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ライター入門、校正入門、ずっと入門。vol.12

「校正・校閲の仕事を専門とするプロフェッショナル集団」聚珍社の中嶋泰と、フリーライターの張江浩司が多種多様なゲストお迎えしつつ、「書くこと、読んでもらうこと」について話していくトークイベントの模様をダイジェストでお届けします。


※はじめに
こちらの「note」、実は、あえて修正しなかった誤字や間違い、あえて入れた誤字や間違いなどを忍ばせています。
 詳しくは、vol.18 (10月26日(木)予定)の『ずっと入門。秋の校正大会スペシャル』で公開いたします。
お楽しみに!


「ずっと入門。」THE BOOKを一番買ってくれたのは?

張江 本日の司会を務めます、ライターの張江です。

中嶋 このイベントの主催をしております、聚珍社の中嶋です。

張江 2021年に月一で全12回やったこの「ライター入門、校正入門、ずっと入門。」、めでたくシーズン2のはじまりです。

中嶋 シーズン1が書籍にまとまって、発売記念イベントをやったのが昨年11月。約4ヶ月ぶりですね。

張江 あらためてイベントの趣旨を簡単に説明しますと、タイトルどおりライターや校正者など色々なジャンルの文章にまつわる方々をお招きして、「書くこと / 読んでもらうこと」についてお酒なんか飲みながらざっくばらんに考えていこうじゃないか、というイベントです。

中嶋 実はあんまり飲んでないんですけどね。2021年はコロナ禍真っ只中で、ほとんど無観客配信でしたから。

張江 そうですよね。こうやってお客さんの前で喋れるのも、ちょっと感慨深いです。では、シーズン1ではゲストにして皆勤賞、引き続きシーズン2にもご出演のこの方に登場していただきましょう!

一色 XOXO EXTREMEの一色萌です!ついにゲストじゃなくなりました。

中嶋 書籍にも書いたんですけど、一色さんに毎回出ていただくことになるとは我々も思ってなかったんですよ。

一色 そうそう、最初に出たときはそれで終わりだと思ってたんで「来月からも頑張ってください」って感じで帰ったら、毎月呼んでもらったという。

中嶋 あまりにも初回がバッチリすぎたので。

一色 ありがとうございます!まさかシーズン2もあるとは!

張江 書籍の出版から5ヶ月くらい経ちましたが、中嶋さん、反響はどうですか?

中嶋 意外だったのはいろんな図書館が買ってくれたことですかね。

張江 私も知り合いから「近所の図書館で予約しました」と言われまして、「買ってくれよ!」と思いました(笑)。

中嶋 大学も含めて全国で119館くらいが買ってくれて、場所によっては2,3冊入れてくれてますね。それだけで400冊くらいいってます。

張江 カチッとしたライティングのハウツー本だと思われてるのかもしれないですね。実際に開いたら、トリプルファイヤーの吉田さんとかが愚痴をこぼしたりしているという。

中嶋 書店のどのジャンルの棚に置いてあるのか気になっていろいろ見に行ったんですけど、ビジネス書のコーナーが多かったです。

一色 それって正解なんですか?

張江 タレント本的な要素も大きいですもんね。

一色 「美しい文章講座」みたいな本の隣に置いてあったら「わかってないな」と思っちゃう。吉田豪さんの「人間コク宝」の隣だったら「それそれ!」って(笑)。

張江 確かにそれが正解かも(笑)。でも、あらためて読んだら面白い本ですよ。

一色 そうなんですよ!私のところには「面白い」っていう感想がちゃんと来ていて、物販で買ってくれた人たちにいっぱいサインもしました。

中嶋 いやー、ありがたいです。でもまだamazonレビューも、ほとんど書かれてないですよね。低評価のレビューがあったら心折れるだろうなと思ってましたけど、そもそも書かれてなくて(笑)。

一色 いい感じに書いてくれるとこの3人が元気になりますので、皆さまよろしくお願いします!
 →2023年7月現在も、amazonカスタマーレビューはありません!

