MMS171佐久間さん

第171回MMS(2018/10/8対談)「既存建築を再構築し直して生まれ変わらせるためのあらゆることを手がける」㈱建築再構企画 佐久間悠さん

●ご挨拶と出演者紹介

三木:マイクロモノづくりストリーミング本日も始まりました。株式会社建築再構企画の佐久間さんをお訪ねして、最近非常にリノベーションとか流行っておりますが、知らないうちに建築法を超えてしまっている等々、建築にまつわる法律のコンサルティングをされているということで、これからの日本に非常に重要なお仕事をされております。そこから建築の中でも、クリエイティビティが最近色々と危惧されているところがあって、新しい再構祭(さいこうさい)というお祭り(イベント)もされているので、そのお話も合わせて伺っていきたいと思います。よろしくお願いします。

佐久間:よろしくお願いします。


●enmonoとの出会いについて

三木:まず佐久間さんと我々の出会いなんですが、2011年ぐらいに日本コンピュータ開発という会社さんのフェイスブックセミナーに参加して。そこはどういう経緯で来られたんですか?

佐久間:日本コンピュータ開発の社員さんと、横浜であった異業種交流会で知り合いになって、「次こういうのやるので来られませんか?」とご紹介いただいて参加させていただきました。その時に一緒にお仕事をさせてもらうことに後々なった浅井製作所の浅井英夫さんは、Facebookを上手に使ってるというご紹介をされていて、こういう人達にお話を伺えたらなと思って、その後“発電会議”とかに参加させていただき今に至ります。

三木:その時佐久間さんは、フリーランスの建築士としてちょうど東京にいらしたばかりの時でしたか?

佐久間:いえ、設計事務所に2社勤めた後に、同級生と一緒にやってた仕事で大きいのがたまたま取れて、これは副業ではやっていくのはしんどいなというので独立したんですが、あまり仕事がない状況で、顔を広げる意味で色んなセミナーに参加していた時期でした。

宇都宮:その時はまだ建築再構企画じゃなかったんですか?

佐久間:ではなかったです。今のような仕事もあまりやっていなくて、どうやったら営業できるのかみたいなことを考えていました。

三木:それでフェイスブックセミナーに?

佐久間:そうです。ランチェスターを読んだり差別化みたいなことを…

三木:色々悩まれていた時期で?

佐久間:そうです。建築の設計の仕事って飛び込み営業やってもなかなかないので、どうやって営業しようかと考えてた時期ではありました。


●建築再構企画の紹介

三木:今やってらっしゃるお仕事を簡単に説明していただいていいですか?

佐久間:私たちの会社は一応設計事務所ですが、違法建築とかちゃんとした手続きを取っていない建物というのが世の中にものすごく多くて、そういう建物を是正する設計を主にやっています。国土交通省が持ってる資料としては、平成10年の建物が一番古いんですが、その時にちゃんとした検査を受けてる建物は38%しかなくて、6割強の建物が何かしらダメなところを持っています。最近リノベーションとか流行ってますけど、そういうのをやろうという物件は平成10年って比較的新しい部類で、うちにも相談に来るボリュームゾーンというのが、昭和50年60年ぐらいから平成初期ぐらいの30年選手で、そろそろテコ入れしようかという物件なので、その辺になってくると体感としては、適法なものが10%を割っている感じです。。

三木:すごいですね。

佐久間:そういうのって最近コンプライアンスがうるさくなってきてるので、銀行も融資をつけにくかったり、あとは用途変更という建築基準法上の手続きがあるんですが、例えば(いま対談している)このオフィスの2階のフロア全部を、病院にするとか保育園にするとか用途を転用したいとか、あるいは増築をしたいとかいう時には手続きがいるんです。その手続きをするためには、今の建物が適法である前提で次の手続きに移れるので、その(適法なのが)10%しかないやつを変えようと思うと、当時ちゃんとしてた、あるいはこの建物は今ちゃんとしているということを、事業者の側で証明しないと次の手続きに進めないんです。そうすると構造も含めて全部正しいことを証明しないといけないので、ちゃんとこの柱の中に鉄筋が図面どおり入ってるかということを、超音波を当てて調査したりしないとできないのです。そういったご相談を受けて、コンサルティングをして次のステップに進めるようにしたり、ちゃんと適法な状態にして銀行の融資を受けられるようにしたり、それがもし必要であれば直すような設計をするという仕事をしています。

宇都宮:それは施主の方から依頼が来るんですか?

