大喜利好きな隣人さんがいつも励ましてくれるのは…本気だから。
(スマホのアラーム音)
〇〇:ふぇ…
〇〇:はいはい…
眠気と闘いながら、スマホの画面をタップしてアラームを止めた。
〇〇:くぅ〜
布団から起き上がると、背伸びして欠伸した。
顔を洗い歯を磨いてスーツに着替え、冷蔵庫から食パンとバターを取り出して、トースターでパンを焼いてバターを塗り食べる。
〇〇:よし、出るか。
玄関のドアを開け、マンションの通路の左にあるエレベーターに向かおうとすると、
ガチャッ
隣の部屋のドアが開き、隣人の上村さんが出てきた。
ひなの:あ、守下さんおはようございます!
〇〇:おはようございます、上村さん。
ひなの:お仕事ですか?
〇〇:はい。
ひなの:頑張ってくださいね。
〇〇:はは、ありがとうございます。
上村ひなのさんは大学生でつい最近に隣に引っ越してきたばかりなのだが。引っ越してきた日に挨拶しにこちらを訪ねてきてくれて、それ以来仲良くさせてもらっている。
ひなの:あ、良かったらこれを。
〇〇:え?
ひなの:おにぎりです。具は鮭のと、明太子ですよ。
〇〇:良いんですか?
ひなの:是非是非。
〇〇:ありがとうございます!
偶にこうして朝に会うと上村さんから何かしら頂くことがあり、そのお陰で平日の朝からテンションをあげて出勤出来ていた。
〇〇:上村さんも、今日大学ですか?
ひなの:はい、1限から。
〇〇:大変ですよね、朝から講義があると。
ひなの:そうですね、偶に眠くて講義中に寝ちゃったりします笑
〇〇:ああ、分かります。それで、その後友だちにノート写させてもらって…
ひなの:そうそう、そんな感じです笑
〇〇:あはは。
ひなの:でも〇〇さんの方がもっと大変ですよね。朝から晩まで働いていて、凄いです。
〇〇:いやまぁ…社会人ですから。
〇〇:じゃあ、また。
ひなの:はい、お仕事ファイトです!
と、隣人の上村さんに励まされて駅に向かった。
〇〇:(本当、可愛いよな上村さん。)
〇〇:(しかも、面白いし。)
電車の中の吊り革に掴まりながら、この前上村さんの家に招待された時のことを思い出していた。
ー1週間前ー
〇〇:ん、めっちゃ青椒肉絲(チンジャオロース)美味しいですね!
ひなの:本当ですか?嬉しいです!
ひなの:初めて作ったんですが上手く出来ているか不安でした。
〇〇:え、初めてだったんですか!?
〇〇:全然そうは思えないくらい、美味かったですし。
ひなの:えへへ、ありがとうございます。
その日、上村さんに家に招待され青椒肉絲をふるまってもらった。
その後、2人でバラエティを観ていた時のことだった。
<テレビ内>
〇林:問題、春日に足りないものって何?
久美:はい、周りへの配慮!
〇林:1ポイント!良い出だしですね、ささく。
春日:おい、なんちゅーこと言うんだ貴様!
〇林:ほら、そういうところなんですよ春日さん。
〇〇:ぶふっ!(やっぱり好きだわー、このオー〇リーの2人)
上村さんの隣で一人爆笑していると、隣の上村さんが何故か画用紙を持って何か書いていた。
〇〇:ん、それは?
ひなの:ちょっと私も大喜利やりたくなって。
〇〇:へ〜、なんて書いたんですか?
ひなの:気になります?
〇〇:ええ。
ひなの:じゃあ、さっきのお題を言ってくれますか?
〇〇:ああ、雰囲気が大事ですもんね。
ひなの:ふふ、そういうことです。
〇〇:では、春日に足りないものって何?
紙をひっくり返して見せたのは、
「遊び心」
ひなの:遊び心!
〇〇:ぶふっ!
〇〇:めちゃくちゃ面白いじゃないですか。
ひなの:やっぱり春日さんは真面目過ぎますからね笑
〇〇:なるほど〜
お笑いサークルに入っているらしく、上村さんは普段からこの手のバラエティを見てはお笑いを研究しているそうで、大喜利が得意らしい。
ひなの:そうだ!
ひなの:なんかお題出してみてください。
〇〇:え、俺から?
ひなの:はい。
〇〇:なんでも良いの?
ひなの:もちろんです。
そう言われ、思いつきで言ってみた。
〇〇:では、会社に行きたくないときどうしたら良い?
ひなの:なるほど〜、う〜ん…
ひなの:あっ!
思いついたらしく、紙に書き始めた。
ひなの:書けました。
〇〇:おぉ、早い!
〇〇:じゃあ、見せてもらっても良いですか?
