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24 | 広島弁くっちゃべる作家と2人暮らし

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    小さな港町。 広島弁くっちゃべる作家と2人暮らし、その記録。

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「じゃ」へ。

プロローグ *** 制限時間があるから、美しいと君は言った。 時間は不可逆の一方通行だから、なお愛おしく感じると君は言った。 その二つの縛りの中でこそ、幸福というものは形成されるのかもしれない。 しかしどうだろう。僕はいまだにあの、彼女と過ごした4年間に縛られている。楽しく振り返る日もあるし、泣きたいほど辛く返ってくる時もある。 だからといって、今すぐに、ポンっと「あの頃」を渡されても、望んだものは得られないだろう。 逆説的に見れば、限りがあるからこそ、幸福は成り

    • いつきのコラム『歪み』

      • 天才の書き方

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        • いつき、友人を呼ぶ(2)

          「ごめんくださーい!!」 元気な声でやってきたのは多分、例の彼女。 うちには呼び鈴がないのでノックとボイス。 昨日の夜からいつきはソワソワしていて寝つくのが遅く、約束の時間なのにまだ寝ていた。代わりに僕が出た。 「え!!!!!」 「え?」 「古賀さんのお宅であっていますか?」 「厳密には僕の家ですが、古賀はいます」寝てますが。 「あのー、旦那さんですか?」 「いえ、違います」 「では、彼氏さん?」 「いえ、それも違います」 「あ、ご家族の方ですか?」 「いえ、違います

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          いつき、友人を呼ぶ(1)

          「今度友だち呼んでええ?」 「友だち?」 「そ、この前の授賞式でなんか仲良くなって、新人の子なんじゃけどめちゃ面白いけえ」 「いいけど、うちで??遠くない?」 「えらい懐かれてな。どうしても1回遊びに来たいんじゃて」 本当はちょっと面倒だと思ったけれど、彼女から「友だち」なんて単語が出てきたのは久しぶりだったし、他の作家を見たことがないので若干のミーハー心でOKした。 「じゃあ片付けないとね」 「うし、まずは・・・どこで??」 「客間とかないしな、一時的に俺の部屋を客間

          いつき、友人を呼ぶ(1)

          詠われ尽くされ、書き尽くされ。

          「愛も憎しみもエロもグロも社会風刺も平安時代には詠われ尽くしてんだよ」 *** 彼女は物語を作る前にプロットと呼ばれる設計図のようなものを紙に書く。 僕は彼女の小説は滅多に読まないけれど、この設計図だけは見せてもらう。というか、彼女がキッチンで書いているから見ないほうが難しい。 チラシの裏紙に7mmの紺のボールペンでぶつぶつ言いながら書いている。 新作らしい。 「それ、仕事?」 「んー、これは趣味」 「仕事で小説書いて、趣味でも書くの?」 「これは初めて」 「なん

          詠われ尽くされ、書き尽くされ。

          ある日のライン

          ある日のライン

          僕はこのまま遭難しっぱなしでもいいなと思った。

          ほんのり暖かな布団の中。 今朝洗ったシーツは石鹸の香りを程よく残し、日中の陽とうまい具合に溶け合って、とても気持ちのいいものだった。 もう、朝洗ったものが夜にはすっかり乾く。 エアコンを必要以上に低い温度でかけて、毛布にくるまる。いつきとぼく。今日は「あおいの日」じゃないけど、なんとなく、本当になんとなく、一緒に寝た。 ごく自然に、僕らは同じ部屋で、ベッドに入って、彼女は僕にすっぽりと収まる形で丸まった。 真っ暗な部屋。和室の天井の模様すら見えない。代わりにトタトタ

          僕はこのまま遭難しっぱなしでもいいなと思った。

          紹介してもらいました

          みて!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 勿体無い。。。褒めすぎじゃ(最近広島弁混ざってきてる)。。。 Haruさんのnote、素直なまっすぐで、だけどズッとくるリアルな、、、、とにかくめっちゃ素敵な方なのでみて欲しいです(何様)。 ありがとうございます😢

          紹介してもらいました

          弱っている君を。

          弱い彼女を望んでいる自分が嫌いだった。 自分にないものを持っている彼女が弱って僕の元に来る時、「あおい」と布団に入ってくる時、僕は嬉しかった。 彼女の支えになれるから? それとも、弱っている彼女を支えて「あげている」から?「助けてあげている」から?きっとそうだろう。 見て見ぬふりをしても、無理だったし、認めるしかない。 そんな醜い自分。 僕は弱っている君を望んでいるのだろうか。 そうだろう。 でも、君が弱って、僕の元に来る時、僕はとても愛おしく感じてしまう。

