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超動くマンカラ(8)~「おわり」と「おーわーりー」

前回の超動くマンカラは番外編でした。

前回の本編(もう1ヶ月前の話)はこちら。

さて、この記事をアップした時期(2022年4月23日)は「ゲームマーケット2022春」の開催真っ最中です。

さらに、2022年はボードゲーム制作者Alex Randorph(アレックス・ランドルフ)の生誕100年にあたります。
特設のサイトが登場しております。

なんでいきなりアレックスさんなのか。
それはマンカラをつくっているからです。

『Oh-Wah-Ree(オー・ワー・リー)』。
1962年に3Mから発売されました。
この年代と3Mにピンときた方もおられるかも。
そうです。
『ツィクスト(TwixT)』『アクワイア(Acquire)』など、古典的名作ボードゲームを輩出した「Book Shelf Series」の1つです。

『Oh-Wah-Ree』は、マンカラの1つ「Owari(オワリ)」のルールを模倣したボードゲームになります。

「Owari」とは

以前このような記事を書きました。

日本で一番知られているマンカラは「カラハ」ですが、東南アジアのマンカラの1つ「コンカク」のルールを模倣しています。

アフリカンな伝統的マンカラの代表格をあげるならば、それが「オワリ(Owari)」です。

呼び方も様々で、「オワリ」のほかに「ワリ(Wari)」「アワリ(Awari)」「ンチョ(Ncho)」などなどあります。

「オワリ」ですが、日本で購入できる「マンカラ・カラハ」を使っても遊ぶことができます。
石の数も48個で同数で、穴の数2×6個の配置も同じです。
大きな違いは、「カラハ」ではプレイヤーは自分の大穴にも石を播きますが、「オワリ」では大穴に石は播きません(それぞれのプレイヤーの得点入れとして使うことは変わりません)。

「オワリ」のおおよそのルール(細かい点は割愛)をざっと箇条書き。

・互いに1回づつ、自分の手前の穴の1つにある石をすべて取って反時計回りに石を播いていきます。ただし、相手の穴に少なくても1個の石を撒かなくてはなりません。
・最後に石を播き終わった相手の穴にある石の数が2個か3個ある場合、すべての石を取って、自分の得点とします。さらに、時計回りで隣の相手の穴にある石が同じく2個か3個ある場合、それらも取って得点にします……ただし、その繰り返しで結果相手の穴6個全てから石をなくしてしまうことはできません(つまり、最初からそのような手はダメだよ、とちゃぶ台返し)。
・追加で石を播くようなボーナスアクションはありません。
・自分の手番で、どうにも相手の穴に石を播くことができなくなってしまうと、ゲームが終了。
・25点以上取ったプレイヤーの勝ちです。24点だと引き分け。

以上です。
文章だけではよくわかりませんね。
以下のリンクの記事は、むちゃくちゃ写真を使ってルール説明やゲームの様子をみせています。


なぜ模倣ゲーム『Oh-Wah-Ree』なのか?

さて、アレックスさんの『Oh-Wah-Ree』。
以下のサイトは『Oh-Wah-Ree』のルールのPDFが閲覧・取得できます。

『Oh-Wah-Ree』のルールは「オワリ」を模倣しています。
ただし、「オワリ」から次の2点のルール(縛り)をなくしています。
(1)ただし、相手の穴に少なくても1個の石を撒かなくてはなりません。
(2)ただし、その繰り返しで結果相手の穴6個全てから石をなくしてしまうことはできません。

【独り言】
なぜ「オワリ」にこのようなルールが残り続けたのかはわかりませんが、あえて1つ仮説を立てると「それが文化(しきたり)だから」ではないかと。
マンカラの種播きアクションは農耕から連想された説がありますが、「自分の畑だけしか作業してはいけない……(1)に相当」「畑にあるものを全て取り尽くしてはいけない……(2)に相当」などのしきたりに倣ったのではないかと。
しきたりを破るとどうなるんでしょうか……オソロシや。

2つの縛り、特に(2)の縛りをはずすことで、2つ都合のいいことがあります。
1つは「(2)の禁じ手を気にしなくてすむ(禁じ手から元に戻すのは、非常に困る事態なのです)」。
もう1つは「プレイヤー人数を増やすことができる」。

マンカラは基本2人対戦ゲームで「オワリ」も2人ゲームです。
一方『Oh-Wah-Ree』は、3人4人でも遊べます。

Boardgamegeekより引用

上は『Oh-Wah-Ree』の盤面ですが、丸く並んだ穴の内側に、4色の玉があります。これは各プレイヤーの受け持つ穴をあらわしています。
4人プレイなので、それぞれ3つあります。
3人プレイは、4つずつになります。

正直なところ、『Oh-Wah-Ree』は、

単なる「オワリ」の模倣ではありません。

しかし、模倣であることを示すために発音を残した『Oh-Wah-Ree』というタイトルにしています。
なぜそんなことをしているのでしょうか。

ここからは憶測になります。
「Book Shelf Series」は、新作のボードゲームばかりではありません。
「バックギャモン」「チェス」「囲碁」の伝統的ボードゲームもラインナップに連ねています。
その1つとして「マンカラ」も候補になっていたのでしょう。
一方で「カラハ」が発売されてから大分経過していますので、異なるルールのマンカラとして「オワリ」が採用されたかも知れません。
ただ、アレックスさん的にはあの縛りが不満に見えて工夫したかった
そこで「オワリ」をリスペクトしつつ『Oh-Wah-Ree』がうまれたのではないかと。

その工夫はルールだけではありません。
画期的なのはコンポーネント(特に盤面の)デザインでしょう。
「Book Shelf」のイメージにも即して、盤面が折り畳めて収納できます。(チャンピオンさんの「カラハ」の特許資料を確認すると、盤面は一枚で畳んだりはしません。)
加えて、穴の内側にマーカーが置けるようにしたことも地味に素晴らしいデザインです。
ルールバリアントとして「マーカーを無作為に置く(つまり、プレイヤーの受け持つ穴はバラバラ)」なんてこともスムーズに促せます。

締め

ということで、アレックスさんのマンカラ『Oh-Wah-Ree』でした。
個人的に「模倣に善悪はないが、上手い下手はある」と考えています。
そういった意味では『Oh-Wah-Ree』は参考にしたい上手な模倣の例だと思います。

では。

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