布税は課税力と財政需要の2つの要素で配分されました。課税力の基準は平均的な税収に満たない地方自治体に不足分を保証するもので、財政需要の基準は単純に人口比例で配分されました。したがって、不交付団体というものはなく財政需要分はすべての自治体に交付されました。

3 一般平衡交付金

 シャウプ勧告で示された「一般平衡交付金」には次のような特徴がありました。
ア 各地方自治体ごとに「標準必要額」と「基準収入額」を見積り、地方財政委員会(後述)が取りまとめる。
イ 「標準必要額」は合理的な最小限度の行政を行うと仮定した場合に試算される地方団体ごとの歳出の標準必要額
ウ 「基準収入額」は予想される地方税額(留保財源の概念はなし)
エ 必要額が収入額に満たない場合、その差を交付金額とする
オ 国から地方自治体への補助金は原則として廃止
カ 地方自治体の代表者等からなる地方財政委員会を設置し、不足額の予算要求等の事務を行う。

4 地方財政平衡交付金

 「一般平衡交付金」を実際の制度にしたものが「地方財政平衡交付金」です。平成25年度から28年度の間、存在しました。一般平衡交付金との違いは下記の通りです。
ア 需要額・収入額とも各自治体の積み上げでなく国において算定することにした→地方財政計画
イ 収入額において留保財源を設けた

5 地方交付税へ

 「地方財政平衡交付金」は昭和25年度から28年度の4年間しか存在できませんでした。その原因を一言でいうと「パワーゲーム」の激しさに皆が疲れ果てたからです。平衡交付金は地方財政員会(後に自治庁)が取りまとめて予算要求する仕組みでした。原理的には0ベースからの積み上げになるので、その総額をめぐって、毎年度、激しいパワーゲームが繰り広げられたのです。
 財政運営の観点から交付金を圧縮したい大蔵省、自らの予算を増やすため交付金を圧縮したい他の省庁、一方、地方自治体は少しでも多く交付金を確保したい。三つ巴(議員を含めれば四つ巴え?)の戦いが繰り広げられました。
 そこで、戦前の地方分与税の仕組みを再導入して、ゲームのレベルを落とそうとする機運が盛り上がったのです。自治庁内にも分与税の仕組みを支持する勢力がいたことから、妥協が成立し、国税の一定割合を交付税の原資とする現在の制度が出来上がりました。なお、この調整の過程で「義務教育費国庫負担金」を代表例として、平衡交付金に組み込まれて廃止されていた補助金が復活することになります。
※ 歴史的な経緯については、大自治官僚の石原信雄氏が連載記事にまとめていますので覗いてみてください

 地方交付税解説は一応これで終了しますが、番外編として交付税について研究者が指摘している様々な問題点を紹介してみたいと思います。