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超動くマンカラ(13)~2次元マンカラは、いつ生まれた?(その3)

前回の記事はこちら

番外編から戻ってきました。
2次元マンカラのルーツ探しということで、1970年代の「Intermedium(インターメディウム)」「Tower of Power(タワー・オブ・パワー)」と紹介しました。

今回紹介するゲームは、一気に20年近く先に飛びます。

Slimetrail

「Slimetrail(スライムトレイル)」は、1992年にBill Taylor(ビル・テイラー)さんが考案した2人専用アブストラクトゲームです。


ビルさんは、最近逝去(2021年)されました。
生涯でおよそ20近くのゲームを考案しています。
そのなかには、nestorgamesでも販売されていたゲームもあります。
ビルさんとそのゲームたちについては、また別の記事として取り上げようと思います。


で、ゲームの方です。
「スライムトレイル」を、2次元マンカラとして紹介しますが、実は

マンカラの動きをしません

いやいやいや。待て待て待て。
なんで紹介するのか、って話ですが、その事情は以前の記事とも関係します。

マンカラの特徴は、共通の用具(石)を用いて遊びます。
先に紹介した「Intermedium(インターメディウム)」「Tower of Power(タワー・オブ・パワー)」は、それぞれのプレイヤー固有の駒として、個別にあつかいます。
「スライムトレイル」では、駒(石)を共有します。

Slimetrailの遊び方


【用意するもの】
ゲーム盤:
それぞれのプレイヤーのゴール地点として、一方の角のマスとその対角に当たるマスが異なる色で区別している、正方形のマスが縦横に並ぶ適当な大きさのもの。

例として、タテ5ヨコ8。
左下と右下に、それぞれのプレイヤーのゴールマス。

コマ:1個
石:たくさん


【準備】
先手後手を決めて、先手がコマを持ちます。
先手は、ゲーム盤の任意のマス目にコマを置きます。
後手は、どちらのプレイヤーが先にコマを動かすのかを決めます。

こんな感じ。
今回は、先手(赤)がコマを置いて、
後手(青)が先手から動かすことに決めました。

【ゲームの目的】
それぞれのプレイヤーが受け持つゴール地点に、コマを移動させると勝ち。
双方とも、到達できない場合は、引き分け。

【プレイヤーの手番】
プレイヤーは、隣接したタテまたはヨコの空きマスへ移動させます。
移動後は、移動前にいたマスに、石を置きます。
石をおいたマスには、駒は移動できません。

先手は、コマを左へ動かして、石を置きます。

……以上です。


……なにこれ?


と、お思いでしょう。
クラクラしますね。
なんで、このゲーム1993年に初お披露目なのかと。
ちなみに、2年後の1995年に登場したのが、あの

『カタン』

なんでしょうか、得も言われぬギャップ。
不思議ですね。

しかし、シンプルがゆえにゲームに勝つための手筋も掴みやすいので、とくに組み合わせ数学などの研究に適しています。
実際に、サンプルプレイの例をお見せしつつ、その勝ち筋のいくつかを追ってみましょう。

サンプルゲーム:図1

今回は、それぞれのプレイヤーが置いた石に、担当する色をつけてみます。
上の状態を見て気付くと思われます。
それぞれのプレイヤーの石が、市松(チェッカー)模様に配置されていきます。
ある程度進行した状態で、次は後手(青)の手番です。

サンプルゲーム:図2

もし、左にコマを動かすと、すでに置かれた石のあるマスに移動できませんから、自動的に互いに矢印にそってコマを動かします。
このまま進むと、先手(赤)がコマをゴールに到達させて勝ちになります。
なので、後手(青)は、コマを右に動かします。

サンプルゲーム:図3

さらに進行して、次は先手(赤)です。
もし、コマを上へ移動すると、次の手で後手(青)はコマを右に動かします。
こうなると、コマは先手(赤)のゴールに到達できなくなってしまうので、勝てません。
先手(赤)は、コマを左へ動かすことにします。

サンプルゲーム:図4

さらに、ゲームは進行しました。
手番は先手(赤)です。
コマを下へ移動すると、次の手番の後手(青)は、下・左どちらにコマを動かしても、次々手番で先手(赤)は、コマを自分のゴールに動かすことができます。
結果、先手(赤)の勝ちとなります。