佐久間:色々ですね。例えば保育園だったら保育園を運営したいというテナントさんから、「ちょっとオーナーの建物がダメみたいなんだけど」という場合もありますし、逆にオーナーさんから「保育園を入れたいんだけどうちの建物ちょっとダメなので」という相談を受けたり色々です。

宇都宮:ダメって気づいてなんですか?

佐久間:気づいてが多いです。でも行政に持って行って「これダメだよ」と言われて肩を落としてうちに現れる方が多いです。

宇都宮:行政に行くと分かるものなんですか?

佐久間:(開業するための)手続きがあれば分かります。

宇都宮:普通は分からないということですか?

佐久間:昔は分からなかったようです。というのは行政も縦割りで、保育の人達は保育で高齢者施設の人は高齢者施設、学校は学校みたいな割と手続きも分れてたので、今はすごくそういうことが問題視されて色々批判もあったので、行政内でも情報共有を密にするようになっていて、「この建物は本当に大丈夫か?」みたいな話が建築の部局のほうに行くと、そこで「ちゃんとした手続きしていないからそういう風に言ってくれ」みたいな話が、役所内でやり取りがされるようになっていて。

宇都宮:ビジネスしてて商業施設だとそういうことが起こり得るということなんですか?

佐久間:そうですね。

宇都宮:個人はあまり関係ないんですか?

佐久間:あります。例えば両親が今地方で施設にご入居されてるということで空き家で、「これを相続しようという状況になった時にどうしようか?」みたいな、そのままだととても貸せないというやつを、シェアハウスとか旅館にしたり、今外国人が多いので用途を変えたいといった時に問題に直面することが多いです。

宇都宮:市場が広がってますね。

佐久間:既存ストック活用みたいなのを国を挙げてやろうみたいな姿勢になってきていて、かたや空き家が1,000万戸近くあるという状況なので、今ある建物を生かそうと思うと、その辺りの法律のところがネックになってくるという状況があります。

宇都宮:そういう状況って建築士さんに相談するものなんですか?

佐久間:相談先があまりなかったんだと思うんです。

宇都宮:行政に行って指摘されて、でも行政は受け止めてもらえないんですよね?

佐久間:「ちゃんとやってね」と言われて帰って来るだけなので、今まで受け皿がなかったんだと思うんです。大きなディベロッパーさんであれば、大手設計事務所とかに相談ができたと思うんですが、5階建てぐらいの建物のオーナーって、個人だったり小さい会社さんが多いので、そういう方が相談する先がたぶん全然なかったんでしょうね。

宇都宮:今佐久間さんだけ?

佐久間:同じような仕事をされている方が何人かおられます。あまり昔はそういう仕事をする人がいなかったので。

三木:僕らと最初にお会いした頃から、今のお仕事量ってどのぐらいに増えているんですか?

佐久間:物件数でいくともう10倍ぐらいにはなっています。今相談案件ベースだけでも20物件ぐらい。

三木:今ちょっと待っていただいてる感じですか?

佐久間:そうですね。

宇都宮:面倒くさそうな仕事ですよね?

佐久間:そうなんです。だから色々調べた結果「もう諦めたほうがいいです」みたいなアドバイスもあったり。

宇都宮:あるいは投資効果がないとか建て替えないととか?

佐久間:そうですね。建て替えたほうがむしろいいんじゃないかという相談もあります。

三木:新しい建て替えのお手伝いをしますみたいになったりするんですか?

佐久間:そうです。


●新刊書籍『事例と図でわかる建物改修・活用のための建築法規』について

三木:そんな中で培われてきた様々なノウハウを今回こちらの本、『事例と図でわかる建築法規』。

宇都宮:重版かかったそうでおめでとうございます。

佐久間:ありがとうございます。

三木:建築の法律家、佐久間さんということで、これは今AmazonのランキングでカテゴリーNo.1。

宇都宮:売れっ子作家さん。

佐久間:いえいえ。お恥ずかしい。

三木:先ほどちょっと中を見せていただいたんですが、非常に細かいノウハウがぎっしりと書かれています。さっきビールの会社の事例があったんですが、非常に広大な施設があって、そこを買い取ってクラフトビールを作るというところで、その中に巨大なビールの醸造タンクを入れるところまでのお話が書いてあって、ちょっとそこのお話を伺ってもいいですか?

