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カレーを箸で食べる

と言うと、大抵の人は「なんで?」と聞く。

なんで、と言われても、と私は思う。逆に、なんで「なんで?」と聞くのか。
「そうなんだ」で済ませてくれる人は、案外、少ない。

「スプーンで食べる方が楽ちん」ということは知っている。
半分はライスとはいえ、半分は”汁”だから。スプーンの方が効率がいい。
そう、効率が良いことは理解しているのだ。

でも私は、箸で食べる。

熱いこだわりとか、特別な理由があるわけではない。
割り箸が用意されておらず、スプーンだけしか出されなかったら、普通にそのスプーンで食べる。わざわざ箸を持ってきてくれとは言わない。

でも、箸という選択肢があったら、やっぱり箸でカレーを食べる。

なぜ、と言われると、困る。本当に、理由とか、ないからだ。
無理矢理にでも考えろ、というなら、「ちょっとした潔癖症ゆえに”他人の口がつく面積の多いスプーン”に抵抗があって、箸の方がマシに感じる」・・・うん、もしかしたら、きっかけはこれかもしれない。

では、自分専用のスプーンがある家でだったらスプーンで食べるか、というと、食べない。やっぱり箸で食べる。

つまり、もはやそこに理由はない。きっかけはあれど、理由などない。
単純に、慣習の問題だ。私は箸でカレーを食べて生きてきたから、これからもカレーを箸で食べるのだ。

しかし、この生き方には、面倒臭さがつきまとう。

ほぼ必ずと言っていいほど、初見の人は「スプーンを使わないの?」と言ってくるからだ。

私は「使わないよ」と返す。すると「なんで?」と聞かれる。
理由はないので「いつもこうなんだ」と答える。

「ふーん、そうなんだ」で済ませてくれる人は、いい。ありがたい。

「スプーンのほうが効率よくない?」と指摘してくれる人も、まあ、親切心ゆえの発言だろうから、無下にはできない。

問題は「それ、効率わるいよ(笑)スプーン使いなよ(笑)」と言ってくるタイプの人たちだ。笑いながら、言う人たちだ。

別に私はカレー早食い選手権に出ているわけではない。
ただ自分のやり方で、静かにカレーを食べたいだけだ。

なのに何故、私は笑われているのだろうか。憤りを感じる。
私がカレーを箸で食べることが、君に何か損害を与えるのか。

やがて、その憤りが、単純に初対面で「スプーンで食べないの?」と聞いてくるだけの無害な人物にまで、向いていく。もうその質問は、私の人生では何十回目になるかわからないんだ。しつこいよ、と言いたくなる。

でもそのひとはカレーを箸で食べる人間を初めて見たのだから、純粋に質問してきただけなのだ。わかっている。あなたに罪はない。

「そんなに注意されるのが面倒なら、もうスプーンで食べれば?」という意見をたまにいただく。わかる。わかるが、気に入らない。
なんだか、別にそこまで仲良くしたいと思ってもない他人と話を合わせるために、見たくもない流行りのドラマを見せられてるような、そんな気分になるからだ。

こういうところに「自分の生きづらさ」みたいなものを垣間見てしまう。
憤る。気が滅入る。しかし曲げられない。曲げたくない。曲げてもいいんだけど、なんか悔しいから、曲げたくない。うわっ、こういうとこ生きづらい。

なので最近は、カレーを食べるときは「私はこれからカレーを箸で食べるけど、それは私の主義なので、気にしないでくれ」と事前申告している。
食事を共にする相手は「お、おう・・・」みたいな戸惑いを見せるが、それ以上は追求してこない。私はとても平和にカレーを食べることができる。

もうひとつ言うと、私は焼肉をするとき、肉を炭になるくらいに焼いてから食べる。ちょっと焦げたとかではまだ浅い。黒くなってから食べる。

人生経験上、絶対に「焦げてるよ!」と言われるのはわかっているので、初めて一緒に焼肉に行く相手には「私は炭になるまで肉を焼かないと食べません」と先に宣言する(七輪の一角を常に占領してしまうのは申し訳ないとは思っているので、そこも先に謝罪する)。
私の知人は大体、私が炭肉しか食べないことを知っているので、焼きすぎた肉をスイスイと渡してくれる。非常にありがたい。「お前変わってるよなあ」と言いつつも炭肉をくれる知人の存在は私を救う。

一見、変に感じる慣習も、そのひとにとっては普通のことかもしれない。
自分にとっては初めて見るものでも、そのひとの世界ではありきたりかもしれない。

別に「異常にみえるものに好奇心を持つな」「いちいち突っ込むな」という話ではなく。ただ、そういうもんなんだな、と、スルーしてくれる、それだけで多分、その「へんなひと」は楽になる。少なくとも、私は救われる。

私も、「こういう人間です」というのをわかりやすく先に説明できるように心がけるので、「そういう人間ですか」と流してくれると、とても助かる。

私はカレーを箸で食べます。泥水でした。

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