校正ミス探しスタート!

中嶋 今回のテーマはこの本の失敗というか、校正的にミスしている部分を公表するという大胆なものになっています。

一色 恐ろしいことですよ(笑)。

中嶋 出版記念イベントの時点で、奥付の誤植が見つかってますからね。

張江 私のローマ字表記は「Hiroshi Harie」になってます(正しくは「Kouji Harie」)。

一色 めちゃくちゃ笑いました。校正入門の本なのに著者の名前が間違っているって(笑)。

中嶋 今日、僕は基本的に言い訳ばかりになっちゃうんですが、奥付は一番最後なんですよ。基本フォーマットを出版社からもらって、あとはデザイナーに名前を入れてもらうだけっていう。完全に終わった気持ちでいました。

一色 まさか間違えるとは思わないですよね。

中嶋 こうなったら張江さんには「ヒロシ」になってもらうしかない。

張江 現実改変だ(笑)。

中嶋 今年のはじめに高橋幸宏さんが亡くなりましたけど、Y.M.O.には誤植が曲名になっちゃった例があるんです。「サーヴィス」というアルバムに「THE MADMEN」という曲があるんですけど、元々は「THE MUDMEN」で、ニューギニアの泥を塗った人たちの儀式がテーマだったんです。
※元ネタは、諸星大二郎の伝奇コミック、「泥の男(MUD MEN)」。
そして「THE MADMEN」は、英語圏のラジオの放送コードに引っかかるということで、アメリカとかで流れるときだけ、サビの歌詞から「Every time I look away」というタイトルで呼ばれていました。

張江 ある種の放送禁止用語だったんですね。

一色 私が「Issiiki」になってなくてよかった……。

中嶋 そこはすごく気をつけて校正したんですよ。その分、張江さんに皺寄せがいってしまいました(笑)。

張江 私もシーズン1初回の告知画像を作ったときにXOXO EXTREMEの綴りを間違えたので、他人のことは言えないです(笑)。さて、では他の間違いも見ていきましょうか。中嶋さんが10ヶ所ピックアップしてきたんですよね。

中嶋 細かいところを挙げるとキリがないので、10ヶ所にしました。たとえば、「ウェブ」という言葉は何回も出てくるんですけど、アルファベットだけでも「WEB」、「Web」、「web」と何種類もあるので、こういった表記揺れは最初から諦めてます。
そもそも張江さんにnoteに載せる原稿を書いてもらった時点では、表記について何も決めていなかったので。

一色 ウェブの書き方はたくさんありますよね。媒体ごとで違う気がする。

中嶋 特に正解はないですから。記者ハン(記者ハンドブック)にも正解は載ってないです。それぞれの媒体の編集部によって決まっているというだけなので。

張江 私は「Web」表記が一番しっくりきます。

一色 私は「WEB」ですね。

張江 これぞ正解のない会話だ。

一色 無の時間ですね(笑)。

中嶋 ではピックアップしてきた箇所を見てみましょう。最初は書籍の8ページです。僕の先輩の校正者が指摘してくれた部分です。

張江 会場の皆さんも、配信の皆さんも、どこにミスがあるのか一緒に探してみてください。

一色 ここは難易度レベルどれくらいですか?

中嶋 難しいと思います。

張江 姫乃たまさんがゲストにいらっしゃったときに、文末から読んでいくと間違いに気づきやすいとおっしゃってましたね。

中嶋 でも、ノーヒントだと見つからないと思います。漢字の間違いです。

一色 漢字ですか。どこなんだろう。

(観客含め、黙々と探す一同)

一色 8ページ13行目の「それこそ本一冊くらい溜まっていくんです」の部分ですか?「本一冊」ではなくて「本1冊」が正しいとか?