佐久間:クラフトビール会社さんだったんですが、元々の工場を本社の近くにお持ちだったんですが、借地借家の状態でした。ビールを海外にもすごくこれから売っていくというお話だったので、ビールの生産量もかなり増やしていくという状況だったんです。ところがビール工場というのは、大きいステンレスのタンクがボトルネックになるようで、それを増やさないと生産量が増やせないと。借地借家で土地や建物に余裕もなかったので、せっかくなので事業用地と建物を買ってしまおうということで…

三木:すごい資金量があったんですね。銀行がガンと融資したんですか?

佐久間:だと思います。

三木:結構業績が良かったんですかね。クラフトビールでかなり今売れているビールの会社らしいんです。

佐久間:そこを買われたのが、いわゆる事務機器メーカーさんの新入社員研修の研修所の建物が建っていて、6万平米ぐらい敷地があるんですが、敷地内にテニスコートがあったりグラウンドがあったりという大きい敷地で、今ある建物を使うのか、新たに工場を別棟に建ててしまうのか、お金とか今後の運用とかも考えたところ、建物を使っていったほうがいいだろうというところで検討を始めました。

三木:話が来た時はもうすでに土地を取得された後?

佐久間:そうですね。物を取得されてっていう…

三木:普通だとまず法律とか替えられるか調べてから…

佐久間:工場を建てる予定地だったので、その辺りのところは基本的にはクリアしていて、今ある建物をどの程度使えるかというところまでは押さえられていたので、全くダメということはあり得ないという状況だったんです。ただ事業性とかその会社さんの効率だったりとか、ブランディングというところも含めてご相談に乗りました。社長はヨーロッパのビール工場なんて倉庫をリノベーションして使っている事例をたくさんご覧になられて、日本でそれができないわけがないという強い信念をお持ちだったので、それを考えると今の建物を使っていく方法を考えたほうがいいだろうなというところで進めました。ただいわゆる教室みたいな部屋がズラーっと並んでる建物だったので、ビールのタンクを入れようと思うと全然天井高が足りないんです。

三木:ぶち抜かないと?

佐久間:2階までダーッとぶち抜いて…

三木:構造上ちょっとギリギリな感じじゃないですか?

佐久間:3層の建物だったんです。2階の床をぶち抜いて3階にも既存の工場であったタンクを持ってきて入れるということをやっていって。

三木:すごい重量ですね。

佐久間:その重量を支えるためにどっちにしても柱を足さないといけないので、壁を抜いた部分を地震の力も負担する柱をザーッと並べて入れていったんです。上の荷重を受けるのと同時に地震の揺れも負担するような柱を入れていく操作をして、元々の建物よりも耐震性は高まっています。

三木:そのプロジェクトはどれぐらい時間が?

佐久間:2年半ぐらいかかった。

三木:すごいですね。最初にお話が来たのは人づて経由で?

佐久間:そうですね。しっかりブランディングを考えられてる会社さんで、そこのデザインとかもブランディングデザイナーさんが入られていて、それが実は大学の先輩でそのツテで。

宇都宮:京都工繊?

佐久間:京都工業繊維大学で西澤明洋さんという先輩です。

三木:僕も最近COEDOビールをよくコンビニとかで見かけますけど、印象に残りますよね。非常に良い感じで。案件としては大きいじゃないですか。来た時にどういう風に思われて?

佐久間:最初何をすればいいのかもよく分からなくて、結局どういう計画にするかというのを考えるのに1年半ぐらいかかりました。一部建物を使って一部増築をして一部の建物は全く使わないみたいな最終的にそういうスタイルになったんですが、そこに持っていくのに全部新築にするところから全部建物を使うところまで極端なパターンを5パターンぐらい考えて、タンクも外置きにするという選択肢もあって、それでいくのか建物の中に入れるのか、搬入とかフォークリフトをどう動かすかみたいなのを、色々考えた結果今の形に落ち着いた。

三木:今社員の方って何人いらっしゃるんですか?