          弱っている君を。

          雨の夜。淡々と流れる時間と海に乞い。

          雨が降った。 いつもよりぬるめにお湯を張って、水着に着替えて風呂に入る。 雨の日はいつもと違って水着で入る。 そして風呂に入る前に家の電気を全て消す。 築50年のボロアパート。 天井はダダダ、と強く雨に打たれる。 ぬるめのシャワーを浴槽に。雨のように。 真っ暗な浴槽、夜の海。ぬるいシャワー、夏の雨。淡々と流れる時間と雨。 この時間が好きだった。 僕の脚の間に彼女が座って、僕はいつものように手を自分の頭にやる。 「触れても気にせんて、しかもなんか今日水着じゃし」と

          雨の夜。淡々と流れる時間と海に乞い。

          矛盾と偽善と余白

          あおはさー、と彼女が言った。 午前二時だった。 原稿が終わった彼女の代わりに今日は僕が深夜のキッチンでキーボードを打っていた。 つまらない意味で優しいんだよ。 そう言いながらキミはゴソゴソと冷蔵庫を物色していた。どういうこと?と聞いた。気になったので。 誰も傷つけない奴は誰にも好かれないよ。 僕のパソコンを指さして「あおの文章ってさ、トゲがなさすぎるんだよ」と言った。 「死ねとかうざいとか書けってこと?」 「違う。書きすぎってこと」 「説明しすぎじゃ。前も言っ

          矛盾と偽善と余白

          泣き止んでストレス

          だいたい、1週間です。 そのくらいかけて徐々に落ち着いてきます。 今回も1週間。そのあたりからいつもの「じゃ」が戻ってきて、しばらくすると別の意味でのストレスが増えました。 「あお、そこカットじゃいい加減にせえ」「チョコミントのアイス買うてきて」「うちの靴下片方ないんじゃけど知らん?」「この前の『セトウツミ』読んだ?」「うちのシャンプー使うたじゃろ」「下手くそ」「うちのさ」「ねえ」「おい」「うちが先に読むんじゃ」 何度も何度も、そんなことを繰り返していました。 なん

          泣き止んでストレス

          僕には「いつき」と呼ぶことしかできない。

          今回もそんな気はしていた。 *** 年に3回はあった。 空の錠剤シートが増え、いつも以上に部屋を散らかしものをなくし、些細なことでイライラするようになっていた。 夜中、タイピング音ではなくうめき声が増えた。 下書きに赤ペンで修正を入れたりメモを書き込んで、それを見ながら何かに追われるかのようにキーボードを叩いていた。 時々耐えきれなくなったのか、紙をキッチンにバラ撒き散らした。 翌朝、起きると赤ペンだらけの何百枚ものコピー用紙の上で疲れ果てた彼女が横たわっていた

          僕には「いつき」と呼ぶことしかできない。

          隠れファンのあなたへ

          『「じゃ」へ。』は一旦おやすみです。 === 『「じゃ」へ。』をいつも読んでくださりありがとうございます。 昨日の「なんの意味もない口づけとハグ。」めちゃくちゃよかったです(自分で言う)よね。 こちら、1話完結式の長編です。 全部繋げると1つの物語になるように作っています。 1つ1つのボリュームは少なめで描きやすいのですが、ズレや矛盾が出やすい形式なので意外と神経使います。 2年で1059本公開していますが、ここ最近ようやく上手くなってきたなと実感しております。

          隠れファンのあなたへ

          なんの意味もない口づけとハグ。

          我が家の風呂場にはボトルが5本ある。 1本はボディーソープ。これは共用。 そしてそれぞれのシャンプーとリンスが2本ずつ。 彼女は金木犀の、僕はオレンジのような柑橘系。 電気を消して、薄暗くする。 互いにハダカを見られることに抵抗はないけれど、二人で入る時はなんとなく電気を消す。キッチンから漏れてくる灯りが狭い脱衣所を経由して微かに届く。 築50年の昔ながらの風呂場。タイル張り。青と白と黒の大小形状様々なタイルが不規則に散らばる。一人でもやや狭い洗い場で二人で入ると自

          なんの意味もない口づけとハグ。