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僕の海岸物語 ~波に教わる~

前回までのあらすじ、親の転勤から一人暮らしのバイト生活を自ら決めたものの、優柔不断な性格のためにいいように扱われることに嫌気がさし、自分勝手な行動でクビになる。やけくそで向かった海でサーフィンに出会い、波に乗る喜びに出会う。

「すごいよ、初日から波に乗れるなんて!」ノリの言葉がまんざらお世辞に思えなかった。そう、サポートはあったにしても自分の意思で自分で選んだ波に自分で乗ることができた、今日は最高の日だ!

たかだか一本の波に乗っただけだが、嬉しさはまるで世界を独占したような気分だ。その一本以外はまともに立つどころか波に押される感覚さえつかめず、波に打ちのめさ叩きつけられたが、それでもあの一本がマサオの心をつかんで離さなかった。達成感は半端なかった!

「ノリ、俺ってサーファーになれるかな?」
「さぁな」
「・・・結構いけるかもって思ったけど?」
「続けなきゃわかんないよ」
「ノリはどれぐらい続けてるの?」

海から上がって高揚した気持ちのまんまマサオは尋ねた。高校を卒業して都会で就職したが、どうも都会のせわしなさについていけず3年も経たずに辞めたことをマサオに話し始めた。
入った会社の先輩にサーフィンに連れていかれたこと、週末は大混雑の海でサーフィンをしていたこと、サーファー同士ギスギスしていてちょっとしたことでケンカしていたこと、乗らなきゃうまくなれないこと、でもうまいやつしか乗れないこと、その矛盾にイライラしたこと。
せっかく好きになりかけたサーフィンもここで続けるのは無理だと思ったこと、だが都会で過ごした3年足らずで唯一良かったと思えたのはサーフィンに出会えたこと、そして実家に帰れば近くの海でサーフィンがうまくなれるかなと思ったこと。・・・こっちでちゃんと稼げる仕事があるか心細かったったこと。

「でもやりたかったんだよ、サーフィン!」
「全部やること自分で決めてきたんだ?」
「そんなかっこいいもんじゃないよ、単なる成り行きさ。」
「でもノリはかっこいいよ、成り行きにしても自分で決めてるしさ。俺はバイト先の店長やリーダーにどう抵抗したらいいかとか、親にどうしたら立派に見せることができるかとか、なんか人の目ばっか気にしてるように思えてきた。」
「そう言われりゃそうかもな。自分で決めなきゃ、波に『これに乗りなさい』なんて書いてないしな。トリセツもなきゃ毎日、いや毎時間でもコンディションは変わるしさ。でも自分で決めてやるかやめるか、乗るか逃すか・・・。知らず知らずに自分で決めることを波に教わっているのかもしれないな。」
「波に教わるかぁ・・・」
「よくわかんねぇけど」
そしてノリはこう続けた。
「俺は野球とかサッカーとかみんながやってるのは苦手だったんだ。生まれつき目が悪かったし、喘息もあったし、上達はしなかった。悔しかった。運動神経はそんなに悪いとは思わなかったけど、負けるのが悔しくってさ。
波に乗れなくても最初はそんなに悔しくはなかったんだ。でもせっかくの週末をただ海に浮いてるだけで、乗ろうと思ったら目くじら立てられ、だんだん負けん気が盛り上がってきたんだ!」
「そんな風には見えないけど・・・」
「で、ちゃんと乗れるまで早朝でも夕暮れでも目くじら立てる喧嘩腰のやつより波に乗ってやろうと頑張ったよ。でもさ、それが本当に俺が目指していることなんかなとも感じ始めたんだ。だからここでサーフィンしながら生きることを、すんなりと受け入れることができたんじゃないかと思うんだよ。」
「ここの海ってそんなにいいの?」
「最高だよ!!」

屈託なく生き生きと話す横顔を見ながら、ここでノリと一緒にサーフィンをしながら生きていくのも悪くないな、いや、やりたいとマサオの心は揺れ始めた。

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