ほたかえりな

本や映画の中の言葉。日々感じたり考えたこと。とりとめもない話の中に響くものがあったなら…

ほたかえりな

本や映画の中の言葉。日々感じたり考えたこと。とりとめもない話の中に響くものがあったなら心から嬉しく思います。

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  • 12ヶ月の詩のつめあわせ

    毎月、その月にちなんだ詩や文章を集めてご紹介しています。 季節ならではの言葉の美しさを感じていただけたなら幸いです。

記事一覧

固定された記事

6月の詩

時には6月にも雪が降り 時には太陽が月の周りを巡る あなたが探しているものは 時にはその目に映らない 1990年代を代表する曲のひとつ『Save The Best For Last』には、…

89

やや大きくなった鳥獣戯画のごとき犬

最良の友は常に四つ脚以上である。 ──シドニー=ガブリエル・コレット 「わあ、やっと会えたね!」 「この子か……可愛い」 「子犬ちゃん。噂は聞いてたんですよ」 4…

70

裁判傍聴のすゝめ

「休日は何を?」 「ところでご趣味は?」 私はお見合いをした経験がなく、その席で本当にこんな質問が口にされるものかを知りません。 けれど、もしもいざその機会があっ…

84

人生の全てはタイミング

「人生はタイミングが全てだと思う」 私の友人がよく口にする言葉です。 けれど初めて聞いた時は、到底うなずけませんでした。それではあまりにつまらない気がしたからで…

ほたかえりな
2週間前
114

気になる本を片っ端から読む方法

読書とは、思いもかけない所から来る声をとらえることである。 その声は、本を、著者を、文章を超えた、人知れぬ源からやって来る。 ───イタロ・カルヴィーノ 「普段…

ほたかえりな
2週間前
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日本式エクソシストが叶える理想

ゴモトゥ、プランテン、トゥウォ、ジョロフライス、エフォ・リロ。 発音するにもたどたどしい、エキゾチックな単語の数々。 これらはアフリカ各国の郷土料理で、どれもき…

ほたかえりな
3週間前
79

微笑む死と帰命

私は生きていることが好きだ。 時には惨めで、苦しく、叫び出したくなることもあるけれど、どんな時も生きることは素晴らしいと自覚している。 ───アガサ・クリスティ …

ほたかえりな
3週間前
81

〈除〉とお洒落

ジバンシィでもラルフ・ローレンでも軍の放出物資でも、オードリー・ヘプバーンが何を着ようが、こう言う他はない。 「ああ、なんとオードリーらしい!」  ・・・服がどう見…

ほたかえりな
1か月前
82

今年はじめての海の話

夕暮れの5時か6時 地中海は亜鉛に変わる 君が腰掛けるには冷たすぎるだろう ──"カンヌ" ジャン・コクトー 私が今年最初に見たのは淡路島の海でした。 新たにやって来…

ほたかえりな
1か月前
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5月の詩

きらめく季節に たれがあの帆を歌ったか つかのまの僕に 過ぎてゆく時よ 二十才 僕は五月に誕生した 僕は木の葉をふみ若い樹木たちをよんでみる いまこそ時 僕は僕の季…

ほたかえりな
1か月前
124

アストラル体と陛下と美術家

「北さんか…」 作家の森茉莉さんが、同じく作家の北杜夫さんをメディアで見かける度つぶやいてしまうという話を書いていましたが、私ならさしずめこんなところでしょうか…

ほたかえりな
1か月前
94

鳥獣戯画のごとき犬

獣がいなければ人は何とする。 もしこの世から動物たちがいなくなれば、魂の深い悲しみから人間は死んでしまうことだろう。 ──ネイティブ・アメリカンの言葉 心を健や…

ほたかえりな
1か月前
98

ほとんどの人が一生無縁の履きものふたつ

たった一足の靴が人生を変えてしまう事もある。──『シンデレラ』 タイトルに上げた"履きものふたつ"が何か、最初に答えを言ってしまうと、それは〈ポワント〉と〈一本歯…

ほたかえりな
1か月前
78

知性なくしてカレーなし

あなたの舌に「私は知りません」という言葉を教えなさい。 ──タルムード 人の思い込みというものはやっかいで、私の友人がつい最近、仕事先で思わぬトラブルに見舞われ…

ほたかえりな
1か月前
96

現代の関守に会う

もう数年前に『今度は苗字が多すぎる!?』という話を書いたのですが、その時に調べたところ、日本の苗字のバリエーションは何と世界第三位の多様さを誇るといいます。 そ…

