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僕の海岸物語 ~初めてのサーフィン~

前回までのあらすじ、親の転勤から一人暮らしのバイト生活を自ら決めたものの、優柔不断な性格のためにいいように扱われるマサオ。身も心もくたくたになり、クビを覚悟で休んで行って海で見た、颯爽としたノリとのギャップに一層沈んでしまう。

***

「もう来なくていいよ・・・。」次の日は店長の呆れ顔から始まった。「お前最低だな!」リーダーがかぶせてくる。「一昨日までのバイト代は無断欠勤分を差し引いて振り込んどくから、じゃあな、おつかれ。」「すいません」
ついにバイト先という行き場すら失ってしまった。親に泣きつこうかなと頭をかすめたが、そんなかっこ悪いことはできないと足掻きたくなった。「ひょっとしてノリに会えるかも」とささくれた心を引きずりながら海に向かった。

「なんだよ、今日も元気ねぇなぁ」
良かった!いつものノリがいつもの海にいた!
「バイトをクビになって・・・、悪いのは僕だけど。今日もサーフィンしたの?」
「今日の波は無理、良くない。」
「いいとか悪いとかあるの?波に。」
「あるよ。だけどやらなきゃわからない。」
ふと学校の勉強なんて生きていくためには大して役に立たない、なんてことを思い出した。そう、やらなきゃわからないんだ。ひょっとしたらノリならわかってくれるかも?
マサオの気持ちを見透かしたようにノリが、
「やることがなきゃ、俺のツレの手伝いをしてくれないか?年末は忙しいんだ。」
「やります!」
何をやるかを聞くまでもなく即答した。ノリが言うんだから「店長」や「リーダー」みたいなことはないだろうと直感した。
「たいして稼げないと思うがいいか?」
「大丈夫です!・・・と思います。」

顔を見合わせながら、ノリは苦笑いした。だが今よりはいいどこかへ向かっているようにマサオには思えた。

「ノリ、酷すぎるよ!あのバイト。」
「だから言ったじゃん、たいして稼げないって。」
「てか、あれだけやってこれだけ?ったくやってらんない・・・」
「おぉ、言うじゃん!しょぼくれてた時に気分転換にって勧めたのを、二つ返事でやるって言ったのお前だよな!」
「そりゃまあ、そうだけど・・・」
「お前さぁ、なんか勘違いしてない?誰かの言うとおりにやったらうまくいくって?」
「そんなことないけど」
「うまくいくかどうかは自分で決めてやるしかないんだ!人それぞれ価値観は違う。誰かのハッピーは違う誰かにはストレスだったりする。またその逆もな。」
「そうかなぁ・・・」
「この時期に海に入ってるなんて陸から見てるやつからすればキチガイ沙汰だよな?でも夏だろうが冬だろうがいい波に乗れたら最高に幸せなんだよ、サーファーは!」
「俺サーファーじゃないし」
「たとえ話だよ、ってかお前の理屈っぽさチョーうぜぇし」
「・・・」
「何事もやってみなきゃわからないんだよ。勧めたバイト、やったから嫌だってわかったろ?」
「まぁ」
「そういうこっちゃ、明日は天気もいいし波もお手頃。サーフィンやってみないか?」
「無理だよ」
「この時期は気温より水温の方が高いんだ。騙されたと思って明日の早朝に海を見てみ。温泉みたいに湯気が立ってるから。」

ノリの調子よさにマサオは困惑したが、温泉みたいに湯気が立っている海はなんとなく気になった。

本当に騙されたと思って日の出とともに海を見たら、本当に温泉みたいに湯気が立っていた。来た動機はどうせやることが何もないってことが大きいが、ノリの言うことは当たっていた。

「ちゃんと来たな。」
「気になって・・・」
「やろや、サーフィン!」
「むり・・・」
「ちがった、温泉に入ろうや!!」
「なにそれ?」
「とりあえずこれに着替えろや。」

ウエットスーツを手渡され戸惑っていると、おどけながらノリが「い~ぃ湯ぅだぁ~なっ♪」とふざけた。半ば強引に言われるがままキツい足や袖を通し、サーフボードを抱えさせられ波打ち際まで連れて来られた。波打ち際で覚悟は決めたが、ノリが言う通り想像よりは冷たくなかった。温泉は大袈裟だが・・・。

砂浜で簡単なレクチャーを受けた後、海に入ると迫りくる白波は想像以上に圧を感じた。スイスイ沖に漕いでいくノリを目の前にして、からかわれるように白波にもてあそばれた。もう駄目だといい加減イヤになった時、目の前から白波が消えた。そして力の限り漕いでノリのいる沖のポジションにたどり着くことができた。

「ここまで来れたら半分成功だな」
これで半分かい?もうくたくただわ、と思いながら言われるタイミングで波に乗ろうと試みるが全く乗れない。自分なりにタイミングを計ると白波に揉みくちゃにされた。やっぱり俺には向いてないと諦めながらノリの言うタイミングで漕ぎ出すと波がすぅーっとボードを押した。

「今だ!立てえぇぇぇぇ!!」
ノリの叫びと同時に体を起こし足を踏ん張った。ほんの1秒か2秒だろうがボードの上に立つことができた。感覚的にはスローモーションながらしばらくボードの上に立てていた。すぐに白波にマグれ泡まみれになったが、今まで体験したことのない気持ちよさに憑りつかれそうになった。そう、これがサーフィンなんだ!って。

つづく

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