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最古級のトリックテイキング『Karnöffel』から、トリックテイキングを「舞台装置」として考えてみる。

この記事はTrick-taking games Advent Calendar 2020の21日目の記事の後半として書かれました。
※独立して読むことができますが、前半も読んで頂くことをおすすめします。

前半はこちら。
『Karnöffel』の言葉の意味と、切り札について書きました。

【注意】
今回の記事も、下ネタが頻出します。
苦手な方は、お読みならない方がよろしいかと。
事前にお断りします。

といっても、「karnöffel」のことをキ◎タマと呼ぶだけなんですが。


ドイツ語で「トリックテイキングゲーム」の呼び方は?

当然といえば当然なのですが、「トリックテイキングゲーム」は英語です。「Trick-Taking Game」です。
今回の記事のきっかけは、

「トリックテイキングゲーム」の
Trick」って、なぜそう呼ぶの?

という疑問です(まだ、中途段階で解決となる仮説までにたどり着いていません。そのうち書くかも知れませんが)。
根拠やら資料やら探していくうちに、『Karnöffel』に出会った次第です。

話を戻します。

ドイツ語で「トリックテイキングゲーム」は「Trickspiel(トリックシュピール)」とも書きますが、

Stichspiel(シュティッヒシュピール)

と呼ばれます。
実際、2020年に数々の賞を獲得した協力型トリテ『The Crew(ザ・クルー)』の原国版の箱裏の説明にも書いています。

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改行後の文章に「In diesem kooperativen Stichspiel (中略)」とあります。

「Stich」の意味ですが、英語にすると「Stick」。
「刺す」などの意味になります。
似たような英語の単語に「Stetch」(縫う)があります。
共通の語源ゆえ、「Stich」にも「縫う」という意味があります。

それを踏まえた上で、この意味を踏まえた箱絵のデザインをしたボードゲームがいくつかあります。

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『Sticheln(シュティッヒェルン)』。
左はAMIGO初版の箱。女の子が青年の尻に針をさしています。コンプライアンス的にアウト。
真ん中はAMIGO3版の箱。第2版も同様の箱絵です。なにげに絆創膏があるし。
右はNSV版の箱。カードのキャラクターがエペ系の剣を持っています。

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『Was Sticht?(ヴァス・ジヒト?)』。
蚊が描かれているわけです。

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『Stich-meister(シュティッヒ・マイスター)』。
邦題「トリックマイスター」。
多言語版がないので、この呼び方をしているのは日本だけかも。
原題を直訳すると「鍼の達人」。
箱絵の達人は、引田天功ではなく藤枝梅安だった(ブーメラン発言)。


なぜ「Stichspiel」と呼ぶようになったのか?

わかりません。以上。

……で終わってはいけませんね。
仮説など立てていきましょう。

ちなみに「Trickspiel」という呼び方ですが、これは外来語のようです。
あとになって、イギリスなどから「Trick」や「Trick-Taking Game」の言葉がはいってきて、それに倣う形で「Trick」を使ったと思われます。

まず、最古級のトリックテイキングゲーム『Karnöffel』。
これが「Stichspiel」と呼ばれている証拠などはないと思われます。
ただし、前のnoteでも紹介したDavid Parlettさんの記事

には、以下のことが書かれています。

【引用】
As to its social significance, Sow card it was so clearly an anarchic game that civic and ecclesiastical authorities often objected to it. Bishop Geiler, as we have seen, saw Karnöffel as the embodiment of that medieval nightmare "the world turned upside down". Ordinary card games, whatever their demerits, at least reflect a sensible social order, with the King superior to the Ober, the Ober to the Unter, and so on. "But now", he complains, "we have a game called Karniffelspiel in which everything is turned upside down:
<翻訳>
その社会的意義については、それは明らかに無秩序なゲームだったので、市民や教会の当局はしばしばそれに反対しました。ガイラー司教は、私たちが見てきたように、カルノッフェルをその中世の悪夢「世界がひっくり返った」の具現化として見ました。通常のカードゲームは、そのデメリットが何であれ、少なくとも賢明な社会秩序を反映しており、王はオーバーよりも優れており、オーバーはウンターよりも優れています。「しかし今」と彼は不平を言います。「Karniffelspielと呼ばれるゲームで、すべてが逆さまになっています。