Slimetrailの派生ゲーム(1)

さて、ここまでシンプルなルールだといろいろな派生も出てきます。

コマの動かし方も、ナナメ移動を加えて「KingSlimetrail(キングスライムトレイル)」でも、遊ぶことができます。
盤面ですが、正方形マスでなく、六角形マスにしても全然構いません。

さらに、ルールも追加したり、変形してきます。

2000年に「Slime Moku(スライム・モク)」が登場します。

サンプルゲームのように、お互いに異なる色の石(白・黒など)を持ち、「スライムトレイル」と同じく、コマを動かして自分の石を移動前のマスに置きます(補足:正方形マスの場合は、「KingSlimetrail」のタテ・ヨコ・ナナメ8方向にコマを動かすほうをおすすめします)。
ゲームの目的・勝利は、

自分の石を一直線に5つ並べたら勝ち

です。
そうです、「Moku」は「Gomoku(五目並べ)」のことです。
コマの移動の特例として、石に囲われて移動できなくなってしまった場合は、任意の空きマスにコマを置くことができます。

「スライム・モク」の考案も、「スライムトレイル」と同じくビルさんと言われていますが、不明です。

Slimetrailの派生ゲーム(2)

2001年に、「Slimetrail(スライムトレイル)」を逆にしたようなゲーム「Snailtrail(スネイルトレイル)」が登場します。
スネイルとは、カタツムリのことです。

このゲームを考案したのは、Don Philip Green(ドン・フィリップ・グリーン)さん。
ドンさんの代表作は、1999年に発表した『Octi(オクティ)』。

「スライムトレイル」は、1つのコマを共有して動かしましたが、「スネイルトレイル」は、それぞれコマを1つ受け持ち動かします。

用意するのは、適当な大きさの正方形マスの盤面(下の例は7x7)。
コマがそれぞれ1つずつ。
「スライムトレイル」と同じく、石がたくさん、です。

ゲームの準備として、それぞれのコマを盤面の対角のマスに配置します。

プレイヤーの手番になると、コマをタテ・ヨコ・ナナメに必ずその時点の手番の数だけ動かします。
ゲームの終了・勝利条件は、プレイヤーの手番でコマを動かし終えることができなければ負けになります。

どういうこと?と思われますので、サンプルゲームをおみせします。

先手(赤)の1手目で、コマを1マス移動して、移動前のマスに石を置きます。
後手(青)は2手目になるので、コマを2マス移動して、移動前のマスにそれぞれ石を置きます。
……なんとなく、次の展開がみえてきましたね。

次の手番、先手(赤)は3手目、その次後手(青)は4手目なので、コマを3マス移動、4マス移動して石を置きます。

5手目、6手目です。
石を置いたマスは「スライムトレイル」と同様に、どちらのコマも移動スことができません。

先手(赤)の7手目で、後手のコマを囲うように7マス移動しました。
次の後手(青)の手番ですが、最高6マスしか移動できません。
8マス移動しなくてはならないので、後手の負けとなります。

「スライムトレイル」よりも「スネイルトレイル」のほうが、よりマンカラっぽいルールにみえます。

「スネイルトレイル」も「スライムトレイル」と同じくいろいろとルールを変更・追加することもできます。
なにせ、「スライムトレイル」の考案者であるビルさんも、以下のような提案をしております。

・コマは、1ターンに1マスだけ移動する。
・コマは、タテとヨコ移動で、ナナメには移動しない

……うん、それ「スライムトレイル」に、むっちゃ近づけているがな。

締め

ということで「Slimetrail(スライムトレイル)」「Slime Moku(スライム・モク)」「Snailtrail(スネイルトレイル)」を紹介しました。
西暦2000年前後、インターネット環境により世界全体に情報が行き交うようになります。
ボードゲームコニュニティも広く深く大きくなりました。
その点を踏まえると、2次元マンカラのルーツとして「スライムトレイル」(とその派生ゲーム)が候補として立ち上がってきます。

次回は、何を書こうか迷っております。
まあ、いくつか検討しております。

では。

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