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昭和10年代の台湾-サバヒーはうんこ魚?

魚と云う字をヒイと読む。ゼーランジャのアンピン城と云うのがありますね。アンピン城に行く途中に魚塘があって、安平魚即ちアンピンヒイと云う魚を育てている。その池の中に人糞を入れると云うのです。旦那方は食わなかったものだそうだが…その魚を例の日本名前で「まさば」と云うことにしている。鯖などとは似ても似つかぬ魚だ。

(内田百閒「台湾の話」より)

過去、台南に何度か足を運んだことがあります。台南・高雄・屏東・恒春の位置関係は、日本の関西にたとえると京都・大阪・和歌山・南紀に比することができると思うのですが、台南は、古都の雰囲気もさることながら、近代建築が多いところまで京都そっくりです。

また、おしゃれではない「日本?」が随所に残っていたりするのも台湾南部の特徴です。京都市内も南部になると雰囲気がこのように変わっていきます。

(金へんに太は読めなかったが、漢字の意味はチタン)
(サカリバと書かれています)

台南の名物

台南名物に「サバヒー」という魚があります。ガイドブックには台南の名物と紹介されていて、この魚の話を知ったとき、今度行ったときに口にしてみようと思いつつ、季節のフルーツに目が行ってしまい、結局食べずじまい。(でも、この手の魚は身が柔らかすぎるので、わたくし自身は好みではないかもしれません。)

サバヒーは、『台湾風俗誌』が書かれた20世紀初頭にはすでに台南人の口にする養殖魚だったようです。

虱目 虱目[タツバク](※サバヒーのこと)は、一見鮎に似たる魚にして海中に産し、その大なるもの三四尺より七八尺に至るという。土人六七月に至れば海岸水浅きところに網を曳きてその魚苗を捕らえ、これを池・沼・魚塭(※養魚池)に放ち飼う。この魚は殊に南部に多し。昔鄭経(鄭成功の子)これをたしなみさかんにこれが飼養を奨励せるをもってなお今日その飼養多きを致すゆえんなるべし。この魚は元来海魚にして南洋方面にその母魚ありという。今台南博物館にある虱目はその大きさ四尺余寸あり。

(『台湾風俗誌』より)

内田百閒による衝撃の事実

そして内田百閒の『台湾の話』を読んでいると、サバヒーについて冒頭のようなことが書かれていて、ちょっとショックを受けてしまいました。

重要な内容なので再掲します。

魚と云う字をヒイと読む。ゼーランジャのアンピン城と云うのがありますね。アンピン城に行く途中に魚塘があって、安平魚即ちアンピンヒイと云う魚を育てている。その池の中に人糞を入れると云うのです。旦那方は食わなかったものだそうだが…その魚を例の日本名前で「まさば」と云うことにしている。鯖などとは似ても似つかぬ魚だ。

(内田百閒「台湾の話」より)

確かにかつては豚も人糞を食べ(させられ)て成長させていたわけなので同じことといわれればそれまでだし、今はもちろんこんなことはしていないわけですが、サバヒーの宣伝を読むたびに、内田百閒のこの話を思い出してしまい、複雑な気持ちに駆られます。


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