佐久間:今3名です。

三木:フル稼働で?

佐久間:実はその頃はまだ社員が1人だったんです。

三木:ご自身だけ?

佐久間:(私)と社員と2人で。

三木:2人でチクチクチクチク議論しながら?

佐久間:色んな専門家が絡んでて、ビールのタンクはドイツの専門家が来て、ベルトコンベアーの業者さんがいたり、工事の施工会社さんとか、あとタンク搬入の鳶さんに「こういうことを今考えてるんだけど可能か?」みたいなことをバーッと詰めて。

三木:こういう案件って普通は大手ゼネコンさんがされるのを、2人の事務所に任せてもらったっていう?

佐久間:そうですね。ここともう1社不動産のほうは創造系不動産の高橋さんという、再構祭の1回目で対談をした方も僕の先輩なんです。そこの不動産屋さんも結構変わってて、設計事務所出身の人しか社員として採らない不動産屋さんで、建築家と土地から相談を受けるみたいな仕事をされてる方です。その方と2人で色々と事業性とかも含めて、どうやったらいいのかみたいなところを…

三木:膨大なプランになったんですね?

佐久間:そうなんです。

宇都宮:受け持ち範囲が本来の建築家という仕事より広い?

佐久間:そうですね。本当にその物件は、自分が設計事務所としての仕事よりも、コンサルのほうをメインにやっていたので、それだけ大きい仕事をやっているのにもかかわらず、メインの建築家がいないという不思議なプロジェクトで。

三木:設計は誰がしたんですか?

佐久間:実際最終的なプランニングというのは施工業者さんがやっています。そこに対して大きな方針だけをこうやって進めていくにはどうしたらいいか、冷蔵室をどうするかとか、ロッカーをどこにやるかとか、フォークリフトをどこに置くかとか、プラス見学者も入れたいという話だったので、衛生のラインをどこで切ったらいいかとか…

三木:すごい面白いお仕事ですね。

宇都宮:完全にオーダーメイドですよね。

佐久間:オーダーメイドですね。実はゼネコンさんに持って行って1回断られたりもしていて。

三木:そういう案件なんですね。でもこの2人の事務所ならできるだろうと信頼していただいた?

佐久間:そうです。

宇都宮:佐久間さんは請け負った理由って何かあるんですか?できそうなイメージが湧いたんですか?取り組んでみたいとか。

佐久間:色々とややこしい案件をやってきたプロセスがあって。建築って本当に複雑で色んな専門家がいて、やればやるほど自分の知らない世界が広がっていくような業界で、お受けしたら何かしらの結果は出せるんじゃないかと。

宇都宮:修行みたいな感じ?何かを得られる?

佐久間:そうですね。得られるし、何かを提供できるんじゃないかというのはありました。

三木:今までで最大の案件ですか?

佐久間:規模的には最大ですね。

三木:すごいね。もう投資効率というのも判断基準になるようなプランを提案するということですね?

佐久間:最初要望されてた全ては…例えば新入社員研修所だったので宿泊施設みたいなのもやろうと思えばあって、下に温泉があったりとかそこまで夢は広がってたんですが、今回の投資規模とか法的な規制とかを考えると、そこを稼働させるのは今回はちょっと難しいという判断をさせていただいて、その宿泊施設スペースを壁でシャッタで区切っちゃってて、消防法的にはそこは使わないという、実際に今使っていないんですが、次期の投資に回させていただいた部分とかもあります。

宇都宮:余地を残してあるということですか?

佐久間:そうですね。

三木:今この工場はもう稼働しているんですか?

佐久間:しています。

三木:良いですね。見学とか行ったらビール飲み放題。

佐久間:飲み放題なのか分からないですけど(笑)。

三木:そういった今まで培ってきたノウハウを全てここ(本)に入れて。

宇都宮:これはどういう人が読む想定なんですか?建築家さんが読むイメージなんですか?