ひなの:はい。
上村さんが紙をひっくり返した。
「転職して、天職を作る」
ひなの:転職して、天職を作る!
〇〇:凄ッ…
ひなの:あれ?面白くなかったですか?
〇〇:あ、いやそうじゃなくて。
〇〇:深いな〜って感動しちゃって…
ひなの:そ、そんなに?
〇〇:割と本気で。
ひなの:そっか…
ちょっとガッカリしている感じに見えたが、すぐ表情が明るくなった。
ひなの:でも、なんか嬉しいです。本当は守下さんを笑わせるつもりでしたが、こういうのもアリですね。
〇〇:ええ。
ちゃんとフォロー出来て良かった。というより普通に褒めていただけだが…
そんな風に、初めての上村さん家の訪問はとても幸せな時間だった。
〇〇:ふ〜、やっと帰れた。
マンションに着いたのは午後9時。
〇〇:さて風呂に入って早く…
家に入り、冷蔵庫を開けると空っぽだった…
〇〇:マジか…
スーパーに寄って、食材を買ってくるべきだったか…
でも今は料理する気力がなかった。
〇〇:コンビニで買うか。
適当にスーツを脱いで着替え、財布とスマホを持って家を出ようとした。
ガチャッ
ひなの:わっ!?
〇〇:わっ!?
お互いびっくりして声が上がった。
ひなの:ごめんなさい、急に来て。
〇〇:ああ、いえ…
〇〇:でもどうしたんですか?こんな時間に?
と聞くと、
ひなの:ちょっと肉じゃが作り過ぎて余っているので食べません?
コンビニに嫌々行こうとしていた自分にとって、この上なく有難い誘いだった。
〇〇:あ、ありがとうございます。
〇〇:丁度今さっき帰ってきたばかりで、お腹空いていましたから。
ひなの:それなら良かったです!
そういうことで、上村さんの家にまたあがらせてもらった。
〇〇:いただきます。
〇〇:ん、凄く美味しいです!
ひなの:ふふ、良かったです。
肉じゃがだけでなく、白米とお味噌汁もいただき、身体も心も温かくなった。
〇〇:なんかすいません、こんなご馳走をいただいて。
ひなの:そんな、大したことじゃないですよ。
ひなの:それに、私が守下さんに好き好んでしてるだけですし…
〇〇:え?
ひなの:あ…
最後の方だけ小声だったので、よく聞こえずら聞き返してしまった。
ひなの:いや、その…
ひなの:すき焼きこの前食べて美味しかったな〜って笑
〇〇:ああ、そうでしたか。
ひなの:はい。
そう言いながら、明らかに上村さんは動揺していた。
〇〇:ご馳走様でした。
ひなの:お粗末様でした。
〇〇:今度お礼に何か料理作りますね。
ひなの:あ、はい!
〇〇:じゃあ…
上村さんにお礼とお返しの約束をして去ろうとすると、
ギュッ
〇〇:え?
手を握られた。
振り返ると、上村さんがこちらを真っ直ぐな瞳て見つめていた。
ひなの:あの…どうしても言いたいことがあって…
ひなの:そ、その…
好きなんです、守下さんが!
想いを伝えて、上村さんは顔が真っ赤になっていた。
〇〇:(ほ、本気なんだ…上村さん)
いつも朝励ましてくれて、本当に上村さんには感謝しかなかった。
そんか上村さんが自分を…
〇〇:上村さん。
ひなの:は、はい…
〇〇:こんな俺なんかで、良ければ…
そう言って、頭を下げた。
ひなの:こんな、じゃないですよ。
ひなの:いつも朝する〇〇さんとの会話が楽しいし、時々こうして一緒にご飯食べているのも、偶に私の大喜利で本気で笑ってくれるのも、全部嬉しくて…
ひなの:そしたら、〇〇さんのことが好きになっていました。
頬は変わらず赤いまま、笑みを溢しながら上村さんは言った。
〇〇:僕もです、上村さん。
〇〇:いつも朝に上村さんと話すのが楽しいし、偶にお家にあがらせてご馳走いただいたり、大喜利で笑わせてくれたり、上村さんと出会えたから会社とか頑張れたんだと思います!
〇〇:だから、そんな上村さんに…僕はもっと恩返しがしたい。
もっと上村さんを幸せにしたい。
そう思います!
ひなの:守下さん…
〇〇:だから、これから宜しくお願いします!
〇〇:上村さんほどは無理かもしれないけど、俺なりに上村さんを笑顔にしていきたい。
決意を伝えると、上村さんに抱きつかれた。
ひなの:嬉しい、凄く嬉しいです!
小さな顔で上目遣いをしながら、上村さんは微笑んでいた。
ひなの:これからは〇〇くんですね。
〇〇:そしたら、こっちはひなのちゃんって呼ばないとですね。
ひなの:ふふ、ですね。
fin.
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