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「大学教授とベンチャー企業経営の傍ら、手作りの東風笛(こちぶえ・竹製の笛)でアレンジ曲の演奏を楽しむ」後編 東京理科大学薬学部生命創薬科学科 和田猛教授

本記事は2016年に対談したものです。情報はその当時のものですので、ご了承ください。

前編からの続きです。


●一本一本が個性を持ったオリジナル

enmono三木 後半はせっかくこちらに笛をいくつもお持ちいただいていますので、先生に一曲。

和田 じゃあ短いヤツを。「ロンドンデリー・エアー」というスコットランド民謡のさわりを。

※演奏

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三木 ありがとうございます(拍手)。

enmono宇都宮 こんな間近で聴けると気分が違いますね。

三木 時々和のテイストもあったりして、ちょっとかすれるみたいなところもあったりして、いいですね。

和田 その辺がオリジナリティ。

三木 演奏してる時は集中して心が「空」になる感じですか?

和田 邪念が湧くと演奏できない(笑)。

三木 たまたま私の友人に尺八の演奏家がいて、このあいだもそのワークショップに行ってきたんですけど、かなり呼吸法が重要だということで。本当に邪念があると突然吹けなくなると。

和田 そうですね。

三木 現代人ってパソコンとかスマホとかで肩に力が入っていて、その状態だとうまくできないので、まず肩のリラックス運動から入るようなワークショップなんですけど、先生も演奏されていて「今日は調子が悪いな」という時はありますか?

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和田 もちろんありますよ、それは。やっぱり変に力が入ってしまうとうまくいかないですし、緊張したりとか、うまく演奏してやろうとか思うとダメだし、自然体でやるといい(と思います)。

宇都宮 精神の統一みたいなことはご自身でされるんですか?

和田 特にそういうことはしないですけど、まぁ気持ちを落ち着けて、集中して。

三木 この笛を吹くこと自体が心をリフレッシュさせるというか、整えることなんでしょうね。

和田 そうですね。あとは世の中にたくさんある、例えばフルートだとかピアノだとかを演奏される方はたくさんいてうまい方がいっぱいいるけど、この東風笛っていうのは私しか演奏できないし(笑)。世の中にひとつしかないので。

宇都宮 比較されようがない。

和田 ない。

三木 完全にオリジナルですね。

和田 オリジナルのものなので、そういう意味では気楽というか。笛も一本一本全部個性があって違うので。同じようなサイズの一節(ひとふし)であっても孔を開けると音が全然違うので、一本一本の笛は本当に世界に一つしかない個性的な笛になりますね。

宇都宮 曲によって変えたりするんですか?

和田 そうですね。この笛はこの曲に合うとか。

宇都宮 そういうのがあるんですね。

和田 あります。

三木 ご自身でなにか作曲をされることはありますか?

和田 作曲は残念ながら。そこまで手がまわっておりませんので編曲どまりですけども(笑)。

宇都宮 ゆくゆくは……。

和田 そうですね~。音、音色というか、そういうものを大事にした、バロック音楽とはまったく違う形の音を届けるっていうようなことはやってみたいなぁと思いますね。

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●演奏することでリフレッシュされ、新たなアイデアが生まれる

宇都宮 室内と野外では環境が違って、野外の方が難しい気がしますが。

和田 野外は非常に難しいですね。こないだの野外コンサートは夜やりまして、非常に寒くて風もあり。

宇都宮 環境としてはかなり厳しい。

三木 彼(宇都宮)は風邪を引いて一週間くらい寝込みまして。

和田 あ、そうでしたか。大変でしたね。

三木 先生は大丈夫でしたか?

和田 大丈夫でしたが手がかじかむし、大変でした。その一週間前に「こんぶくろ池」という自然の池のまわりで野外コンサートが昼間にあったんですけど、その時は非常にあたたかく、野外だったんですけどベストコンディションで、笛を吹いていると鳥のさえずりが聞こえてきて、それは素晴らしい環境でしたね。
和田 環境を選びつつ演奏できたらいいなと思います。特に自然の中で、自然と一体になって竹の音色を響かせるっていうのは本当に素晴らしい体験でしたね。

三木 演奏している時に研究のヒントを思いつくということはありますか?