佐久間:最初は建築家向けの本を書いていこうかみたいな話もあったんですが、この事例のCOEDOビールの社長さんのような立場の方だったり、あるいは空き家を持て余してるオーナーさん向けに書きました。最初はすごく小さな空き家をリノベーションしてシェアハウスにしたいという案件から、徐々に福祉施設、保育園、高齢者施設、障がい者支援施設みたいな福祉系の用途が規制が厳しい用途。それからオフィスや工場、ホテルといった大きな商業施設のお話しになります。

宇都宮:建物を持っててモヤモヤしている人向けなんですか?

佐久間:モヤモヤしている人とか、今手続きのところですごく手間取っている人とか。

宇都宮:マンション管理組合とか?

佐久間:そうです。

宇都宮:建築の専門家じゃない人が読むと色々参考になるかも?

佐久間:そうですね。

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●再構祭とenmonoの変化について

三木:今回こちらの本(『事例と図でわかる建物改修・活用のための建築法規』)

を出されましたが、建築から派生して色んなクリエーションというのが今頭打ちのところにあるんじゃないかという危惧を持たれた佐久間さんが再構祭(さいこうさい)というイベントを企画されておりまして、そのお話を伺いたいと思っております。

佐久間:今うちは再構祭というイベントを立ち上げてまして、もうすでに再構祭第一審というのが終わりました。

宇都宮:語感がそういう系なんですね。

佐久間:そうなんです。再構祭って最高裁判所と再構企画の祭という両方をかけてるんですが、1回目は先ほどお話にあった高橋寿太郎さんという創造系不動産の社長さんと対談をさせていただきました。

実はこの本の出版のための記念イベントとして始めたので、出版記念イベントって何をしたらいいのか、後ろに金屏風があって大きい垂れ幕がついてというのはちょっと違うなと思って、専門書なのでそういうことをやってもあまり面白くないなと思ったので、僕が今気になっているお仕事をされている方を何人かお招きして対談をさせていただこうというところで、今月(10月)の26日にenmonoのお2人とtsug,LLCというデザイン事務所をやっている久下さんをゲストに招いて対談をしていきたいと。

三木:どの辺で我々のことを気になっていただいてたんですか?

佐久間:実は僕の認識としては、enmonoのお2人というのはモノづくりを支援されてる方で、スクールをやられていることも存じ上げてたんですが、そこからある時期から卒業生の方のアウトプットの方向性がガラッと変わってきて、プロダクトじゃなくてアートで美術館(FACTORY ART MUSEUM TOYAMA)になったり、ちょっと方針転換をされたんじゃないかと思ってたら、マインドフルネスや禅のお話がでてきて。

三木:「何なんだ?この人達は」みたいな(笑)。

佐久間:どういう旋回をされたのかと思ってたんですが、先ほど宇都宮さんから建築の設計の範囲を超えてこられてる感じがするというお話をいただいて、自分もそういう感覚があって、お金の話とかブランディングのことだったり融資が通るかみたいなことだったり、設計ってオーナーさんやテナントさんの要望を叶える1つの手段でしかないなという感覚があって、そしたらもう少し外の領域にも広がっていくべきだし、今私の主要なフィールドとしては法律なんですが、建築基準法だけじゃなくて保育園だったら児童福祉法だったり、ホテルだったら旅館業法みたいな建築の法律以外のところにも広がっていって、サービスとしてはそういったところまで理解していくと、スケジュールがどういう風になっているかとか、審査する側はどういうことを見てるか、みたいなところまで踏み込んでいったほうが、自分の仕事の幅も広がるし、お客さんの満足度も上がるんじゃないかということを考えていた時に、たぶん同じような時期にenmonoさん達も活動のフィールドを広げられたんじゃないかというところですごく興味があって。

三木:我々は最初プロダクトを生み出すということで、新商品開発をやっておりまして。ところが製造業だからと言って、必ずしも新商品を生み出すことだけが、彼らの事業を伸ばすことではないということに気がついて、例えば富山の金型屋さんは、新商品を生み出したいと来たけれども、その方の本質をどんどん探っていったら、モノではなく美しい工場というコンセプトになってきて、美しい工場は美しいだけじゃなくて他の方の美しいモノも展示する、美術館のような工場というコンセプトになって、それがFactory Art Museum Toyamaという、金型屋さん初のミュージアムになりました。

