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金融垢週末小噺:メガバンクのプライド

あれはもう10年以上前か。
まだ肩書きもないヒヨッコ時代。

飲食店を10店舗くらい経営していた会社の担当になって半年ほどたったある日、融資を申し込まれたんだ。50百万円くらいだったかな。

マルホの枠もあったので保証協会付融資で進めることになった。
ちょうど今のような梅雨の時期だったと思う。

保証協会に申請して3〜4日後くらいだったか。
協会から電話がかかってきた。

お、もうOK?と思ったら、向こうが言いづらそうに、
「他の銀行さんから全く同じ申込がありまして」と。

重複申込ってやつね。

その会社がメインで利用してたメガバンクだった。
協会は、お客様と話し合って、どちらかにしろと。
そりゃそうだ。

相手はメイン。間違いなくうちが取下げになるだろう。
そう思った私はひどく落ち込んだ。

見込んでた数字もある。
何より、馬鹿にされたようなこの扱い。

支店長になんて説明すればいいのか。

社長に電話すると、説明をするから今から来いと。

お前が来いや!!という言葉が喉まで出かかったが、我慢した。

本社につくと社長は

「急遽、別のお客様が来ることになったんで、隣の部屋で待っててくれ」と言ってきた。

(ダブルブッキングかよ!!)

私は我慢の限界だった。

待っていると来客の音がした。

「社長、●●銀行様がいらっしゃいました。」
メインバンクだった。 担当の女性と上司の役席のようだ。

メインバンクにとっても今回の話は寝耳に水。
そして私同様、憤っていた。

役席は少々きつめの口調で本件の経緯の説明を求めていた。
しどろもどろになりながらも社長は、保険をかけて両方で申込した、とか、両方調達できればと思っていた、とか冗談のような言い訳をする声が聞こえてきた。

社長は、最後に「どちらの銀行も大事なので、ここは落とし所ということで、半分ずつでどうか」と訳のわからない落とし所を提案し始めた。

対する役席は社長に対し、「不義理にも程がある」「うちはもうやらないので、取り下げでいい」「今後はアプローチもしない」と、はっきりと決別を宣言した。

メガバンクのプライドだろうか。

隣の部屋で聞いていたヒヨッコの私は熱く込み上げるものを感じた。

撤収しようとする役席と女性渉外に、決別されて不服そうな社長がこんな言葉を投げかけた。

「お宅とはこれっきりですね。お借りしてるプロパーについてはしっかりと返済しますからご心配なく。」

すると役席は一段と大きな声で、

「当たり前でしょ!!」と一喝した。

バタンと閉まる社長室の扉。しばらく静まり返った。

隣の部屋の私は、一連のやりとりを聞かされて心が震えていた。

これが銀行員としての誇りなんだと。
俺もガツンと言ってやる!ふざけるんじゃない!

少ししてから、お呼びがかかり、社長室に入った。

「聞こえてた?」

照れ臭そうな、恥ずかしそうな顔で社長は笑った。

「まぁ、そういうことなんだ。今後は、お宅がメインになる。本件含め、なんとかよろしく頼むよ。」

そういうと、社長は軽く頭を下げた。

よろしく頼むだと? メインに切られたからって、そりゃないだろ。
私が怒っていないとでも思っているのか? 舐めるのも大概にしろ!
私は銀行員としての誇りに身を震わせて、こう言ってやった。

「喜んで!」  


              完
            制作・著作             
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