J2第3節 ファジアーノ岡山vsレノファ山口 レビュー 【1-0】
風と運と我慢強さと
前節はいわきに衝撃的な同点弾をくらいドローで終わったファジアーノ岡山。そこから悪い流れに入るのか?それともリバウンドメンタリティを発揮できるのか?強いチームになっていくためにも、ここはひとつ重要なトライアルだと思っていました。
しかし、今年の山口は手強い。勝てないというよりかは、負かしにくいチームになっており、やはり試合もタイトでしんどいゲームとなりました。栃木戦、いわき戦ほどのチャンスメイクを許されず。なかなか得点の奪えない我慢比べとなりましたね。よく踏ん張ったと思います。
スタメン
ルヴァンカップを挟んだ3連戦ということで、岡山のスタメンはほぼ予想通りいわき戦のメンバーを基本継続。出場停止の田上のところはやはり柳(育)。そしてベンチメンバーにはルヴァンで結果を出した田中雄大、仙波大志が入りました。
一方の山口は秋田戦から変わりなし。脳震盪があった小林成豪は大事を取ってベンチ入りせず。
ゲームの流れ
全体的には岡山ペースで進んだゲーム展開だったかなと思います。特筆すべきはこの日も風が強かったこと。前半時は山口が風上、岡山が風下に。ボールポゼッションは五分五分だったものの、決定機の数は岡山が上回っており全体的に山口の攻撃はどこかチグハグ感がありました。
岡山としても柳(貴)の抜け出しからのシュート、グレイソンのボックス内ドフリー。後半にもCKから柳(育)のヘッドとチャンスは作れていた。しかし、決まらず。このままドローか?と思われた84分にCKから柳(育)の折り返しを田中雄大が決めて勝ち越し。これが決勝点となり、しんどいゲームをなんとかモノにしたゲームとなりました。田中雄大はこれが初のヒーローインタビューということで待ちわびた人も多かったことでしょう。
山口の攻撃のチグハグ感
プレビューでも触れたように山口はロングボールをFW梅木に合わせてセカンドボールを回収したり、スペースに流して時間を作り押し上げていく、そこで失ってもカウンタープレスに入っていく形を持っています。ところが、この試合はどこか前半からチグハグというか、どうも戸惑っているような印象を受けることが多かったですね。
山口サイドの事情はわからないですが、
とのコメントにもあるように、岡山のプレッシャーの出足の早さとピッチ状況が若干余裕を失わせたところがあるのかもしれない。詳しくは述べませんが、岡山が523で構えるとして、ダブルボランチの両脇を使いたかったのかな。その辺まではちょっとわかんない。
実際の試合でよく見られた出来事としては、
やはり左SBの新保を前に押し出して3バック化し、そこからロングボールを入れていく。しかし、この日は梅木をめがけたハイボールが多かったことが岡山にとってはやりやすかったかなと。
梅木に対して右CBの阿部海大、そして柳(育)が迎撃しおおむね事なきを得ていました。ヘッドでそのままはじき返してしまう。あるいは、セカンドボールが発生しても、
回収役の中盤が近くにいるので、岡山ボールとなりやすい状況でした。山口のボランチ陣は最終ライン近くでプレーに関与してから移動しないと球拾いに参加できないので、どうしてもセカンド勝負で岡山にボールが流れてしまうと。
特に柳(育)の空中戦制圧力は極めて高く、ほとんどのボールに競り勝つ無双っぷりでした。そこに加えてセカンドボール回収しやすい位置関係も影響して、向かい風ながら岡山としては問題なく守れていたように思います。岡山が嫌だったのはスピードのある選手の裏抜けを使われて戻りながら守備することだったので、前半から後半途中まで山口があまりそうした攻撃をしてこなかったのが戦いやすくしてくれたところがあるかもなと。
若月が前、梅木が後ろの不思議なタテ関係
後半に入ると山口は2トップの位置を修正してきました。若月を前に置いて、梅木をその後ろに配置しタテ関係に。
これはやや違和感を覚える並びです。というのも若月は身長170㎝、梅木は184㎝なので、若月の方がずっと身長が低い。しかも、マッチアップは柳(育)188㎝ですから、ハイボールで若月に勝ち目はあまりないでしょう。
これはどういう狙いなのか?