「Karniffelspiel」。
つまり、karnöffelなspiel。
karnöffelの意味は、

Karnöffel→枢機卿・脱腸・キ◎タマ・悪党

であろうと、前回でも書きました。

時系列で行くと、「Karniffelspiel」から「Stichspiel」へと変わっていったわけです。
なぜ、「キ◎タマ」から「刺す」に変わるのか。
それには「Stich」に他の意味がありまして、それが

刺すような痛み・激痛

なのです。
なるほど、「karnöffel」には「脱腸」の意味もありますので、そりゃあ痛いよね。すごく痛いよね。
……キ◎タマもどうかするととんでもなく痛いよね。ということで、

【仮説】
「karnöffel」の直接的な表現を
婉曲にしたので、
「Karniffelspiel」から「Stichspiel」へと
変化した。

と立ててみます。

『Karnöffel』とメイフォローと「Spiel」

「Stichspiel」の前半、「Stich」についてつらつら書いたわけですが、今度は「Spiel」もいじってみます。

「Trick-taking games Advent Calendar」でも記事にされていることに、「(現代)トリックテイキングゲームの定義」があります。

新しくトリックテイキングゲーム(以下「トリテ」と略)をつくるなどするとき、何をしてそれがトリテと言えるのか。
そのようなことです。

諸説主張いろいろありますが、おおむね

(基本は)マストフォロー

です。
「マストフォロー」は大雑把に説明すると、

「それぞれのプレイヤーは、
最初に出したプレイヤーの縛りにしたがって
カードを出さ(プレイし)なければならない」

です。
ところが、『Karnöffel』はマストフォローのような縛りがありません。
それをメイフォローと呼びます。

メイフォローについては、ADVENTERの24日目に黒宮さんが記事にしています。
メイフォローの特徴についてもよくわかりますので、是非ご一読を。


しかもそれだけではなく、このゲームは基本的にチーム(ペア)を組んで遊ぶのですが、

通し(サイン・シグナルを送り合う)
をしてもよい

のです。
イカサマではなく合法でっせ、ときたもんだ。
実際『Karnöffel』の末裔として元のルールを色濃く残した『Kaiserspiel』が現存(逆に、現存していたからこそ『Karnöffel』のことがよくわかった)しているのですが、これにも通しルールがあります。
しかも、

今のサイン出したら、このカードだからね。

と、全員が認知できる始末。
なにそれ。これってゲームなの?
つまり、最古級のトリテ『Karnöffel』は、非現代的なトリテです。

現代の我々の視点観点からすると、破綻しているように見えても仕方ないでしょう。

しかし、「Spiel」の意味を考えると、間違っていない。
「Spiel」には、ゲーム・遊戯のほかに、

ごっこ・演劇

を示す言葉なのです。

その実例として、ヴィトゲンシュタインの「言語ゲーム」があげられます。
「言語ゲーム」は、原文で「Sprachspiel(スプラッヒ・シュピール)」。
ヴィトゲンシュタインの没後出版された『哲学探究』に「言語ゲーム」が度々登場します。
そこでの意味としては「ゲーム」よりも「演劇」的な意味で扱われています(特に後半になるほど顕著)。
実は「Sprachspiel」は「言語演劇」と翻訳して読むと、しっくりくるらしい。

ちなみに、白川静の執筆した『遊字論』でいくつかの漢字について語っていますが、そのひとつに「劇」を取り上げています。


『Karnöffel』という「舞台装置」

つまるところ、

【仮説】
『Karnöffel』は、
カードを使った即興演劇であり、
そのルールは、
演出であり舞台装置である。

こう考えると、いろいろを合点がいくのです。

特に注視したいカードはTrump
主役級(Trump)をいいタイミングで出したい。

プレイヤー全員、どんでん返しを期待している。

なぜメイフォローなのか、なぜ通しがあるのか。
それは結局、いいタイミングでカードを出したい。

プレイヤーの勝敗云々は二の次(仮の目的)で、本当は

面白い展開のストーリーにしたら、全員勝ち

が真の目的のSpiel(演劇)かも知れない。
極論ですが、


現在のトリテは、確率的・技術的・理論的
原初のトリテは、運命的・芸能的・詩文的

そのような対称的関係になっている、と思えます。

締め

ということで、いろいろ足りないところもありますが、おおよそのことをかきあげましたので締めとさせていただきます。

来年から、トリテとある遊戯(ゲーム)を2つ並べながら、あれこれ考えたことを書いていく予定です。
よろしくおねがいします。

では。


あ、来年も「Trick-taking games Advent」よろしくお願いします。

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