和田 演奏している最中はさっき言った通り「無」なので、終わったあとに思いつくことはあります。クリアされたので。例えば研究が煮詰まっちゃって、もうこれ以上いいアイデア出ないなという時に笛を吹いて、しばらくしてホッとすると「あー、なんだそういうことだったのか」とかね。新しいアイデアが浮かんで解決したりとか。そういうことはいくらでもあります。

三木 すごいですね。私もやってみようかな。

和田 なにか楽器の演奏とかやられるといいかもしれないですよ。

三木 私実は毎朝メディテーション――マインドフルネス瞑想をやって、同じですよね。完全にクリアになって、終わったあとに「あ、そういえば」みたいなのがいっぱい出てきます。だから多分同じような活動なんですね。

和田 同じなんだと思います。非常に貴重な時間ですね。音楽をやるっていうのは。

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●クラウドファンディング、いかがですか?

宇都宮 東風笛はほかの人にお勧めしていないんですか? 一緒に吹いてみませんか、とか。

和田 まだそこまで手がまわってないというか、あまりにも忙しいので、とりあえずこれでいっぱいいっぱいなんですが、ゆとりができれば――いつできるかわかりませんが、そういうのを広めてみたいと思ってはいます。東風笛自体もオリジナルなので「こういう設計図でこう作るとこういう音がする」っていうのを公開してしまって、東風笛というものをほかの人にも作ってもらって、それを世に広めるという活動もそのうちやってみたいなと思っています。

三木 すごく丁寧にホームページも作られているし、日本語版/英語版も両方あるし。三つくらいホームページやられてますよね?

和田 そうですね(笑)。

三木 ペンネームみたいなのもありますよね。

和田 ペンネームは和竹っていうんですけど。平和の和に竹と書いて。私、名前が和田猛なので、それと似てるっていうのあるんですけど、和の竹で笛を作っているということで和竹っていう名前に。

三木 それで誰かと楽しく会話をして交換したみたいなことも。

和田 そういう活動も今までありまして。以前、mixiであるとかFacebookを通じてそういう交流がございます。

三木 素晴らしい楽器をぜひ世界に広めたいですよね。

和田 サイエンスの次は笛で(笑)。

三木 我々はクラウドファンディングというのもやっておりまして、こういうのを載せてですね。

和田 ああ、ぜひ宣伝していただきたいです。

三木 お金も集まりますし、一緒にやりたい人募集とか、東風笛ワークショップを開きたいので、それでお金を集めるとか、そういうこともできます。

和田 それはいいことを聞きました。

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宇都宮 先生ご自身はすごく忙しいでしょうから、そういう仲間ですよね。手伝ってくれそうな人を。

和田 そうですね。身体がいくつあっても足りない感じですけども。

三木 今は研究が8割くらいで、こっちは2割くらいなんですか?

和田 1割くらいかな……という感じですけども。

三木 1割にしてはすごく活動量がある感じがしますね。

和田 そうですね。いついつコンサートをやるって決めたら、それに向かって計画を立てて進んでいくと。それも一人でやっているわけではないので、仲間みんなで作りあげていくという形になっています。

三木 先程の創薬ベンチャーのメンバーの方も何人かいらっしゃるじゃないですか。その中に音楽を演奏する方はいらっしゃらないんですかね。

和田 いや、あんまりいないですね。残念ながら。それはちょっと残念なんですけど、これから一緒にできたらなと。だからボストンに行って会社の方でミニ演奏会みたいのをしたりはするんですけど。


●創薬の研究をはじめたきっかけ

三木 モノづくりとサイエンスが融合するとこういう世界ができるんですね。

和田 非常に凝り性でこだわりの強い人なので、徹底してやると(笛を指して)こうなっちゃうっていう。研究もそうなんですけど――ちょっと研究の話に戻ると――研究の内容というかフィロソフィーというか、あんまり今流行っている研究には魅力を感じなくて。

和田 流行っている研究って皆さんすぐ飛びつきがちですし、脚光を浴びるし、予算がつきやすいとか、いいことがあるんですけど、本当に自分の心に問いただして「これは本当におまえのやりたいことか」と言った時に必ずしもそうではないので、やっぱりできれば、ゆとりがあれば――やっぱりお金がないと研究もできないので、お金を獲得するということも大事なんですけど――本当に自分が興味を持って、「面白い!」と思えることを研究としてやりたいですよね。

和田 それがたまたま世の中のニーズと合えば非常にハッピーですけども、今の創薬の研究というのはたまたま世の中の流れと合いましたけども、一時期はほとんどの人が注目していない分野だったわけで、だけど流行りが去ったからといってその分野から去ったんじゃなくて、しつこくずっとやり続けていたからいい波に乗れたということがありますので、そういうのが大事だなと思って、若い人たちにはそういうことを伝えています。

三木 先生がこの分野に興味を持ったきっかけはなにかあるんですか?