ほたかえりな
1か月前
72

好意と質問の相関関係

友のいない人生は塩気のないピラフと同じ。 ──ウズベキスタンのことわざ どこで目にしたものだったのか、つい最近、こんな一文に出会いました。 「私の尊敬する人は、…

ほたかえりな
2か月前
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6月の詩

6月の詩

時には6月にも雪が降り
時には太陽が月の周りを巡る

あなたが探しているものは
時にはその目に映らない

1990年代を代表する曲のひとつ『Save The Best For Last』には、こんな印象的な歌詞があります。
人の心と運命の不思議さを描くこの曲では、有り得そうもないものの例えとして”6月の雪”が上げられます。

確かにこの月に空から降るものは、氷の結晶たる白雪よりも、潤いある水の雫の

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やや大きくなった鳥獣戯画のごとき犬

やや大きくなった鳥獣戯画のごとき犬

最良の友は常に四つ脚以上である。

──シドニー=ガブリエル・コレット

「わあ、やっと会えたね!」
「この子か……可愛い」
「子犬ちゃん。噂は聞いてたんですよ」

4月からこちら、こういった言葉をどれほどかけられてきたでしょうか。
『鳥獣戯画のごとき犬』という話にも書いたように、4月初頭に大型犬の子犬を家族に迎え、早くも2ヶ月が経過しました。

ありがたいことに犬友達や近所の人たちも笑顔で歓迎し

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裁判傍聴のすゝめ

裁判傍聴のすゝめ

「休日は何を?」
「ところでご趣味は?」

私はお見合いをした経験がなく、その席で本当にこんな質問が口にされるものかを知りません。
けれど、もしもいざその機会があったとしたら、一体何と答えましょうか。

「街や自然の中を歩くのが好きです」
「犬との遊びです」
「パールを使ったアクセサリー作りです」
あたりが無難でしょうか。

〈紅茶〉に〈アロマ〉〈写真〉〈お寺巡り〉〈外国語〉なども良いかもしれませ

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人生の全てはタイミング

人生の全てはタイミング

「人生はタイミングが全てだと思う」
私の友人がよく口にする言葉です。

けれど初めて聞いた時は、到底うなずけませんでした。それではあまりにつまらない気がしたからです。
人生がタイミングで決まるなら、自由意志は無意味なのか、努力は無駄であるのかとも感じました。

心理学では、意識は無意識をコントロールするものであると定義されます。
けれども現実はそうではなく、全ての人が意識的になど生きてはいない、人

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気になる本を片っ端から読む方法

気になる本を片っ端から読む方法

読書とは、思いもかけない所から来る声をとらえることである。
その声は、本を、著者を、文章を超えた、人知れぬ源からやって来る。

───イタロ・カルヴィーノ

「普段は300冊。多い時なら500冊」
元外交官・外務省分析官の佐藤優さんは、ご自身の読書冊数についてこう述べています。しかもこれは年間ではなく、月間の記録というから驚きです。

外務省での新人時代、短期間で勉強すべきことがあまりに多く、死に

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日本式エクソシストが叶える理想

日本式エクソシストが叶える理想

ゴモトゥ、プランテン、トゥウォ、ジョロフライス、エフォ・リロ。
発音するにもたどたどしい、エキゾチックな単語の数々。

これらはアフリカ各国の郷土料理で、どれもきわめて魅力的なため、写真をお目にかけられないのが残念です。
私はにわかアフリカ通のため、特にジョロフライスなど、いくつものバージョンを知っています。

それというのも、私の"X"のタイムラインが、目下アフリカの料理や文化風俗の紹介で大賑わ

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微笑む死と帰命

微笑む死と帰命

私は生きていることが好きだ。
時には惨めで、苦しく、叫び出したくなることもあるけれど、どんな時も生きることは素晴らしいと自覚している。

───アガサ・クリスティ

「今は新聞を取ってくださるお宅も少なくて。昔は月末になると忙しかったのに、近頃はさみしい限りです」

毎月25日過ぎに私の家を訪れる、新聞販売店の集金担当者さんはよくこんな風にこぼします。
ウェブ上でいくらでもニュースが読める世の中で

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〈除〉とお洒落

〈除〉とお洒落

ジバンシィでもラルフ・ローレンでも軍の放出物資でも、オードリー・ヘプバーンが何を着ようが、こう言う他はない。
「ああ、なんとオードリーらしい!」 
・・・服がどう見えるかは、着る人にかかっている。

──ラルフ・ローレン

《十二直》あるいは《中段》
私の家の暦には、そんな表記欄があります。
よく見るとそこには〈破〉〈危〉〈成〉などの一文字も書かれており、これは北斗七星の動きから日々の運勢を導き出

