「どうしてれいだけ、ひくい、おうたなの?」と僕は訊いたあの日

僕は、ソプラノを歌った事がない。

幼児期から音楽教室に通っていた頃から、一度も。

女児の高い声も無論男児のボーイソプラノも出なかった。

その代り何故かほぼ変声期もなかった。

だから、後年はボーカリストをやっていたのに実は、

中学以降の学生時代の合唱では、

男子として扱われるとカウンターテナー、女子として扱われると低すぎるので、

「学年でただ一人のアルト」と云ふ、寂しいパートを、歌っていた。

なのに歌は上手かった。

――っつうと孤高でカッコええ感じがしちゃうかもだけど、

生れつき無駄にハスキーで中性的な音域の声は永遠の、課題。

そう、僕は、ソプラノを、一度も歌った事がない。


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