和田 もともと化学に興味を持って大学に入ったわけですけども、その時生物学にも非常に興味があって、じゃあ自分が将来どっちの方向に進もうかと思った時に、一応化学で勝負したい、だけども化学の手法を用いて生物学の研究をしたい。そういう切り口で化学の手法を用いて生物に関連するようなモノづくりをしよう。その究極的なところに創薬というものがあったという形でずっと、この分野に入ってから研究が繋がっているんですね。

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三木 先程苦しい時代もあったとおっしゃってましたけど、そういう日の当たらない時代ってどういう風に自分の情熱を維持して研究を続けられたんですか?

和田 その時は学生時代だったので自分でお金を稼いでくる必要はなかったんですね。指導教員の先生が「好きなことをやっていいですよ」ということを言ってくれたので、本当に自分のこだわりを持った研究を続けることができたというのは非常に研究者として幸せだったなと思って指導教員の先生には非常に感謝しています。

三木 研究費とかもそんなに出ない時代も当然あったと思うんですけど、そういう時はどういう風に継続していたんでしょうか?

和田 ああ、なるほど。研究の種類によってそれほどお金のかからない研究もありますし、私たちの研究分野というのはそれほど巨額な研究費が必要とされるような研究分野ではないので、そういう意味では自分の研究は特に制約を受けることなく続けてくることができました。

宇都宮 なにか装置が必要なわけではないのですか?

和田 はい。基本的なものさえあれば、あとは試薬を購入して、フラスコとかそういう基本的な実験器具だけで。

三木 創薬というのはものすごくお金がかかるのかなというイメージがあったんですが、そうなんですね。

和田 もとの化合物を作ることだけに限っていえば、それほどお金はかからなくて、それを薬として仕上げていく段階で莫大なお金がかかってきます。動物実験をしたりですね。

宇都宮 そのあたりはメーカーのお仕事になってくるんですか?

和田 なかなか大学の一研究室の単位でできる仕事ではなくて、それはやはり製薬メーカーとコラボレーションするなり、製薬メーカーの設備であるとか資金であるとか、そういうものを使わないとなかなか薬を世に出すということは難しいですね。

三木 今これがようやく脚光を浴びてという段階になってどうですか?

和田 今は非常にワクワクしています。今のところ順調に来ていますので。今やっているもの自体が薬になるかというのはわかりませんけど、技術的には大学でいいものができたと。それを世に出すための仕組みもできてきたと。あとは精一杯みんなが同じ方向に向かって力を合わせて研究して、それが運良く世に出ればこんなに幸せなことはないです。

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和田 やれるだけのことを全力でやり尽くせば私としては本望であると思いますし、私どものやっていることは、一つの目的のものを作るだけじゃなくて、ものを作るための道具ですね。有機化学の言葉で言うと、「新しい反応」を開発したり、「新しい試薬」を開発したりということをやっていますから、例え一つのものが完成しなくてもその道具を使ってほかのものができる。その道具から作るというところに醍醐味があるという風に思っています。


●日本のモノづくりの未来

三木 なるほどです。色々お話は尽きないんですけど、そろそろ最後の質問をさせていただきたいと思います。皆様にいつも質問しているのが、「日本の○○の未来」という感じで、○○はご自身の興味関心のある言葉を入れていただきたいのですけど。

和田 まさにこのテーマなんですけど、日本のモノづくりの未来という形で。モノづくりといっても色んな分野、色んな段階のものがあると思うんですけど、今非常にグローバル化している中で日本発のモノづくりって将来的になにがあるかと考えた時に、私はやっぱり日本の特性、日本人の特性を活かしたものを磨いて、そのオリジナリティを大事にして、それを世界に発信し、それで勝負していけたらいいなという風に思っています。

三木 まさに先生のやってらっしゃるオリジナリティですね。

和田 そうですね。マイクロモノづくりっていうのもそうですし、できるだけ大量生産というか一つのものをいっぱい作るっていうのではなくて、一つ一つ個性的なものをカスタマイズした形で、しかも日本のこだわりを持った職人芸的な、そういう高い技術をもって誰も真似のできないオリジナリティ、しかもクオリティの高いものを世に出していけば、それは後世にまで残るものになるし、それが人々の役に立つものになるんじゃないかなという風に思っています。

三木 先生の生き様そのものがオリジナリティですね。

宇都宮 東風笛もオリジナリティで。

和田 研究もそうです(笑)。

三木 今日は本当に楽しいお話をありがとうございました。

和田 ありがとうございました。

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対談動画


和田 猛教授

:⇒https://www.facebook.com/wadake

和田研究室WEBSITE


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