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今年はじめての海の話

今年はじめての海の話

夕暮れの5時か6時
地中海は亜鉛に変わる
君が腰掛けるには冷たすぎるだろう

──"カンヌ" ジャン・コクトー

私が今年最初に見たのは淡路島の海でした。
新たにやって来ることになった子犬の迎えに明石海峡大橋を車で渡り、そこから眼下に広がる瀬戸内海を眺めました。

天気は良いもののまだ寒すぎて海遊びの人もおらず、出ているのは漁船ばかり。沖に向かってフェリー船がゆったりと遠ざかって行くのが見えました

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5月の詩

5月の詩

きらめく季節に
たれがあの帆を歌ったか
つかのまの僕に
過ぎてゆく時よ

二十才 僕は五月に誕生した
僕は木の葉をふみ若い樹木たちをよんでみる
いまこそ時 僕は僕の季節の入口で
はにかみながら鳥たちへ
手をあげてみる
二十才 僕は五月に誕生した

寺山修司の初詩集『われに五月を』に掲載された〈五月の詩・序詞〉
作中では「僕は五月に誕生した」と繰り返されるも、実際の寺山の誕生月は12月です。
それで

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アストラル体と陛下と美術家

アストラル体と陛下と美術家

「北さんか…」
作家の森茉莉さんが、同じく作家の北杜夫さんをメディアで見かける度つぶやいてしまうという話を書いていましたが、私ならさしずめこんなところでしょうか。
「横尾さんか…」

横尾さんとはむろん現代美術家の横尾忠則さんのことであり、私がそうつぶやいたのは、数日前の夕方です。
テレビのニュースで園遊会の映像が流れ、そこに天皇皇后両陛下と、横尾さんご夫妻の姿が映し出されていたのです。
両陛下は

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鳥獣戯画のごとき犬

鳥獣戯画のごとき犬

獣がいなければ人は何とする。
もしこの世から動物たちがいなくなれば、魂の深い悲しみから人間は死んでしまうことだろう。

──ネイティブ・アメリカンの言葉

心を健やかに保つために、依存先をいくつも持つこと、できるだけ多くのコミュニティに出入りすること、居心地の良い場所を作ること、などとよく耳にします。

これは難しく考えずとも、たくさんの好きなものや、それを分かち合えるゆるいつながりがあればいい、

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ほとんどの人が一生無縁の履きものふたつ

ほとんどの人が一生無縁の履きものふたつ

たった一足の靴が人生を変えてしまう事もある。──『シンデレラ』

タイトルに上げた"履きものふたつ"が何か、最初に答えを言ってしまうと、それは〈ポワント〉と〈一本歯の高下駄〉です。

もちろん、中には自分もそれらを履いた経験がある、という人もいらっしゃるかもしれません。けれど、その両方を日常的に履いている、という人はさすがに少数派ではないでしょうか。

こんな話題を持ち出すからには、私はその少数派

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知性なくしてカレーなし

知性なくしてカレーなし

あなたの舌に「私は知りません」という言葉を教えなさい。

──タルムード

人の思い込みというものはやっかいで、私の友人がつい最近、仕事先で思わぬトラブルに見舞われました。

それは連絡違いから起こった不幸な事故だったのですが、そのせいで友人が手間暇と心を込めて納品した品がほとんど台無しになり、先方からの謝罪はあったものの、二度と取り返しのつかない事態となりました。
それもこれも、小さなミスの積み

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現代の関守に会う

現代の関守に会う

もう数年前に『今度は苗字が多すぎる!?』という話を書いたのですが、その時に調べたところ、日本の苗字のバリエーションは何と世界第三位の多様さを誇るといいます。

そうなると当然、読み方がわからないお名前も続出し、私が直接存じ上げている"東江"さんや
"月見里"さんなど超難読苗字だけでなく、"草柳"さんは"くさなぎ"か"くさやなぎ"か、"中島"さんは"なかしま"か"なかじま"かという発音の問題も発生し

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好意と質問の相関関係

好意と質問の相関関係

友のいない人生は塩気のないピラフと同じ。
──ウズベキスタンのことわざ

どこで目にしたものだったのか、つい最近、こんな一文に出会いました。

「私の尊敬する人は、誰かのことを思い出した時、その人に連絡をするという。
とても自然で綺麗な人付き合いの方法だと思う」

同感のあまり、私も早速、その時ふと思い浮かんだ人にメッセージを送ったほどです。

その人が多忙な生活を送っていると知っているため、普段

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