そこには様々なクリエーターとか哲学者とかが集まって、そこで生み出されたクリエーションを、その工場が引き受けられる場所を作っていこうみたいな形になったり。今度講演会をある大手ITベンダーのほうでもやるんですが、その方は元々その会社の中で人工知能の研究開発に携わってる方で、単純にシステムを作るということではなく、その方がずっと鍛えてきたエンジニアとしての美意識をシステムに置き換えていくと、実はそれがものすごい人工知能システムになっていったりとかして、人間の本質の部分にあるクリエーションを取り出すと、必ずしもその人の業界の技術に縛られる必要はないということに気がついて、だから製造業が美術館になってもいいし、逆にアートの業界の人が製造業になってもいいですし、様々な業種を超えていくということが、新たな価値を生み出すことだと気がついたので、そういうのをどんどん掘っていくと、最終的には人間の心ということに行き着くわけです。それで2、3年前から取り入れているマインドフルネスとか、あるいは1,000年以上の歴史がある日本の禅というものにそこのヒントがあるということに気がついて、さっき紹介した本(『トゥルー・イノベーション』)の中には、日本の伝統的な禅的なところからどうイノベーションを生み出すのかというところを書いていたり、そういう旋回をさせていただいているということになります。

そういうところで注目していただいたのは非常にうれしいですし、今回の再構祭でもそういうモノづくりから発祥したけども、それが別の業界にどんどんシフトしていって、受講生もそういう展開になってきているという話をぜひさせていただければと思います。

佐久間:今この第二審の再構祭のテーマは、『モノづくりの現在(いま)』というタイトルを考えています。

まさに今三木さんがおっしゃったように、私は建築もモノづくりの1つだと思っていて、設計なら設計、施工なら施工みたいな職能はこうです、みたいな枠から外れてくる人達が結構出てて、お2人はご存じだと思うんですけど、co-ba(コワーキングスペース)の中村さんは元々彼も建築学科を出られて施設運営のほうに入っている方で、コワーキングスペースを作られたりとか、事業というものを見据えて色々やられてるなと。

三木:すごい(株式会社)ツクルバさんも伸びてますね。

佐久間:そうですよね。

宇都宮:箱という物体よりも、空間とか場というどういう人が集まってどういう風になっていくかというそっちの打ち出し方があって。

佐久間:製造業に関してもAIだったりとかを考えると、単に今ここのデバイスだったりとかインターフェイスとかそういうもののデザインだったり、プロダクトアウトというものを超えて、その製造過程全部もそうですけど外側だったりとか、あるいは自分が本当にこれを使いたいとかを考えるようになっていかないと、モノを生み出すということを考えられなくなる世の中になっていきそうだなと思って。

三木:そうですね。全体の世界観を作れないとものすごい小さい収益しか得られない、小さいデバイスのこの辺の小さい小鉢なので、全体の世界を設計するという世界を持つために、僕らがやっているアプローチは、瞑想していただいて10歳の夏休みの思い出から、その人の本来やりたいことというのを、ダイアローグとして取り出していくというアプローチなんです。

佐久間:ずっとワクワクっておっしゃってましたね。

三木:ワクワク感をいかに具現化させるか、それを大きな世界の中でどう具現化させるかというところを追求してやっておりまして、そうすると全然カテゴリーはモノづくりじゃなくてもいい。最近の受講生は精神科病院の事務長さんとか、アスリートトレーナーとか、障がい者向けの作業所の所長さんとか、当然メーカーの方もいらっしゃいますし、人工知能の研究者、本当に色んな業種の方が受けられてらして、世界をデザインするという意味だと人間であれば誰でも受講していただけるような…

宇都宮:人間じゃないとまだ難しいかもしれない。僕らもまだ。

佐久間さんに仕事を依頼する方って、そういう世界観があったりとかしてこだわってるみたいなところがあったりするんですか?

佐久間:そうですね。ある程度持ってる方のほうが多いし合うのかなとは思います。

宇都宮:そうするとその人の中にある世界観だから建築家さんにこういうことをお願いしようと、バーンとぶつけてこられる感じなんですか?

