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元日本ハムファイターズ谷内選手のリスクマネジメント

北海道日本ハムファイターズに在籍した谷内亮太選手をご存じだろうか。おそらく日ハムファン&ヤクルトスワローズファン以外は「???」かもしれない。彼は決して、プロ野球界において目立つタイプではない。光り輝くスター選手の背後で、静かに、しかし確実に自分の価値を示している。2021年の夏、彼はプロ9年目を迎えた。出場試合数は300を超えるが、その名がスターティングメンバーとして呼ばれることはほとんどない。なぜなら、彼の主戦場は守備固めの一瞬。その短い時間に、彼は自分の存在を世界に知らしめる。

当時、日本ハムを率いていた栗山英樹監督は、谷内選手を「内野のどこでも守れる完璧な選手」と絶賛する。一つや二つのポジションをこなせる選手は珍しくないが、谷内選手のように全てを完璧にこなせる選手は他にいないという。彼は、まるで内野の魔術師だ。ボールがどこに飛んでも、彼はそこにいる。彼の守備は、僕を魅了した。芸術的なまでに美しい守備だと感じたのだ。

谷内選手は単なる守備の名手に留まらないと思っている。彼の存在は、リスクマネジメントの教科書そのものだ。常に一軍でのスタンバイを求められ、主力選手が二軍に落ちる中でも、彼はその場を守る。2021年当時、失策ゼロという記録は、栗山監督の厚い信頼を勝ち取るに足るものだった。彼の武器は、どの内野のポジションでも守れることにある。しかし、バットを握った時の彼は、残念ながらそこまで強くない。多くの時間をベンチで過ごしながらも、彼は自分がどんな場面で起用されるのか、どんな役割を担うのかを誰よりも理解していた。

「求められたときに、準備ができている」

これが彼の哲学だ。徹底した謙虚さは谷内選手の最大の武器であり、彼のプロ野球人生を照らす光だ。彼はスター選手になることを望まず、地味ながらも長く野球に関われる人生を選ぶ。孫子が言うように、「勝つべからざるは自分にあり、勝つべきは敵にある」。負けないために、彼はリスク管理に励む。そのリスクマネジメントが、謙虚さにあるのだと考えている。

日々の生活の細部に対しても、彼は野球に影響すると信じて行動する。道端のゴミを拾い、飛行機や新幹線で隣の席が埋まっていれば肘掛けは使わない。ユニホームを脱いでも、彼はその謙虚さを貫く。それが日常であり、哲学であり、野球への姿勢だ。

どんなに地味であっても、どんなに目立たなくても、自分の役割を淡々とこなし続ける美学を僕は教わった。谷内亮太選手は、輝かしいスポットライトの下でなくとも、自分の道をしっかりと歩んでいる。誰も見ていないような場面でも彼の姿勢は変わらないだろう。誰かが捨てたごみを拾い、疲れた人が安らげる場所をそっと空けておく。めちゃくちゃ恰好良い。それこそ、真のプロフェッショナルの姿ではないだろうか。

惜しくも2023年のシーズンで彼は選手生活を退いてしまった。2024年シーズンからは日本ハムファイターズの内野コーチとしてチームに貢献する。今後も、谷内選手にスポットライトが当たることは多くないかもしれない。いや、ほとんどないだろう。でも僕は、谷内選手を忘れることはない。その謙虚さに感動したし、僕もそうあらねばならないと思った。

地味かもしれない。有名にはなれないかもしれない。しかし、彼の存在感は、チームにとって、野球を愛するすべての人にとって、そして僕にとって、計り知れない価値を持つ。谷内亮太選手の物語は、謙虚さとプロフェッショナリズムの教えであり、僕たちにとって大切な教訓を残してくれる。