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追い抜いていく猫

「あ、猫ちゃん」

喫茶店に寄った後の帰り道、脇の小道から、猫がてくてくと歩いている。彼は無類の猫好きで、猫を「猫ちゃん」と呼ぶところにその片鱗が見えるなといつも感じ入る。

猫が角を曲がり、少しの間私たちと並んで歩いているのを眺めていると、首輪をしているのが確認できた。飼い猫なんだね、と話していると、すぐに私たちを追い越していく。

先を行く猫に視線を向けていると、それも束の間、また別の脇道に逸れていってそれきり姿は見えなくなった。今年の3月中旬のことだ。

この時期、彼はとある資格試験に向けて勉強していて、追い込みの時期に差し掛かっていた。この頃になって初めて、会いつつも、各々好きなこと、やっておきたいことをするという過ごし方をした。

彼が机に向かって勉強している後ろで、わたしが本を読んでいると、辺りがふっと薄暗くなった。「暗くなりましたね」と集中していた彼から声がかかって、同意する。あんなに明るかったのに、急に薄暗くなるとなんだか淋しくなるね。

彼がスマートフォンでこれからの天気を調べてくれた。しばらく天気はぐずつくらしい。「落雷の可能性もあるみたいです」と言われ、へええとなる。この日の天気をあまり気にしていなかった自分に気づいた。またすぐ部屋の中は静かになって、彼は勉強を、わたしは読書を再開した。

集中して本を読みつつも、どこか彼に対して焦りを覚えていた。この人、やるべきことをしっかりやっているんだなあと、そんなことを。自分はどうかと。

あのとき、わたしたちを追い抜いていった猫を思い出す。

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