謎かけのような修正に興味をひかれていろいろ考えてみましたが、おそらく志垣監督としては若月を前に置くことで、「ハイボールをFWに蹴るんじゃない。スペースに蹴って走らせろ」というメッセージだったのではないかなと思います。若月はスピードもテクニックもある危険なプレーヤーですから、スピードに欠ける柳(育)とおいかけっこに持ち込まれたら分が悪い。したがって、そこのスピードのミスマッチを突いてチャンスを拡大したかったのかなあと。
ところが、向かい風の影響もあってなかなか思うようにいかず。それでも、柳(育)相手に巧みにボールを残す若月のプレーには目を見張るものがありましたが、ハイボールはどうしようもありません。
山口の攻撃からチグハグ感が解消されたのは、58分に若月→山本への交代あたりかなと。おそらくベンチで入念に打ち合わせを済ませたFW山本投入後、山口は明らかにスペースを狙ってボールを蹴りはじめました。そして、スピード、ドリブルがある加藤の投入でさらなる支援策を打つと。
72分10秒あたりからのシーンを見てみます。岡山のスローインを跳ね返し、梅木へとボールが飛んでいく。すると、梅木は迷わずスペースへとボールを蹴りだします。そうなると、FW山本を気にしつつ柳(育)は戻りながらの対応を強いられます。
先にボールに触ったものの寄せられていたこともあり、柳(育)のクリアはあまり飛距離が出ず。その時間を使って山口は押し上げていたので、落下地点にはこのように十分な人員を確保できています。この辺りさきほどのパターンとの違いは明らかかなあと。
そしてサイドをそのまま押し込んで、加藤がクロスを上げボックス内でヘッドという一連の攻撃でした。ちなみに、ここでの田邊のパスは絶妙で思わず声が出た。この選手、うまいな!
というように、スペースに流せば高さ勝負ではなく平面の勝負に持ち込めるし、クリアされてもセカンド勝負に持ち込めると。山口としてはこういう攻撃を手厚く重ねたかったところでしたが少し好転するまでに時間がかかりすぎた。
もしこれを前半からやられているとかなり岡山としては嫌な感じだったと思いますが、修正に時間がかかってしまったところと後半向かい風になったのは少し運がなかったかなと思います。
山口戦での岡山の動き
一方の岡山。まずは守備ですが栃木戦、いわき戦と比べると前プレは状況を見ながらという感じで、ミドルブロックで構えることもありながらの守備でした。このあたり、ルヴァンでも見せていましたが全部プレスに行って全部上手くいくこともないでしょうから現実的でよかったと思います。
山口に前プレホイホイ的ムーブをかまされたシーンも見受けられず、平瀬のコメントにあったようにかなりプレッシャーをかけることができていたように思います。前プレで奪い取るところまでは至りませんでしたが、
深い位置まで後退させると、そこから出るロングボールは飛距離的に山口コートに落ちます。すると、また拾って岡山が攻撃に出るというような流れに持ち込むことができるので前プレの甲斐もあると。つくづく、後半のようにスペースめがけて蹴ってそこで起点を作れなくともカウンタープレスでゴネていくという攻め方をされなかったことは幸いしました。
攻撃の方で特筆すべきは後方からの組み立てです。山口が構える442のミドルブロックに対しては、左右のCBからの展開力を使います。後半49:50あたりからのシーン。
柳(育)から鈴木喜丈へとパスが出ます。山口は442のミドルブロックなので、まず若月・梅木の横からタテにサイドを攻略していく攻め手がこの試合では多数見られました。こういう仕事をさせたら抜群に上手いのが鈴木喜丈。自分で持ち上がる、正確なパスを届ける、場合によってはインナーラップで受け手になると、出来ることが非常に多い。どれもまんべんなく上手い。後半になると山口も鈴木喜丈からの組み立てを嫌って右SHの吉岡を走らせ、岡山の持ち出しを制限しに行きます。
鈴木喜丈は吉岡をひきつけつつ前方をうかがいます。その間に、末吉が落ちてきてボールを受けるそぶりを見せる。すると、末吉にフリーで持たせたくない右SB前はどうしても出ざるを得ない。前が出ると背後にスペースができるので、そこに岩渕が走り込むと。