張江 算用数字と漢数字の違いですね。

中嶋 ここは「本一冊」であっています。算用数字と漢数字の使い分けに関しては、だいたい加算できるものには算用数字、変化しないもの・固定されているものは漢数字なんです。たとえば、「五大老」、「四天王」、「三種の神器」の数字部分は変わらないですよね。「四種の神器」という言葉はないので。一方で、「第25回〇〇大会のような場合は、「第24回」も「第26回」もあるだろうから算用数字を使うんです。
この部分の「本一冊」は、「この本一冊あれば完璧!」みたいなキャッチコピーと同じ使われ方なんですね。「この本二冊あれば完璧!」とは言わないじゃないですか。なので、この場合は漢数字であっているんです。

張江 「本二冊くらい溜まっていく」とは慣用表現として使わないですもんね。

中嶋 そうですね。あとは「第二次世界大戦」も、今のところ世界大戦は二回しかないし、今後も増えないだろうという想定で漢数字を使うのが一般的です。

一色 増えてほしくないですもんね。

張江 同じページの16行目「聚珍社には300名近くの校正スタッフが」という部分の「300」は、増減する可能性があるから算用数字なんですね。

中嶋 そういうことですね。よし、校正的ないい話ができたぞ(笑)。

張江 じゃあ、このページの正解はどこですか?

中嶋 8ページ1行目「渡りますね」です。

張江 これは前のページから続いてる文章だから無理ですよ!(笑)

中嶋 そうですか(笑)。「多岐にわたる」は「渡る」じゃなくて「亘る」と書くんです。でも、この漢字は常用外なので、ひらがなにするのが正解ですかね。

張江 なるほど。それにしても難しすぎる。

一色 これはちょっと許せないですね(笑)。

漢字は英語に訳して考える


張江 次はどこですか?

中嶋 17ページです。ここも漢字の間違いですね。ヒントは、「中嶋」の発言です。

(黙々と探す)

中嶋 すごい、みんな真面目に探してくれてる。

一色 誰も携帯いじってないですよ(笑)。

観客A 19行目の「抑えましょう!」ですか?

中嶋 そこは正しいです。でもアプローチとしてはいい線いってます。読みの音は一緒だけど、違う字ということですね。

観客B 10行目の「混ぜている」が、正しくは「交ぜている」ですか?

中嶋 正解です!

一色 おおー!

張江 配信をご覧になっている方からも、コメントで正解が出てました。この漢字の違いはどういうことですか?

一色 「混」だとミックスしちゃうんじゃないです?

中嶋 まさにそうですね。

張江 あ、なるほど!月給制と歩合制を併用していることになっちゃうの
か。この場合は、月給制の人もいるし、歩合制の人もいるから、「交」なんですね。

中嶋 そうですね。たとえば、「越える」と「超える」はどっちを使えばいいかわからなくなるじゃないですか。「越える」は英語に訳すとoverなんです。だから「山を越える」という使い方になる。「超える」はextendなので、「100万円を超える」というときに使うんです。漢字で迷ったときは一度英語で考えてみるとわかりやすいんですよ。さっき一色さんが「ミックス」といったのはいい着眼点です。

一色 配信コメントにも「英語で考えて文字を決めるのは資料作成のときによくやる」ってきてます。今日はすごくインテリイベントですね。

張江 すごく校正のイベントっていう感じがしますよ(笑)。さて、次はどこでしょう?

中嶋 けっこう飛んで81ページです。今回は漢字ではないです。

張江 このページは地名とか固有名詞が多いから、さも漢字の間違いっぽいのに!

観客C 4行目ですか?

中嶋 当たりです!

