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美術家(絵画、写真、映像、インスタレーション)です。http://hideonakan…

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美術家(絵画、写真、映像、インスタレーション)です。http://hideonakane.com/

マガジン

  • hideonakane 映画日記

    中根秀夫の映画日記。美術家です。ふだんFBに書いているものをまとめ直して公開します。基本的に映画館でしか映画は見ません。

  • 2024富岡駅と夜ノ森駅と

    今年は3月に寒さが続いたせいで、東京でもやっと 4月に入り桜の開花を告げた。比較的温暖な福島県の「浜通り」だが、満開とは程遠い状況が予想された。昨年泊まった富岡駅前の町営ホテルを予約したかったが、それがまさかの満室である。この週末に「世の森桜まつり」が開催されるからだという。少し迷ったが、富岡駅から北東約3キロのところにあるホテルを予約した。Googleマップによれば徒歩で40分かかるが、タクシーなら6分で到着するという。 実は昨年12月に来たときからこのホテルが気になっていた。というのも、2019年に開業したこのホテルは、富岡町の7%にあたる「帰還困難区域」に隣接する居住区域のほぼ北限に立地しているからだ。

  • 2023富岡駅と

    2023年10月から11月末まで郡山のギャラリーで展覧会をした。富岡から郡山に避難して来たという方にお会いし、そのことがずっと気になっていた。富岡は長らく代替バスの起点となっていて自分も何度もバスで往復したが、富岡がどういう町なのか、正直あまり考えたことがなかった。今回は富岡町の夜ノ森駅と富岡駅の二つと、双葉駅、大野駅、木戸駅の現状などを短く記録しておく。

  • 2023 夜ノ森駅と

    夜ノ森は双葉郡富岡町にあり、かつては常磐炭田の北限であった。そして、夜ノ森から北東7.4キロの大隈に福島第一原発、南東6.2キロの富岡には第二原発、そういう位置関係にある。首都圏へのエネルギー供給の歴史として考えておこう。夜ノ森は桜の名所である。夜ノ森の桜は「戊辰戦争後の1900年、相馬中村藩郷士の長男半谷清寿(はんがいせいじゅ|1858〜1932)が農村開発の着工を期し「桜」の木を植えたことに始まる」と書かれている。なにしろ福島といえばの「戊辰戦争」である。夜ノ森の桜といえば、1500本ともいわれるソメイヨシノの並木が全長で2.5キロも続く堂々たる桜の名所であって、震災前はこの季節に10万人もの観光客が訪れたという。去年2022年には夜ノ森公園脇の道路の通行が可能となり、夜ノ森全域で桜が楽しめるようになった。

  • 2022年 竜田駅から

    1年半ぶりに福島に行ってきました。いつもの常磐線木戸駅の隣、竜田駅を拠点に、震災遺構となった波江町立請戸小学校と、翌日は避難指示(特定復興再生拠点区域)が6月30日に解除されたばかりの福島第一原発から4キロの位置にある大野駅(大熊町)から夜ノ森駅(富岡町)までの7キロほどを歩いてきました。順にご覧いただければ幸いです。 追記:今年は11月に再度福島を訪ねることができました。今回は郡山から磐越東線でいわきへ出て、それから常磐線でJヴィレッジ駅から木戸駅まで。

最近の記事

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うつくしいくにのはなしⅡ − forget-me-not

うつくしいくにのはなしⅡ - forget-me-not 展 2019年3月18日 から3月23日 @GALERIE SOL▶ ああ、明日にでもあそこへゆこう なぜならいまの僕には、 昼も夜も、あの湖の水の 岸にくだける柔らかな音が聞こえるからだ。 車道を走っていようと 汚れた歩道に立っていようと いつも     W. B. イエーツ「イニスフリーの島へ」*1 真冬のさなかに 彼は消えていった 小川は凍てつき 空港はどこも人影がまばらだ そして雪は 街の彫像の輪

    • 悪は存在しない/濱口竜介監督

      濱口竜介監督の「悪は存在しない」を見る。 冬枯れの木々を見上げ、その枝の先に見える空をフレームで切り取りながら、カメラは移動してゆく。長い長いカットで、どこまでもどこまでも、その空が続いているように見える。カメラが空を見上げる少女の横顔を捉える。ニット帽を被り青いダウンジャケットを着た少女はまた林の中を歩き始める。 * 薪を割り、水を汲む。自然豊かな町で暮らす口数の少ない男は、匠さん(大美賀均)と呼ばれている。男には花(西川玲)という名の娘がいる。学童保育の迎えの時間に

