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Table Games in the Worldのエッセイ「ボードゲームの盗作判断をめぐる4つの立場」を読んで、いろいろ考えてみる。

2021年4月3日。
Table Games in the World(以下、TGiW)で、以下のエッセイが書かれました。

このエッセイが書かれてから、珍ぬのnoteでとある記事のアクセスが増加しました。

エッセイの冒頭に7つの事例をあげているのですが、ありがたいことにその1つのリンク先が上の記事なのです。
他にも7つの事例から2つほど、noteの記事として書いたこともあります。

盗作疑惑をどのようにみるのか。
なかなか考えさせられる内容ですので、参照引用しつつ、掘り下げてみます。

7つの事例

まず、TGiWのあげた盗作疑惑となった7つの事例です。

(2017年)
【事例1】ベジエゲームズ『WareWords』、オインクゲーム『インサイダー・ゲーム』を換骨奪胎か続き
(2018年)
【事例2】クニツィアとアドルング社が和解 権利侵害認める
(2019年)
【事例3】青森の地域おこしカードゲーム『チーキィ』、『ドブル』と同じルールで批判相次ぐ
【事例4】オインクゲーム『エセ芸術家ニューヨークへ行く』の無断リメイク、アスモデ社が『酔っ払い船乗り(Drunken Sailor) 』発売
(2020年)
【事例5】『えんとつ町のプペル』ボードゲーム、『ハイパーロボット』とルール酷似で95%オフ
【事例6】ダイソー『TOKYO DOVES』が『宇宙将棋』と似ているとして作者が抗議
(2021年)
【事例7】コリアボードゲームズ『Toc Toc Woodman』を模倣したインペリアルゲームズ『Bamboo Bash』騒動

これらの事例ですが、いくつかの視点でみると、多種多様です。
例えば、「盗作疑惑をかけられたゲーム」と「その基となったゲーム」それぞれの国(メーカーもしくはデザイナー)。

     疑惑ゲームの国・基ゲームの国
【事例1】 アメリカ  ・ 日本   … 国外と国内
【事例2】 ドイツ   ・ ドイツ  … 同じ国外同士
【事例3】 日本    ・ フランス … 国内と国外
【事例4】 ドイツ   ・ 日本   … 国外と国内
【事例5】 日本    ・ ドイツ  … 国内と国外
【事例6】 日本    ・ 日本   … 同じ国内同士
【事例7】 アメリカ  ・ 韓国   … 国外Aと国外B

そして、誰が盗作だととなえた(メインとなって騒動の勃発となった)のか(元のゲームの出版社・デザイナー、もしくは、第三者)

【事例1】 基ゲームの出版社
【事例2】 基ゲームのデザイナー
【事例3】 第三者
【事例4】 基ゲームの出版社(ただし、先に疑惑ゲームの出版社から申告)
【事例5】 第三者
【事例6】 基ゲームのデザイナー
【事例7】 第三者

これも様々です。

毎年盗作疑惑の話題があがりますが、なかでも【事例3】【事例5】【事例7】の騒動にまで発展したものです。
その要因として、出版社・デザイナー間での解決前に、第三者からの批判が飛び交う環境(とりわけSNS)が整ってきたからでしょう。

・【事例1】では、Boardgamegeekのフォーラムでの積極的議論が交わされ、以後、「盗作疑惑」に目を光らせるようボードゲームファンが増加。
・【事例3】【事例7】は、クラウドファンディングきっかけの騒動で、
出版社・デザイナーより先に第三者が異を唱える状況だった。

……まあ、その一端を珍ぬも担っているんですが。

「4つの立場」とは?

さて、盗作疑惑を考えるにあたり、TGIWのエッセイでは、「盗作/剽窃/パクリ」の境界線となるような判断基準を考える試みをしています。

その土台として借用したのが、書籍『ゲーム探検隊』の「第一章 ルールとは何か」から引用した、4つの「(正しいとする)ルールの決定の方法」です。

「ルールの決定の方法」(TGiWからの引用):
1:現地主義(実際にやっている人たちが採用しているルールが正しい)
2:合理主義(整合性のあるものが正しい)
3:功利主義(一番面白いルールが正しい)
4:文献主義(文字通り本に書いてあるルールが正しい)

ここから、パクリなどの判断基準として置き換え、

(TGiWからの引用):
1:現地主義:実際にどちらも遊んだ人たちが盗作と感じたらアウト
2:合理主義:そのゲーム固有のメカニクスが使われていたらアウト
3:功利主義:似ている前作から面白くなっていなければアウト
4:文献主義:ルールを同じ内容で記述できるならばアウト