岩渕がタッチライン際でボールを収め、起点を作ることに成功します。そうすると岡山の選手は一気に前に前進していきます。
岩渕にはCBの平瀬が対応しているので、山口のボランチ佐藤は最終ラインをカバーして4枚を確保します。岩渕は内側にパスを送って、そこに上がってきた田部井が受ける。そうするとドフリーで前が向ける。田邊はグレイソンを見るボムヨンの援護に回っていて、相方の佐藤は最終ラインなので、ここがどうしても手薄になってしまう構造になっています。
フリーで前を向いた田部井は創造性を発揮できる状態。木村太哉が斜めに走り込んで、そこに合わせていくと。残念ながらシュートにいたりませんでしたが、442で守る山口の困るポイントを的確に突いたロジカルな攻撃だったなと思います。
ちなみに、右の阿部海大は左の鈴木喜丈ほど警戒されていませんでしたが、一本右から素晴らしいサイドチェンジを左の末吉に届けており。「おまえさんほんとに成長したなあ...」と。彼をデビューから見ている身としてはグッとくるポイントでした。あれやられると相当嫌でしょうからね。末吉に時間とスペースを与えてなおかつ1対1ですから。見せ場じゃん!っていう。
この試合山口の警戒もあってかグレイソンにアバウトなボールを蹴って拾っていきましょう!というようなシーンはあまりなかったように思います。後方からパスをつなぎつつ、サイドのスペースで起点を作って、時間を得て押し上げる。そしてボールホルダーに味方が関わっていくと。
ここまで見せてきたロングボールでの攻撃に固執するというわけでもなく、あくまでコンセプトとして「相手のコートでサッカーするため」に長短を使っていくんだよ、と。そういう姿が複数回見られたのは山口戦での収穫だったなと思います。
ダブルボランチのサポートと連動性
ということで、やわらかフットボールのコーナー。今回は前半15:15あたりからの岡山の右サイドアタック。柳(貴)が抜け出した決定機について取り上げてみたいと思います。
シーンはタッチライン際から大きく山口が蹴りだし、岡山の選手が戻りながらボールを拾いに行くところからです。最初にボールを拾ったのは鈴木喜丈。山口の選手はそのままプレスに行きます。
若月は少し弧を描くようにして鈴木喜丈に寄せ、GKブローダーセンへのパスコースをけん制します。そうすると、鈴木喜丈は前に蹴るしかない。さらに、左SH河野はまず田部井へのパスコースを切って、ボールを柳(育)へと誘導します。
河野は柳(育)へのパスが出ると田部井を離して柳(育)へと寄せます。ここで田部井がすごく助かる!河野が離れると、サイドステップを数歩踏んでズルっと横にズレてあげてるんですよね。そうすると、柳はタテに出すか、うまくいけば田部井へとボールを逃がすか。選択肢を2つ持てる。結局柳(育)はタテパスを選択しました。
柳(育)からのタテパスを受けた阿部は進行方向に背を向けています。なので、選択肢をあまり持たない。すぐ後ろには田邊が寄せてきていますから少なくともここからターンやタテパスは無理です。このままだと山口のプレスにからめとられそうですが、そこに今度は藤田がひとつ内側にサポートに来ます。これやられるとめっちゃ嫌なんですよ。せっかくハメられそうなのに逃がされちゃうから。超めんどくさい。PO山形戦でこういうの死ぬほどみて藤田息吹に惚れました。
さらには、藤田がフリーでボールを受けそうだと察知した"右サイドの破壊王"こと柳(貴)の動き出しの早さたるや!数歩のうちにマッチアップの新保を置き去りにしてスペースへと抜け出していきます。やっぱアスリート能力が高いよこの人ほんとに。
カバーに来たボムヨンとどちらが先にボールを触るか?というところですが、足先でちょんと触ってボムヨンを抜き去るとそのままボックス内に侵入。残念ながらシュートは逸れてしまいましたが、見事な決定機を演出していました。