      • ノスタルジア/アンドレイ・タルコフスキー監督

        以前「ソビエト時代のタルコフスキー」という特集上映で、アンドレイ・タルコフスキー監督の『ローラーとバイオリン』(1960年)、『僕の村は戦場だった』(1962年)、『アンドレイ・ルブリョフ』(1967年)、『惑星ソラリス』(1972年)、『鏡』(1975年)、『ストーカー』(1979)の5本の作品を見た。 別に難しい話ではないが、タルコフスキー監督は『ノスタルジア』( 1984年)の完成後に亡命を果たすので、つまり長篇第6作目にあたるこの映画はカテゴリーとしては「ソビエト時

        • ヴェルクマイスター・ハーモニー/タル・ベーラ監督

          もう10年以上も前のことだが、タル・ベーラが最後の監督作と公言する「ニーチェの馬」(2011年製作)の衝撃が忘れられない。ハンガリーの寒村を舞台とした映画だが、場所性からも時間性からも逸脱した密度の濃いモノクロの長回し映像が、観者の時間軸に雪崩れ込んでくる…唯一無二の映画作品である。 今回の4K修復版「ヴェルクマイスター・ハーモニー」もまごうことなき傑作であった。「伝説」とも言われる、上映時間7時間18分の「サタンタンゴ」(1994年/自分は輸入版のDVDで見た)と比べれば

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        うつくしいくにのはなしⅡ − forget-me-not

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        • hideonakane 映画日記
          239本
        • 2024富岡駅と夜ノ森駅と
          6本
        • 2023富岡駅と
          5本
        • 2023 夜ノ森駅と
          5本
        • 2022年 竜田駅から
          5本
        • 2021 木戸駅と
          4本

        記事

          ピアノ・レッスン/ジェーン・カンピオン

          ジェーン・カンピオン監督の「ピアノ・レッスン」を見る。1993年公開のこの映画は、女性監督として初めてカンヌ映画祭パルム・ドール受賞した。自分は30年前に留学先のロンドンでこの映画を見ている。 30年前も同様に感じたのだが、「ピアノ・レッスン」という日本語タイトルはいささか不正確で、この映画がエイダと不倫相手ベインズとの「関係性」(あるいは恋愛)を主題に描いているという誤解を与えかねない。そうではなく、この映画の英語タイトル「The Piano」が示すとおり、アイダの「分身

          ピアノ・レッスン/ジェーン・カンピオン

          美と殺戮のすべて/ローラ・ポイトラス監督

          ローラ・ポイトラス監督の「美と殺戮のすべて(ALL THE BEAUTY AND THE BLOODSHED)」を見る。 ナン・ゴールディン(1953年生まれ)がデビューした80年代後半の頃のことは、もちろんよく覚えていて、当時もよく「〇〇カルチャーを牽引する」などと、いくつかの都合が良かろう言葉で紹介されていた。自分はマイノリティ・コミュニティの「囲い込みの」ための「カルチャー」という言葉の使い方が好きにはなれないが、それはともかく「暴力的」とさえも言われたナン・ゴールデ

          美と殺戮のすべて/ローラ・ポイトラス監督

          夜ノ森駅と

          その6 2024年4月7日 日曜日 承前 10時08分富岡駅着。駅ロータリーのタクシーはすでに出払っており、看板に記されたタクシー会社に電話で配車を依頼する。富岡駅が再開した直後は駅舎の一部に食堂が入っていた。今は町営の観光案内所になっている。「富岡町親善大使」のタスキを掛けた女性が二人、案内所の看板を前に写真撮影をしている。「さくら祭り」に参加するのか仕事を終えて都内に帰るのか。目の前を高いヒールで通り過ぎていった。 20分程でタクシーが到着する。一度ホテルで荷物を引き

          夜ノ森駅と

          木戸駅と

          その5 2024年4月7日 日曜日 承前 7時40分 木戸駅着。降りたのは自分ひとりだけだ。モニター表示される時刻表だけが駅舎にはある。2013年に初めてこの場所を知り、常磐線の運行が再開されて幾度となくこの土地を訪れてきた。同じ楢葉町でも開発で形を大きく変えた竜田駅前とは異なり、木戸駅周辺の変化は緩やかなものだといえよう。一時は再開した理容室も閉店した。駅前に一軒の商店もないこの地区の有り様は、逆に清々しくさえある。崩れかけた家はもうどこにも存在しないし建て替えが終わった

          富岡駅へ

          その4 2024年4月7日 日曜日 朝5時。遠くに見えるのは阿武隈高地だろうか。ホテル7階の部屋からの眺めは、山地からの霧が立ち込める幻想的な風景だ。ホテルの南西方向はスポーツ公園があり、ここからは野球場の施設が見えているのだが、中央に見える大型マンションの存在が、風景の中で際立っている。 思えば今まで浜通りの被災地で見た「家」といえば戸建ての住宅だ。取り壊された家の跡地に、新築の賃貸アパートが連なる風景を見ることはあっても、震災以前に建てられた、いわゆるマンションを見る

