そろばん教室の帰り道

自宅の近くまで来ると住宅街なので
周りに店は無く 明かりの灯った家々が並んでいる
昭和40年代の風景だった

ふと通りかかったある家の台所の窓のすぐ外の道
玉ねぎを炒めている匂いだした
学校が終わってからすぐにそろばん教室へ行ったから
お腹はペコペコだった 早く帰ってご飯食べたい
それだけが頭の中にあって 急ぎ足になった
でも、それだけではなかった

この黄昏どきの光がとても好きだった

昼間とは違った風景に見えた
あっという間に夜になってしまう前の
束の間の空間が僕にとっての宝物だった
だからそろばん教室へ行く目的は 実はこの風景を
じっくり楽しみたいからだと思っていた
玉ねぎの家を過ぎると 今度はカレーの匂いがしてきた
ジャワカレーなのか、 りんごとハチミツ、とろ〜り溶けてる
秀樹感激なのか その次はクリームシチューのようだった
北海道なのか、シチュー・ド・ポーなのか
角を曲がればなんちゅうか、本中華みたいだし
そうやって夕餉の匂いをトレースしながら
さっさと帰ればよいものを 寄り道しながら
トワイライト・タイムを楽しんでいた

どう考えてもヒガシマルのだしで作ったと思われる
うどんのような香りがした隣の家の前を通って
自分ちに到着 なんと！玉ねぎを炒める匂いがした
最初に自分ちの前を通り過ぎて 近所をウロウロしていただけなんだろうか

今となっては謎のままの トワイライト・ゾーン