2022年 7月31日 奈良クラブ 2-0 高知ユナイテッドSC 感想



△3/19 第2節 奈良クラブ 0-0 HondaFC

△3/27 第3節 奈良クラブ 0-0 ラインメール青森

●4/9 第5節 奈良クラブ 0-1 FCマルヤス岡崎

△5/1 第7節 奈良クラブ 2-2 クリアソン新宿

●5/21 天皇杯1回戦 奈良クラブ 0-1 HondaFC

●5/29 第9節 奈良クラブ 0-2 東京武蔵野ユナイテッドFC

△6/26 第13節 奈良クラブ 0−0 ソニー仙台FC

○7/31 第18節 奈良クラブ 2-0 高知ユナイテッドSC

※1勝4分3敗


今期8戦目にしてようやくロートフィールド奈良で初勝利した奈良クラブ。同じくホームである橿原公苑陸上競技場では、5/8天皇杯代表決定戦 奈良クラブ 2-0 天理大学、6/13 第11節 奈良クラブ 1−0 ホンダロックSC、7/16 第16節 奈良クラブ 2-0 MIOびわこ滋賀と3連勝しているだけに、「もういっそのことこれからのホームスタジアムは橿原公苑陸上競技場でいいのでは?」「好アクセスで観客動員から考えても橿原公苑陸上競技場がいいのでは?」などとSNSで揶揄されるほどだ。しかし、年間スケジュールにはロートフィールド奈良の試合が後4試合ともう既に組み込まれているため、それは当然のことながら不可能だ。しかも、橿原公苑陸上競技場のある橿原市と奈良県中南和地域は現在KSL1部所属の飛鳥FCがホームタウンとして活動している。飛鳥FCがこの先JFLへ昇格すれば、橿原公苑陸上競技場は彼らが優先的に使用するはずだ。奈良クラブはホームタウンこそ奈良県全域とあるが、県庁所在地である奈良市を中心としたクラブということが広く周知されている。そのため、奈良市が所有するロートフィールド奈良で勝利するということは、奈良クラブが単なる試合で勝つこと以上に大きな意味合いが含まれている。この試合で勝利したという結果について、特に安堵感でいっぱいだった奈良クラブに関わる様々な関係者は数多くいたであろう。そして、そんな神妙な面持ちとは裏腹に、ロートフィールド奈良で開催される後4試合については是が非でも全勝してもらいたい。それが純粋なファンサポーターの切実な願いだからだ。

それではこの試合について書いてみよう。まずはスターティングメンバーと基本フォーメーションについて。

両チームのスターティングメンバーと基本フォーメーション

奈良クラブは、このスターティングメンバーで挑むのは調べてみて驚いたが意外にもこの試合が今期初めてであった。そして、前線の3人については第5節の岡崎戦以来の13節振りとなった。基本フォーメーションについては変更点はなく、攻撃時のシステムはこれまでの4-2-3-1というよりかは、高知のカウンターを警戒してか基本的に4-1-4-1寄りのように感じた。守備時のシステムについてはこれまでと同様であった。一方で高知は、3連勝中と好調のためか大幅に入れ替えることなく、前節のホンダロック戦とはボランチ14番から2番の変更のみとなった。基本フォーメーションやシステムについても前節や前々節と変更点は特に見当たらなかった。それでは次にこの試合のスタッツを見ていこう。

JFL公式HP一部抜粋

このようにこのスタッツだけを見てしまうと、試合後のスタジアムの熱気やSNSでの盛り上がりがまるで嘘のような、そんなかなり厳しい数字となって表出した格好だ。あまり考えたくもないことだが、もし浅川選手の2ゴールがなければ第3節青森戦や第5節岡崎戦に次ぐ酷評に繋がりかねない、そんなことをつい連想してしまうぐらいこれは酷いスタッツである。とはいっても、相手より多くゴールを奪った方が勝つのがフットボールだ。逆をいえば第9節武蔵野戦のように、どんなに素晴らしいスタッツであったとしても、相手より多くゴールを奪われてしまえば敗戦となる。こんな不条理で単純明快なところもフットボールの醍醐味の一つだろう。繰り返すことになるが、浅川選手の2ゴールは本当に素晴らしかった。詳しくは浅川選手のTweetを参照してもらいたい。それでは、次はお互いの攻防について。