張江 あ、本当だ、「分かることももありますが」になってますね。「も」が一つ多い。

一色 校正レベル1のやつですね(笑)。

中嶋 「も」ってキーボードで打つと「MO」じゃないですか。余分に「MMO」とタイピングしちゃって「っも」になることはよくあるんですけど、なぜ「もも」になったのか気になります。

張江 多分、ある程度文章を書いた後に語順を変えようと思ってコピペしたと思うんですよね。その関係で重複しちゃったんじゃないかなと。

一色 あー!そういうのTwitterとかでもよくありますよね。こういうシンプルな間違いは見つけると気持ちいいですね。

中嶋 楽しんでもらえたら何よりです(笑)。次は88ページです。これも漢字です。

張江 それにしても私は校正に向いてないです。全くわからない。

一色 大変なお仕事ですよ。あ、これは質問なんですけど、21行目の「『ラッキー! 俺売れるかも?』」の「!」の後ろに全角スペースが入ってるじゃないですか。これには決まりがあるんですか?

中嶋 なかなかいい質問ですね。出版社の担当編集者さんは全角スペースを空けたがってました。僕はどっちでもいいかなと思ってたんで、あまりいじらなかったですね。媒体によってバラバラです。

張江 空けるとすれば全角が多いですか?

中嶋 それもまちまちですね。

張江 3点リーダは二つ使って「……」にしないといけない、という話もよく聞くんですけど、これはどうなんですか?

中嶋 ルールがあるわけではないです。

一色 あ、そうなんですね!二つ使わなくちゃいけないのかと思ってた。

張江 東京キララ社という出版社の代表の中村保夫さんと話してたら、「3点リーダなんてどうでもいいから面白い原稿の方がいいよ」って言ってました(笑)。「締切を守ってる原稿は大概面白くない」とも言ってたし、編集者としての胆力がすごい(笑)。

中嶋 誰か間違いわかった方いますか?

観客C 「ハッタリを効かす」?

中嶋 そうです!

一色 すごい、2連続正解!

中嶋 17行目の「ハッタリを効かせられた」は「ハッタリを利かせられた」なんです。ただ、厳密には間違いでもないというか。実際にハッタリの効果があった、という話なので。でも慣用句的には「口を利かせる」と同じく「ハッタリを利かせる」なんです。

張江 みんなでワイワイやると校正作業も辛くないですね。

一色 書籍の第二弾が出るときは「この本には15ヶ所間違いがあります。校正してみよう!」っていうふうにしたら楽しそう(笑)。

張江 校正者が作る本としては掟破りな気もします(笑)。

ChatGTPの出現で校正はどうなる?

中嶋 続いては90ページです。漢字の間違いじゃないです。

観客D 「ドキドキするらしんです」になってます。

中嶋 正解!下から3行目の「ウケてるとドキドキするらしんです」ですね。「らしいんです」から「い」が抜けてます。

張江 これはシンプルな抜けですね。

中嶋 いわゆる脱字ですね。脱字という概念は、活判印刷の時代に写植が抜け落ちちゃってることから言われるようになったんです。今はみんなDTPとかワードで打ってるんで、脱字というよりは単なるタイプミスですね。

一色 技術の発展とともに元の意味がわからなくなるパターンですね。

張江 Googleドキュメントとかを使って文章を書いてると、AIが誤字脱字を指摘してくれるじゃないですか。この原稿を書いたのは2年前くらいですけど、その間にAIの精度もすごく上がってますよね。

中嶋 そうなんです。校正ソフトの性能も上がっていますし。

張江 ChatGTPみたいな対話型AIも出てきましたし、AIを使った校正はどうなっていくのかなと。シーズン1で、AIでの英語の校正はかなり精度が高いという話が出ましたよね。

中嶋 英語はアルファベットしかないですからね。日本語は漢字、ひらがな、カタカナがあって、アルファベットも使うじゃないですか。漢字も表意文字と表音文字がありますよね。非常に難易度が高いと思います。

一色 今後、ChatGPTの校正についての回をやってゲストにお話を聞いてみたいです。

張江 ChatGPTは今のところ「真偽は不明だけど確からしい文章」を量産できますよね。それがネット上で拡散されると、それをまたChatGPTが根拠として文章を作る、というような自己再帰性がすごく高い仕組みだなと思っていて。そこも気になります。この書籍の出版データでは私の名前は「ハリエヒロシ」だから、これを根拠に文章を作ったら本当に「ヒロシ」が本名になりますからね。

中嶋 そういう意味だと、AI校正が発達しても、校正者の仕事は残ると思うんですよね。

張江 確かに。人間が校正して、Webの情報に侵されないという面では、紙の本の価値も逆に上がっていきそうですね。さて、次いきましょうか。

中嶋 97ページです。

一色 わかった!「いいセルフ」ですね?