いやー、こうしてみると、岡山のダブルボランチの味方を孤立させないサポート。フリーになりそうだと察知すると、前に走り込んでいく柳(貴)とそれを理解している藤田息吹のプレーのよどみのなさね。ボールに味方が関わって、その味方に別の味方が関わって展開していくっていう。今年の木山ファジの大きな特徴がよく出たシーンだったと思います。
昨年までの岡山はどこかボールホルダー任せというか、誰かが何とかするの待ちみたいなところがありましたし、正直ルヴァンカップに出たメンバーもそのあたりをまだ感じなくもない。
そこへいくと、スタメンで出ている選手たちのボールに関わる力、味方に関わる力はやはり一段違うものを感じる次第です。
この試合に出場した選手の印象について
CB:柳育崇
田上の不在をきっちり埋めて余りある活躍ぶりだったと思います。岡山でも非常に人気の高い選手なので、胸を撫で下ろした人も少なくなったことでしょうね。彼のウィークがさらされる場面は多くなかったものの、ストロングは攻守両面でいかんなく発揮されていました。総合力やチームを動かす力、経験といった部分では田上にまだまだ軍配が上がるでしょうが、タイプが違う選手を持てる強みをチームにもたらしています。これで1得点1アシストですもんね。今年も点に絡んでくれそうです。
CB:鈴木喜丈
先ほども言ったように、ボールが足元にあるときの鈴木喜丈のプレーは見ていて惚れ惚れとするものがありました。あらゆる点において高いレベルでプレーできていますが、特にフィジカル的な強さが今年は本当に頼もしくなったなと。ハイボールも平面もデュエルでかなり戦えてようになってきています。以前は、いかにも中盤的なエレガントさというか悪く言えばひ弱さのような面も覗かせていましたが、もうこうなるといよいよ隙がない選手になってきているな、と。選手ってこうやって成長していくんですねえ。
シャドー:田中雄大
ユニフォームも売れ、サポーターの期待も感じながら、でも途中出場が続くと。なかなかに思うようにはいかないスタートとなっていましたが、ここへきてようやくチームを勝たせるゴールを取れました。田中雄大にはめちゃくちゃ期待しているので、「いや、もっとできるでしょ?」という気持ちでいますが、彼のコメントがとてもよかったですね。ここでひとつ結果を出しても序列のことについて言及していました。そうだよ、そうこなくっちゃ。彼が現スタメンを追い越してポジション取れるかどうか?はチーム力に直結します。期待しています。
山口MF:田邊光平
「あ、いいな?」と思ってましたけど想像以上にいい選手でした。山口はいいボランチをとったなあ。彼も判断が早くて、プレーが正確なんですよね。狭いエリアでもそつなくこなすし、サイドで時間が作れたときに内側を走ってボールを引き出す動きとか絶妙でした。佐藤謙介を後ろに置いて、彼を前でのびのびプレーさせると厄介なことになるなと思いました。大卒ルーキーがどんな活躍をするのか楽しみですね。
山口FW:梅木翼
チームとしての攻撃がチグハグする中で、思うようにプレーできないフラストレーションはかなりあったんだろうなと思います。年々得点も増えてきていて、今年はどう見ても軸と期待される立場でしょうからきっと責任感のようなものもあるでしょう。それなのに、もう少し貢献できていないもどかしさもあったのかな。
胸中は本人にしかわかりませんが、いちサッカーファンとして見ると自分にはそのように映りました。しかし、こりゃ8月の山口ホームでの対戦は見ものですね。こちらとしては活躍されては困りますが、そこでどんな振る舞いを見せるか?楽しみにしたいところです。
試合後に柳(育)が「この勝利はでかい!」と言っていましたが、まさにその通り。この勝ちはでかいよ。こういう勝ちを拾えるのか拾えないのか?そこが試されていたゲームだと思います。よく、焦らずチャンスを積み上げてひとつこじ開けたなと。「ああいう試合を勝ったことがある」という体験は今後のリーグ戦を戦う上で、決して小さくない自信になると思います。
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