高知の守備時のシステムと狙うべきスペース

これは高知の守備時のシステムを簡単に表した例である。実際はこのような整然とした配列にはならないのでそれをまず了承してもらいたい。このように高知の守備の狙いとしては、70分前後以外はハイプレスをほとんど仕掛けず、最終ラインはミドル及びローゾーンでブロックを構え、前線の3人の選手が奈良クラブのCHの前に立ちはだかって、CHから中央突破をなるべく阻止するという守備布陣である。

左CB伊勢選手からの目線

対する奈良クラブとしては、高知の最終ライン、左右WB、ボランチの裏のスペースを突くことが主な狙いとなる。この試合では、奈良クラブの最終ラインも、高知のカウンターを警戒してか後方に下がっていることが多くみられた。そのため、CH森田選手へボールを集めて前進していくことは今までと比べると少く、2CBや両SBから左右のサイドへロングボールを蹴り上げるシーンが多くみられた。しかし、ロングボールで両WḠがサイド深くまで前進することができたとしても、そこからは質の低い単調なクロスボールを上げざるを得ない状況となってしまい、そうすると、高知の高身長の3CBが待ってましたかの如くエアーバトルを制され、奈良クラブはシュートすら打てず高知にみすみすとカットされてしまうことが多かった。そのため、この試合では奈良クラブのシュート数が4本と高知に抑えられてしまった。一方で、高知としても後方に下がっている状態が長引いてしまったために、シュート数が奈良より少ない1本となってしまった。この試合をあえてボクシングで例えるならば、お互いガードを固めつつパンチが届かない長い距離を保ちながら攻撃する機会をうかがいジャブの手数で判定を勝ち取る、というようなアウトボクシングの体裁となったと言える。

(以下敬称略)

55分

片岡フリーのスペースへ センターラインまで寺村が前へ少し運ぶ 寺村がCF9番と左ST11番の間へ→片岡 片岡にボランチ2番と左CB3番と11番が囲む 片岡がワンタッチで→金子昌 金子昌素早く前へ運ぶ 金子昌に左WB16番と2番と3番が囲む 金子昌上手くボールキープし→片岡へ 金子昌右ポケットへ進入 金子昌に16番がマーク 片岡に2番と3番が寄せる 片岡ワンタッチで前方へスルーパスを選択 16番にブロックされ金子昌ボール取れず転倒 16番がボールに寄りGK1番が回収


このように、寺村が前線3人の間へパスを通して、片岡と金子昌で右サイドをスピーディーに攻撃した場面であるが、最後金子昌は相手にブロックされシュートを打てなった。この55分前後にも、2度ほど右サイドからチャンスを作ってシュートを打ったがいずれもゴールを奪えなかった。3度立て続けに攻撃してもゴールを奪えなかったことを考えると、上図の青線、青点線のように、片岡から金子昌へスルーパスを選択するのではなく、中央の森田へ一度折り返して逆サイドから攻撃してもよかったのではないか。しかし、これはこの映像を再度振り返ってみて改めてそう感じられたことなので、ピッチ上の判断については選手を尊重したい気持ちは変わらない。ぜひ参考程度でお願いしたい。次は守備について。

14分

右CB5番→左WB16番へロングボールが渡る 金子昌がプレス ペナ内に左ST11番とCF9番と右ST8番と右WB28番が進入 森田が最終ラインへ入り5バックへ 金子昌を振り切り16番→後方のフリーのボランチ2番へバックパス 2番に片岡がシュートコースに寄せる 2番がシュートも右へ大きくそれゴールラインを割る

21分

右CB5番と中CB4番からいい距離感で立つ浅川 5番→前方のボランチ2番へ その瞬間トップスピードでプレスバックしパスカット こぼれ球を森田が回収

22分

中CB4番→左WB16番へロングボールが渡る 都並が寄せる その前に16番ゴールライン際からワンタッチで→前方へ走り込む左ST11番へ 伊勢11番へ寄せる 11番ダイレクトでシュート 伊勢シュートコースに入りブロック ボールはタッチラインを割る