中嶋 正解!下から3行目の「いいセルフでもだらだら長いと」ですね。「セリフ」が「セルフ」になってる。

一色 やっぱり見つけると気持ちいいです。

中嶋 言い訳すると、「ル」と「リ」は文字の形が似てるんですよね。余談ですけど、OCRってわかります?

張江 いえ、知らないです。

中嶋 昔の古典を出版し直すときに、テキストデータになってないですよね。その場合、手書きの原稿を画像として読み込んでテキスト化するソフトなんです。20年前くらいのOCRは、形が似てる文字を同じ文字だと認識しちゃっての誤字がすごく多かったんですよね。「門」、「問」、「間」とか。

張江 今でこそスマホに画像認識機能ついてますけど、そんなに昔からあった技術なんですね。

一色 はい!もう一個見つけました!

中嶋 え、本当!?

一色 10行目のカモさんの著書「着物を脱いだ渡鳥」になってますけど、正しくは「渡り鳥」です。カモさんからいただいて読んだので知ってました。

中嶋 校正的には「渡鳥」でも「渡り鳥」でも問題ないんですが、著書名は固有名詞なので、それに準拠しなくちゃならないですね。

張江 私もちゃんと読んだんだけどなあ……。

中嶋 次は125ページ。今までとちょっと違うパターンです。

張江 なんだろう、実は文字の色が微妙に違うとかですか?

中嶋 違いますけど、そういうのもあるんですよね。今日の10ヶ所には含めてないんですけど、175ページのvol.8の感想戦の部分だけ他とデザインが違うんですよ。

一色 よく見ると違う!

中嶋 デザイナーの勅使川原さんがTwitterで「俺の間違いも見つけられそうで嫌だな」って、つぶやいてました(笑)。

張江 みなさんに忘れていただきたくないのは、このミスはみんなが一生懸
命書いて、デザインして、校正した結果ですからね。適当にやってたわけじゃないので。こんなに一生懸命やっても校正漏れがあるんだな、ということを味わっていただきたい。

一色 人間味があるなー、と。

観客C 張江さんの発言の「可能性」の「性」が抜けてるところですか?

中嶋 そうです!6行目「落ちる可能が高まります」になっていて、「性」が抜けてますね。

張江 これは「可能」という言葉自体は間違いじゃないからAIだと判定しにくいかもしれないですね。言葉そのものじゃなく、文脈で判断しないといけないから。校正者も目が滑りやすそうですね。

中嶋 次は140ページ。一色さんの原稿です。

一色 私も校正されると思って書いてないので。いや、そりゃされるんですけど(笑)。大丈夫でしたかね?

観客E 140ページ中央あたりの「リアルな現場の声尾をお聞きすることができた」の、「お聞き」が「お聴き」ですか?

中嶋 それは問題ないですね。

張江 英語で言うとhearとlistenの違いですか。

中嶋 そうですね。

一色 質問するときの「尋く」(注:常用外)もあるじゃないですか。難し
いですよね。そこがごっちゃになってる原稿を読むと気になっちゃいます。

中嶋 答え言っちゃいますけど、3行目の「初心に帰ろう」が正しくは「初心に返ろう」です。

張江 そうか、「帰ろう」だと初心は私たちの故郷になっちゃうのか。「田舎に帰ろう」みたいな。

中嶋 そうですね、ワードとかで変換すると「初心に帰る」も出てきちゃうんですけど、「返る」が正しいです。
→後日、聚珍社の別の校正者から「初心に帰る」も間違っていない、とご指摘をいただきました。訂正いたします。間違ってはいません!