と定義しています。
さらに、それぞれの主義を吟味をして、「合理主義」による判断基準が一番信用性が高いとしています。

これはこれで一意見として受け止めました。
その一方、なんか腑に落ちない、とも感じました。

『ゲーム探検隊』の考えを再構成

腑に落ちない理由は、

『ゲーム探検隊』の
「(正しいとする)ルールの決定の方法」は、
「(正しいとする)ゲームの決定の方法」ではない

からです。
盗作/剽窃/パクリ」を考える方法として、そのままあてはめると、もう釈然としない点がポロポロこぼれてきます。
ひと手間加える必要があるのでは、と感じました。

「ルール」からさらに範囲を広げて、コンポーネントなども加えた

「(正しいとする)ゲームの決定の方法」

を、改めて自分なりに再構成してみます。
再構成してみると、気付きがありました。

・『ゲーム探検隊』では、4つの主義をフラット(並列)に列挙していますが、双対関係の2セットでまとめることができる。
・ただし、そのために『ゲーム探検隊』であげた主義を、いろいろ言い換えないとわかりづらい。

です。
その点を踏まえつつ、書いていきます。

「ゲームの決定の方法」を使わない

いきなり例外について書きます。
そもそも、

ゲームが1つしかない場合は、
その1つが正しいゲームである

ので、方法なんざ使う必要がありません。

もっといえば、「盗作/剽窃/パクリ」は比較するゲーム(ルール)があってこそ起こる事態なので、考える必要もありません。


「現物主義」と「虚構主義」

「現物主義」は、「文献主義」の言い換えです。
なぜ、先に4つ目の主義を取り上げたのか。
他の3つの主義は、ゲーム(ルール)が複数あるときに使う方法です。
「文献主義」は複数でも使えますが、

・ルールが部分的にしか分からないゲーム
・ルールが不明でコンポーネントしかないゲーム
・そもそもルールが間違っているかもしれないゲーム

のように、1個のゲーム(ルール)としては満たない1個未満の(不十分な)ゲームを、不完全のありのままが正しいゲームである、として扱うときに発揮する方法です。

コンポーネントしかわからないゲームは、少なくありません。
たとえば、そのうち紹介する予定のサイト「The World of Abstract Games」のなかの1コンテンツに「UNKNOWN GAMES」があります。
ここに紹介されているゲームは、ルールがよくわかっていないものばかりです。

また、遺跡から発掘されたゲームのコンポーネントらしきものも該当します。
それを使って遊ぶルールも発掘することは、まずないです。
しかし、様々なゲームルールの蓄積データと歴史的な文化生活のデータから、ゲームルールを推測してみる研究があります。
以前、珍ぬのnoteでも紹介した「デジタル・ルデーム・プロジェクト(Digital Ludeme Project)」です。

このプロジェクトは、ぶっちゃけ、存在していない虚構の正しいルールを発見するのが目的です。

なので、「虚構主義」と名付けますが、『ゲーム探検隊』だと「功利主義」にあたります。
「遊ぶことに難のあるオリジナルのゲーム」と「全くのでっちあげだが遊ぶことのできるゲーム」。
面白さ、という判断基準で考えて、後者がより正しいゲームである。
これは「功利主義」にかないます。

ということで、双対関係の軸の1つ目は、

「現物主義」と「虚構主義」
(旧:「文献主義」と旧:「功利主義」)

になります。

「共栄主義」と「代表主義」

では、複数のゲームがある場合を考えてみます。

「共栄主義」は、『ゲーム探検隊』での「現地主義」になります。
『ゲーム探検隊』にも書かれていますが、国や地域、社会や部族やコミュニティによる、ある範囲においてはそれが正しいルールであり、他のものは正しさから外れる(オプションルール、バリアントルールなどと呼ばれることもある)ルールである、としてみます。

「現地主義」は、小さい地域で区切る「棲み分け」によって、いわゆるローカライズで成り立ちます。
全体を大きく捉えたグローバルな視点でみると、

たくさんの正しいゲームがあふれている
共存共栄の状態

です。
「共栄主義」の事例としては、『チェッカー(ドラフツ)』があります。

『◎◎式チェッカー(ドラフツ)』と、国・地域ごとに(あるいは時代によって)ルールやコンポーネントが少しづつ異なります。

もう一方の「代表主義」です。
これは「共栄主義」のように、正しいゲームが複数あるのではなく、ただ1つに絞る方法です。

最もふさわしい、つまり、整合性のあるゲーム(ルール)を
1つ選ぶ。

つまつところ、『ゲーム探検隊』の「合理主義」です。
ということで、双対関係の軸の2つ目は、

「共栄主義」と「代表主義」
(旧:「現地主義」と旧:「合理主義」)