佐久間:未知な仕事をしているので、法律のほうに寄ってるというのは専門性について職能を発揮してほしいということが多いんですが、最近の再開発を見てると大手デベさんでも昔は自分の建物、敷地の中だけのことを考えてたのが、例えば三菱地所さんは東京駅の丸の内なんてすごく雰囲気が良くなってきてると思うんですが、東京という町をどうすべきかみたいなことを考えてる人が割と増えてきていて…

宇都宮:そうなってきてるんですか?

佐久間:きてるかなと思います。

宇都宮:ゆくゆくは「この地球をどうしたいんですか?銀河系の中で」

佐久間:そうですね。知事も東京だけだったり日本だけということを考えてても、今世界と戦わざるを得ないというか。

宇都宮:情報自体はもう世界中リアルタイムにどんどん入ってきたりするし、それは向こうにも届いたりするのかもしれない。

三木:世界観がある政治家が非常に少ない感じです。どういう都市、どういう県、どういう東京都にしたいか。


●建築再構企画の今後の方向性について

宇都宮:佐久間さんが今現在やっているお仕事というのは、ユニークなほうへ仕事を受けようみたいな方向にきてるんですか?

佐久間:そうですね。

宇都宮:向かってる方向って何かあるんですか?

佐久間:いただく仕事のほうから変わってきてるのがあって、今やってるのは再開発の地権者さんのコンサルをやってたり、設計をしてるんじゃないんです。

宇都宮:施主とかそういうのじゃなく地面のほう?

佐久間:商業床を取得される元々の地主さんから、友人経由のご紹介なんですけど、その商業施設がどうやったら良くなるのかとか…

三木:まさに僕らとも連携すると「どういう世界をあなたは創りたいですか?」そこから入っていかないと。

宇都宮:zenschoolにみんな入っていただいて。

三木:この世界観があってこの土地を取得してこういうものを作ることで世界ができますよみたいな。

宇都宮:土地神様とかそういうところまで入るんですか?

佐久間:そこまではないですけど、規模がでかいと建物って人の流れを変えちゃうので、建物的に良い悪いみたいなところを超えて、町の流れを変えちゃう部分がありますし、町の流れが変わると下手すると例えば新幹線が停まるみたいなことが起きると、町そのものが変わってきたりということがあるので、そのことは少しは意識しないと、とんでもない再開発で失敗した建物を私はいっぱい見てきたので。

宇都宮:それだと都市開発みたいなことを専門的にやってる人もいたりするんですか?

佐久間:もちろんいます。再開発コンサルみたいな会社もありますが、そんなに数は多くないです。

宇都宮:まだまだニーズに応えきれてない感じなんですね。

佐久間:そうですね。そのコンサルそれぞれが色んなところでやるので、北海道と沖縄で同じことをやってうまくいくかというとたぶん違うんです。日本って広いので。

三木:だいたい提案書が全部コピペなんですよ。それで○○様だけつけてその県とかに持って行って…

宇都宮:それはコンサルって言うんですか?

佐久間:そこまではひどくないですが、彼らのノウハウというのは、色んなところで培ってきたノウハウをここで使おうとするので、ここというのは今ここで…

宇都宮:かつてのあれじゃなくて今この先…

三木:未来ではない。

佐久間:そこにフィットさせていくというのは地権者の側が頑張らないと、今までここで頑張ってきた人達の想いと、急に入って来たコンサルとの熱量はギャップができるので…

宇都宮:地域おこしもよく熱量の差があったりしますもんね。

三木:そこはダイアローグしていかないとダメですね。イケてるコンセプトをコンサル会社が持って来て「じゃあこうしますから」みたいな、よく分からないから質問も出ないみたいなので進んじゃって「いや、違う」みたいなことになりがちです。

宇都宮:そこはうまくダイアローグという形で、お互いが意見が出せるような空気づくりをして、専門家は専門家の言葉でしゃべるんだけど伝わるようにするという手法が大事。

佐久間:そうですね。「翻訳」という言葉をよく使うんですけど、色んな人が話したい言葉をうまく咀嚼して、業者さんとかクライアントさんとかの間に立って伝えていく仕事というのがいるんだろうなと思っていて、それは専門家の職能も必要とされるし、想いとか気持ちみたいな部分も必要になってくるなというところがあるので…

三木:ファシリテーターですよね。

佐久間:そうですね。そういう業務に近づいてきてたり、そういう仕事を多くやっていきたいなというところはあります。

宇都宮:今後そういう必要性はどんどん高まりますよね?

