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かつて無用。

長い付き合いのバイク屋がある。 
ずいぶん前にそこでバイクを買い、 
初めて任意保険に入った。 

年を重ね、バイクがいくつも変わったが、 
毎年その店で保険を更新していた。 

ある年の春、いつもの年のように 
保険の更新にその店に行った。 

いつものようにコーヒーを飲みながら 
店の女と談笑をして、契約書を書いていたら 
店主が言った。 

「フロストブルーさんも、かつては全国走り回ってませんでしたっけ!?」 




「かつて」だと!? 




俺にも探られたくない痛い腹はある。 

様々な事情あって以前よりは走れない状況ではあるが、 
お前に言われる筋合いはない、特にこの事についてはだ。 

たしかに当時はその店でよくタイヤを交換した。 

「お前の店のタイヤ、品切れにしてやるぜ!」 

50日に一度、店主とタイヤ交換をしていた。 








今年の6月は過去最高の暑さだったらしい。 

この蒸し暑く、そして時々見せる照りつける日差しに旅の思いが弾む。 

まずは十和田か酸ヶ湯か。いずれにしても星のキレイなところへ行こう。 

昔読んだ本を詰め込んであるダンボールを引っ張り出し、星座の本を 
探そうと箱を開けたら丸まった厚紙があった。 

その黄ばんだ厚紙を丁寧に広げてみる。 





「かつて」 か。 




今まで走った道路を全てマジックでなぞってある日本地図。 
「かつて」走った俺の足跡だ。 

先月行った金沢は。。。久しぶりにマジックを入れる。 

「なんだ、西はまだスカスカでやんの」 

「かつて」なんて言葉にイラついていた意味がわかった気がする。 
こんな時は間違いなく、疾走りが足りてない。 

あの頃のように、日本地図を冷蔵庫に貼ってみた。 








もういっちょうやるか。 

「かつて」なんて言葉が、無用になるように。

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