となります。

「合理主義」は、実は至極曖昧

『ゲーム探検隊』の「合理主義」には、致命的な欠点があります。
それが、

整合性の基準と判断方法が明記されていない

のです。
TGiWでは、独自の基準を用いて定義しました。

2:合理主義:そのゲーム固有のメカニクスが使われていたらアウト

としました。
珍ぬは、TGiWさんのエッセイを読んで、ふとある考えがよぎりツイートしました。

この記事で上げている「合理主義」は、「象徴主義」と言い換えてみると、しっくりきてしまう。
なので、判断基準としてはどうかな、と思った。

「象徴主義」としたのは、「◎◎というメカニクスと言えば、ボードゲーム◆◆」のように、メカニクスとゲームとが呼応する象徴(シンボル)のような関係がはたらいている、とみたからです。

しかし、この「象徴主義」こそが、

「盗作/剽窃/パクリ」が起きる要因

ではないのか?と考えます。

メカニクスという概念は、「ルールから核を取り出した部分」とすると、

不完全の正しいルールを示している

ともいえます。
すると、「現物主義」としてみることができます。
「現物主義」の双対関係にあるのは「虚構主義」です。
では、こんな事が起きたらどうしますか?

従来から
「◎◎というメカニクスといえば、ボードゲーム◆◆」
という状況に、
新たな
「◎◎というメカニクスといえば、ボードゲーム▲▲」
が登場

「虚構主義」が現実化して対峙するのです。
そして、この状況をどのように裁くのか?

その前に、一旦CM。

CM:「功利主義」は「合理主義」の具体例

「功利主義」は、複数あるゲームのなかで1番面白いゲームという基準で選びます。
ぶっちゃけ、M1グランプリです。
言い換えると、『ゲーム探検隊』の「合理主義」に「面白い」という基準を設定した具体例なのです。

これは珍ぬの完全な邪推なのですが、実は「功利主義」を語りたくて、『ゲーム探検隊』の4つの主義が生まれたのではないか?とみています。
多分ですが、

キャンセレーションブラックレディの呪い(まじない)

がかかっているのでしょう。
「功利主義」のもう一つの見方は、「従来あるゲームと比べて、より面白いルールによって、正しいとなった後発のゲーム」です。
では、ここで考えてみましょう。

後発のゲームが正しいゲームである
とするならば、
従来あるゲームは正しくないゲームでしょうか?
または、
どちらも正しいゲーム、なのでしょうか?

「代表主義」と「現物主義」の暴走

CM明けです。

「◎◎というメカニクスといえば、ボードゲーム◆◆」対決。

平和的な解決方法は、どちらのゲームも正しいとする「共栄主義」です。
結局騒動となるのは、「代表主義」での解決がもつれにもつれてしまったからです。
そこに追い打ちとして、「現物主義」も絡んできます。
TGiWのエッセイから引用すると、

4.文献主義:ルールを同じ内容で記述できるならばアウト
4は、完全一致でない限り盗作と判断することはできず、海賊版に対してしか適用できない(法的・著作権的はそのような判断になると思う)。

として外していますが、(不完全でも正しい)「現物主義」を持ち込んで騒動の争点としています。
従来あるゲームは「正しさの証左」として、著作権・知的財産権・ライセンスなどの権利を用います。
ただこれらは、部分的な正当性を示しているのであり、一切合切全て正しいわけではありません。

そして、場合によっては(【事例7】のように)「後発のゲーム」も「現物主義」を用いることもありえます。

「盗作/剽窃/パクリ」疑惑のなかでも騒動が起こるのは、

「代表主義」と「現物主義」による
完全決着を追求しすぎた状態

のところに第三者が関与して、批判なのか誤解なのかごちゃごちゃした展開に陥ってしまう。

盗作疑惑ではありませんが、後発のゲームが知的財産権を正当性として暴走した「ツィクスト(Twixt)」の事例もあります。

いずれにしても、7つの事例は、「共栄主義」もしくは「代表主義」で決着して(あるいは決着に向かって)います。

まとめ

今回の記事を書く前に、noteでたなやんさんが同じテーマで記事を書いています。

こちらのほうが、スッキリしています。
是非お読みくださいませ。

本当ならば、「The World of Abstract Games」の紹介記事を書く予定でしたが、優先順序を変えました。
結果、書いては消し、加えては削り、まとめてはバラすの推敲三昧。
今回のnoteは難産でした……が、このザマです。
まだまだ手を入れたいのですが、この週の平日すべて、本記事に費やしましたので、いい加減手放します。

5000字超えのボリュームで申し訳ない。

では。

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