【連載小説】 死神に一目惚れしました 【プロローグ】

机に広げられた真っ黒な本。
その隙間から漏れる淡い光と、薄紫色の光の粒たちが空中で踊りだし、私の頬を照らす。
これが自宅のダイニングテーブルの上で繰り広げられている事とは思えないほどに、その光景は非現実的で、そして、綺麗だった。
その美しさに目を奪われていると、やがてそれは動きを変える。
一つ一つ、本から選別されるように空中に漂いだしたのは、文字だ。
ふわふわと宙を舞う選ばれた文字たちは、その動きを不規則なものから規則的なものに変化させていく。そして空中に意味のある文章を紡ぎだした。

名前:桜井 ひな

年齢:二十四歳

性別:女性

ふわふわと記されたのは名前と年齢、それと性別。
よく見知ったそれはわたしの情報だ。
その下には、さらに続きがある。
その衝撃的な文を、わたしは確かめるように声に出して読む。

「九日と八時間二十三分後に、自ら手首を切断したことによる失血死によって死亡」

そこに記されていたのは、死の宣告だった。

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