佐久間:そう思っているので。

三木:ファシリテーションとかダイアローグのスキルというのが、たぶんこれからますます重要になってくる。要は1対1だけじゃなくて、そこにいらっしゃる住人とか地権者さんとかたくさんの人がいて、それぞれの声を出してもらうみたいな場を作っていくとか、それからどうやってダイアローグしていくとか、ファシリテーションの能力がたぶん必要です。

宇都宮:そういう対話がしやすい空間を作られたりとか。単なる公民館とか体育館に集まるとかじゃなくて、そういう良い感じの場がほしいなという。

三木:場所もそうだけど、ある種のワークをやらないといけないです。ちゃんとお互い喋れる場づくり、そこが結構神業なんです。そこは職人なのでそれができるできないでかなり違ってくるし、みんなで声出したという感じだと納得感があるんです。だから後も進めやすいんですけど、「こういうプランで質問を受け付けます」だとこう(衝突)なっちゃって後で違うみたいな。

宇都宮:お互い闘いに臨む感じじゃないほうがいいですよね。

三木:そういうところがあらゆる業種にたぶん必要とされるかと…

宇都宮:それが再構ですよね。

佐久間:そうです。

三木:その辺専門でやってるので(我々に)お任せいただければ。

佐久間:うれしいですね。


●佐久間さんの考える「日本(世界)の○○の未来」に対する想いについて

三木:佐久間さんの考える「日本の○○のこれから」みたいな、○○というのはご自身で入れていただいて何か語っていただけるところがあれば。

佐久間:建築の法律のこれからなんですが、今建物の法律とか都市の法律って、20年前ぐらいの人が色鉛筆で引いた線がそのまま都市計画のラインとして残っていて、これから統計のデータがどんどん整備されていったりすると、その辺がもっとリアルタイムで、例えば1年に1回都市計画のラインがグネグネ動くとなると町がすごく変わるんじゃないかなと思っています。「人口流入している地域だからちょっと容積率を増やしてみようか」とか、逆に「過疎地域になってるから減らそうか」みたいな操作をもう少し頻繁にやれるように、たぶん技術的なバックアップはもう実現可能にはなってきていると思うので、そういう世の中にちょっとでもなっていけたらいいと思うし、そういうお手伝いができるとすごく幸運なのかなとは思っています。

三木:どんどんフレキシブルにしていかないと環境の変化が激しいので、世の中これから色々なテクノロジーが出てきますから、特に都市計画というと例えば衛星データを使いながら常に人の流れとか車の流れとか見ながら、今の人工衛星データは非常に精密なので、場合によると歩いている人の性別とかも分かるんです。それをAIにかけるとだいたい何%が男性とか細かいところまで分析ができて、最適な建物、商業施設の配置とかもたぶん人工知能と組み合わせていくと色々考えることができると思うので、そういうテクノロジーもたぶん進化していく。だからこれからのキーワードは、1つはダイアローグだと思うんです。人と人をどう対話して新しいモノを生み出すかというのと、それを支える特に人工知能、あとは衛星データとかそういったところのテクノロジーが大きくなってくるんじゃないかなと。たぶんそれはこれからのこの国を考える上でも非常に重要なところになると思います。この本は大企業だけではなく個人で何か中古物件を買ってリノベーションしたいという方にもぜひ必要ですし、あるいは中小企業で最近製造業でも作業所にコンバートする事例もあったりとかして、その時も必ず必要な本になりますので、ぜひ皆さんそういったことを考えてらっしゃる方はこちらAmazonで検索していただいてご購入いただければ。

佐久間:ぜひよろしくお願いします。

三木:8年ぐらいのノウハウがぎっしりと入って、なかなかこの業界のノウハウって開示されませんのでかなり細かい内容になっています。

佐久間:再構祭もぜひよろしくお願いします。

三木:どうもありがとうございます。

佐久間:ありがとうございました。


対談動画


佐久間悠さん

:⇒https://www.facebook.com/yu.sakuma.7


WEBSITE


佐久間さん新刊「事例と図でわかる 建物改修・活用のための建築法規」


再構祭 第二審『ものづくりの現在(いま)』


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