誤字脱字だけじゃない、校正的な視点

張江 誤字脱字という意味での校正ではないんですけど、書籍が出た後にTwitterを見たら、6ページで私が「おじさんが二人だけだと画面が持たないので、早速ゲストをお呼びしたいと思います」と言って一色さんを呼び込んでいて、それがすごく嫌だったと書いてらっしゃる方がいたんです。女性にアシスタントや聞き役、つまり「華」としての役割だけを押し付ける構図になっていると。
こういったジェンダー規範には気をつけているはずなのに、迂闊な冗談として口に出てしまったこと、さらにテキストとして残してしまったことは非常に反省しないといけないと思いました。

一色 イベントのときは、私も特に気にしなかったんですけどね。

張江 やっぱりトークイベントをテキスト化したものなので、その場の空気込みで聞けるイベントと、文字だけでは受け取る印象も全然違うので。メディア特性に思いが至らなかったし、内容としてもダメなので、忸怩たる思いがあります。

中嶋 文字だけになるとニュアンスも変わりますし、ナーバスにならざるおえなくなる場合が多いですね。

張江 自分で編集することができたんだから、別に面白い冗談でもなんでもないので、カットすればよかったんだよなと。厳密な意味での校正ではないかもしれないですけど、こういう視点も必要だなと思いました。

中嶋 そうなんです。校正って単なる誤字脱字だけじゃないんですよ。これはまだ、AIでも難しいと思います。

張江 こういったことには、もっと意識的になっていこうと思っています。では次は何ページですか?

中嶋 153ページです。

張江 あ!これはすぐわかった!3行目の「富士フイィルム」だ。

中嶋 そうです!

張江『JOJOの奇妙な冒険』のディオみたいになってますね(笑)。

中嶋 言い訳すると、張江さんから最初の原稿をもらったときには「富士フィルム」になってたんです。でも正確には「富士フイルム」なんですよ。昭和の活字時代の名残で、フォントのバランスを整えた結果、わざと大きな文字にしてるんです。他には「キヤノン」とか「文化シヤッター」とか。そこを修正しようとして、「ィ」を消し忘れたんです(笑)。

張江 次でラストですね!

中嶋 最後は160ページです。

一色 みなさん真剣に探してくださって、美しいです。

観客F 「お話」は「お話し」が正しい?

中嶋 うーん、これは問題ないですね。

張江 名詞としての「話」には送り仮名をつけず、動詞「話す」の活用としての「話し」には送り仮名をつける、という認識です。

中嶋 それで大丈夫です。でも、名詞にも送り仮名を付ける作家さんもいますね。

張江 日本語は運用がゆるゆるすぎる……。

一色 もしかして、また「効く」ですか?

中嶋 正解です!10行目の「応用が効く」ですね。これも正確には「応用が利く」です。ここにきて同じものを入れてみました。

張江 なるほど、「応用」もそうなのか。いやー、思いのほか盛り上がりました。

一色 もっとないかな?

中嶋 あると思います。みなさん何回も読んでみてください(笑)。

張江 インターネットは集合知ですので。ミスを見つけたら「#ずっと入門』で教えてください。

一色 参加型の校正ですね。

張江 シーズン2もいろいろなジャンルの方々をお呼びして、校正的な視点を交えながら話していきますので、お付き合いお願いいたします!

次回は8月24日!

映画やTVドラマの脚本家まなべゆきこさん、コントの脚本を書いたりwebライターとしても活躍されている大北栄人さんをお迎えし、脚本について校正の視点から考えてみます。

会場チケット
https://t.livepocket.jp/e/20230824
配信チケット
https://twitcasting.tv/loft_heaven/shopcart/251682

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