このように、カウンター対策として14分の場面では、森田が一時的に最終ラインへ入って5バックを形成して、ペナ内で4人に進入されても、クロスボールにしっかりと備えていた。22分の場面では、都並と伊勢と寺村が全速力で帰陣してフリーで相手にやらせない対応が素晴らしかった。その後のリスタートから高知に逆サイドへ振られるが、森が最終ラインへフォローへ入ったり、加藤の高い対人能力で右ST8番と右WB28番からボールを奪い素晴らしい対応を見せてくれていた。

59分

左WB16番へ渡る 都並が寄せる 森最終ラインへ入る 16番が最終ラインへバックパス 最終ライン→右CB5番へ渡るも前へトラップミス こぼれ話を森が走り込みワンタッチで→山本へ 5番が山本を追う 山本前へ運び→森へ ボランチ6番が森のパスコースへ 森少し前へ運ぶ 森→少し後方の山本へ フリーに近い状態で山本ペナアーク左付近からダイレクトシュート 左CB3番頭でブロック枠外へ


このように、一旦森が最終ラインへフォローに入る判断と、そこからむやみやたらに動かず、ボールの出どころをしっかりと見極め、あえて右CB5番に森が空けたスペースを使わせて少しづつ前進し、5番のこぼれ話を見るや否や、最終ラインから一気に飛び出してボールを奪っていた。そこから、決定的となるショートカウンターへ繋げていた。このような相手を引きつけてから一気にボールを奪い取る場面が何度かあった。

69分

加藤が空けたスペースを、右CB5番→ロングボールでボランチ2番へ使わせる際に、加藤がボールの出どころをしっかりと見極め、5番がロングパスを出した瞬間に前進してボールを奪い取った場面。

73分

片岡が空けたスペースを、ボランチ6番→ボランチ2番へ使わせる際に、片岡が最終ラインからボールの出どころをしっかりと見極め、6番がパスを出した瞬間に前進してボールを奪い取った場面。その他にも81分、可児がGK1番からボールの出どころをしっかりと見極め、パスコースを冷静に判断して事前に動き出し、GKのミドルパスを見事にインターセプトしてショートカウンターに繋げている。


このように、奈良クラブの安定した高い守備力というのは、森田や伊勢や加藤といった高い対人能力もさることながら、こういった冷静な判断の積み重ねで保たれていると言っていい。もちろん高い集中力でミスをしないことも大きな要因だろう。そして、もし仮にミスを犯したとしても、他の選手が必ずフォローに入ってくれるというお互いの信頼関係を築き合っていることも大きな要因だろう。それがあるから、奈良クラブの選手達は相手に対して積極的にボールを奪いに行ける。ただ単にゴール前でブロックを引いて守っているだけではないことが、この試合でも証明されていた。これは日々のハードなトレーニングの成果という他ない。そのため、3連勝で波に乗る高知の強烈なカウンターから、ことごとく事前に防いでウノゼロを達成できたと考えている。

最後に一つだけ書きたいことがある。この試合を映像で見た人の中には、奈良クラブの動きが何か物足りないといった感想を抱いた人もいたのかもしれない。高知も同様だ。しかし、これはもはや選手個々人のレベルの問題ではない。これは単純に暑さが原因だ。公式記録を見てみると気温36.6℃とあった。ピッチ上ではもっと高温だったのかもしれない。はっきり言ってこれは命の危険すらある気温だ。こんな猛暑を超える暑さでハイパフォーマンスなフットボールができるわけがない。もし、この試合が涼しい季節で開催されていたならこの試合とは全く違った内容であったであろう。例えば、高知はもっと早い時間帯からハイプレスを仕掛けて、高い位置からボールを奪って奈良クラブのゴールを脅かしていたかもしれない。奈良クラブもビルドアップで高知を切り崩すプレーがもっとあったかもしれないのだ。このように、奈良市は一刻も早くロートフィールド奈良にナイター設備の設置を是非ともお願いしたい。死者が出た後ではそれはもう取り返しのつかないことになる。奈良クラブがJへ昇格するとかしないとかそんなことよりも以前の話だ。重ね重ね奈良市には要望したい。

だからこそ、浅川選手のあの貴重な2ゴールは計り知れない意味がある。第4節大分戦後のnoteで書いたことが現実となった。ありがとう浅川選手。ありがとう伊勢選手、長島選手、片岡選手。そして、奈良クラブのみなさんありがとう。





























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