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地方交付税入門-その1-(概説)

 減税新聞に投稿したものの再編集版です。地方公務員としての一般知識と解説本を読んで得た知識に基づいて書いたものです。大きな間違いはないと思いますが、誤りがあった場合はお知らせください。
 なお、地方交付税には「普通交付税」と「特別交付税」がありますが、話をわかりやすくするため「普通交付税」に絞って解説していきます。

1 地方交付税が創設された背景

 国と地方自治体、各地方自治体間には以下に挙げるような財政・自然環境上の不均衡・不均一があります。

ア 国と地方における財源と仕事量の不均衡
 歳出では国:地方の比率は概ね4:6に対して、税収は国:地方=6:4になっています。この差を埋めているのが、地方交付税と補助金です。
実際の仕事での、国と地方の役割分担は下表のようになっています。

イ 地方自治体間における財源の不均一
 令和3年度における地方税全体と各税目における人口当税収額の格差は下表のとおりです。なお、地方消費税を除く各税目において、人口当税収額が全国平均を上回っているのは概ね4~5都道府県です。

ウ 地方自治体間における自然環境条件の不均一
 これも言うまでもないと思います。
 亜寒帯から亜熱帯まで、豪雪地帯から多雨地帯まで、関東のような平野が多い場所から、高知・和歌山のようなほとんど山地の場所まで、様々な地形・気候が日本列島には存在します。

2 地方交付税の役割

 財政学者の稲沢克裕は、交付税の役割を「どこに住んでいても、どの世代においても、国民の基本的自由と機会の平等を衡平に保障していくこと」としています。
 この「衡平(equity)」という言葉は、交付税の基となる制度をつくったCarl S. Shoup がいわゆる「シャウプ勧告」の中で多用した概念です。従って、地方交付税を理解する上でも重要な概念なので覚えておいてください。(ただし、税の問題なので、「公平」という要素もかなり強くなっている印象です。)
コトバンク> <動画(16:30~)>
 総務省HPでは「本来地方の税収入とすべきであるが、団体間の財源の不均衡を調整し、すべての地方団体が一定の水準を維持しうるよう財源を保障する見地から、国税として国が代わって徴収し、一定の合理的な基準によって再配分する、いわば国が地方に代わって徴収する地方税である。」としています。
 ちなみに財務省HPでは「地方交付税交付金」と記述しています。”地方税ではない”という同省の主張を反映したものでしょう。
 根拠法である地方交付税法第一条では「地方団体が自主的にその財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能をそこなわずに、その財源の均衡化を図り、及び地方交付税の交付の基準の設定を通じて地方行政の計画的な運営を保障すること・・・」としています。
☆ 不均衡と不均一から生じる各地方自治体間の行政費用と税収の差を一定の範囲に収めるために衡平する制度が「地方交付税」

3 地方交付税によって衡平される行政水準とは

 交付税によって衡平される行政水準とはどのようなレベルなのでしょうか。地方交付税法第三条三項にはこう書いてあります。
「地方団体は、その行政について、合理的、且つ、妥当な水準を維持するように努め、少くとも法律又はこれに基く政令により義務づけられた規模と内容とを備えるようにしなければならない。」
 後段の「義務づけられた規模と内容」が財政学上のナショナルミニマムに該当する部分です。しかし、前段には「合理的、且つ、妥当な水準」という言葉が使われています。この「合理的、且つ、妥当な水準」を財政学者の持田信樹は「ナショナルスタンダード」という言葉を使って説明しています。
 「政府が国民全員に保障するべき最低限度の公共サービスの水準」という意味のナショナルミニマムに対して、ナショナルスタンダードは最低限度ではなく、期待されている標準的な水準という意味です。
 文章ではわかりにくいと思いますので、図に表すと下のようになります。

※ ナショナルミニマム、ナショナルスタンダードは公的に使われているものではなく、学者が制度を論じるときに用いられている言葉です。従って、法律の条文等には一切登場しませんが、交付税を理解するのにとても便利な概念です。
☆ 地方交付税が衡平する行政水準は「最低限以上のもの」

4 地方交付税額はどうやって決まるのか

 2でみた交付税の役割を果たすために用いられている概念が「基準財政収入額」と「基準財政需要額」という概念です。
 これは地方自治体の実際の歳入歳出(予算)とは無関係に、各地方自治体が標準的な歳入努力を行った場合にどの程度の税収が得られるか、各地方自治体がナショナルスタンダードを実現するためにどの程度の歳出が必要か、ということを可視化するためのものです。
 詳しくは次回以降に説明しますが、各地方自治体毎にこの二つの数値を計算し、基準財政収入額が基準財政需要額に満たなかった場合、その差額を埋めるのが交付税です。
☆ 地方交付税の額は「基準財政収入額」と「基準財政需要額」の差で決まる

5 地方交付税の財源

 交付税の財源は次のとおりです。
 所得税・法人税の33.1%、酒税の50%、消費税の22.3%、地方法人税の100%
 金額的には令和2年度当初ベースで計約16兆8千億円となっています。
☆ 地方交付税の財源は国税の一部