          大野駅へ

          その3 2024年4月6日 土曜日 夜ノ森駅前も「桜まつり」に向かう人で賑わっていた。 時計を確認して、大野駅まで歩いてみようと思った。2時間後の14時46分発の上り列車に間に合うだろう。大野駅から夜ノ森駅へは歩いたことはあるが、逆方向の歩行の歩行で、また違った景色が見えてくるかもしれない。雨足がさらに強くなったので折りたたみの傘を開いた。 夜ノ森駅西口を出て北に進み、突き当たりを左折する。この辺りはまだ富岡町内で、2019年に避難指示が解除されている地区だが、夜ノ森地

          夜ノ森駅へ

          その2 2024年4月6日 土曜日 承前 新たに定められた「特定帰還居住区域」で、人の通行が可能なところはまだほんのわずかだ。本当は小さな漁港跡がある小良ケ浜に行きたいのだが、それはまだ無理そうだ。なんにせよ13年間この場所で留め置かれた土地だ。 細道にはバリケード、幹線道路には有人のゲートを設けて人の立ち入りを管理している。帰還前の土地に作業員以外の姿を見ることはないし、巡回パトロールの車両とすれ違うのはいつものことだ。雨が強くなってきた。 国道6号線から東側ほぼ40

          夜ノ森駅へ

          富岡駅と

          その1 2024年4月6日 土曜日 2017年4月、富岡町では夜ノ森駅の東側に広がる帰還困難区域以外の土地で避難指示が解除された。JR常磐線の運行区間は富岡駅まで延長され、不通区間を走る代行バスの起点も竜田駅から富岡駅へと変更された。自分もこのバスで、何度か浪江・原ノ町駅方面へと足を運んだ。当初のバスには女性のスタッフも同乗しており、「ここから帰還困難区域に入ります」というアナウンスに緊張が走った。 駅前のロータリーを出たタクシーは、代行バスと同じルートを走行した。右手に

          哀れなるものたち/ヨルゴス・ランティモス監督

          ヨルゴス・ランティモス監督の「哀れなるものたち」を見る。久しぶりの夜の新宿の若者の多さに驚くばかり。劇場も若者たちでほぼ満席。遅れて入っても山盛りのポップコーンを諦めない…笑 注目を集めているランティモス監督だが、作品を見るのは今回が初めてだ。英題は「poor things」だから、本当は特定の「哀れなる者たち」についての話ではなく、「哀れなるものたち」≒「残念なこと」くらいの意味ではないのか。無論そこに皮肉が込められているだろう。内容的には「バービー」(グレタ・ガーウィグ

          哀れなるものたち/ヨルゴス・ランティモス監督

          ポトフ 美食家と料理人/トラン・アン・ユン監督

          第76回カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞したトラン・アン・ユン監督の「ポトフ 美食家と料理人」を見る。英題は「The Taste of Things」。 トラン・アン・ユン(1962年生まれ)は、幼少の頃にベトナム戦争を逃れフランスに移住した。現在はパリ在住の監督だが、1993年の長編デビュー作「青いパパイヤの香り」が大ヒットし、カンヌ映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を取る。当時自分は留学中で、ロンドンのRussell sq.駅近くのRenoir という独立系の映画館

          ポトフ 美食家と料理人/トラン・アン・ユン監督

          最悪な子どもたち/ロマーヌ・ゲレ&リーズ・アコカ監督

          ロマーヌ・ゲレ&リーズ・アコカ監督の「最悪な子どもたち」を見る。映画はフランス北部の「荒れた」地区(ピカソ地区という)を舞台に、4人の子どもたちを主人公とした映画の、オーディションから作品の完成に至るまでの過程を描いたものである。 しかし正直、すっかり騙されていた…。 彼らの日常と監督の演出部分、それに映画の(いわゆる)本編にあたる部分とが、あまりにもシームレスに繋がっていることを多少は訝しく思いはしたのたが、実際には、この映画丸々全てが演出された物語でありフィクションで

          最悪な子どもたち/ロマーヌ・ゲレ&リーズ・アコカ監督

          Perfect Days / ヴィム・ヴェンダース監督

          ヴィム・ヴェンダース監督の「Perfect Days」を見る。世間の評判の高さに比して、残念ながら自分はこの映画にはあまり共感が持てなかった。そもそも映画内でも明確に示されるが、平山(役所広司)が作業服の背中に背負う「THE TOKYO TOILET」とは、渋谷区内の公共トイレの刷新プロジェクトのことで、この映画製作は、というよりはヴィム・ヴェンダース監督自体がそのプロジェクトのPRのために召集されたという経緯である。 だからこの映画の各所に於いて、そういう広告臭さ(あるい

          Perfect Days / ヴィム・ヴェンダース監督