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ノートになってた、私の宝物。

今日あるものを思わず買ってしまいました。

ノートです。


アール・ヌーヴォーの画家でイラストレーターのアルフォンス・ミュシャ。

彼が挿絵を務めた「トリポリの王女イルゼ」の表紙を形どった、ハードカバーのノートが日吉の丸善で売られていました。

ペパーミントグリーンの、思わず手に取りたくなるデザイン。

さすがは時代の寵児、ミュシャ。

で、これを見て思わずニンマリしてしまったワタシ。

その理由はと言うと…。


デザイン元になった本物を持っているからです。

正真正銘、ホンモノです!

100年以上前にパリで約二千部限定で出版された、石板印刷の「イルゼ」。

最初にフランス語版が出、その後ドイツ語版とチェコ語版が同じくらいの数出されています。

現存数が少なく、保管が大変、そして人気なポスターと比べると亜流と捉えられがちなのが、ミュシャの挿絵業。

「イルゼ」は100年前には一万冊近くあったものが、今では破棄、劣化、裁断され、完品であるものは日本国内では十冊に満たないと思われます。

1ページ分であっても、インテリアとしての価値が見出され、額装用として数万円で売られているのを見かけます。

私の持っている「イルゼ」は数ページ紐が外れ取れてしまうようになってます。

また、豪華版ではなく、圧倒的多数派の廉価本となっているため、背折れや色の剥落などの劣化があります。

それでも、抜けたページはなく、致命的欠点もなく、またフランス語の初版本である点でも、希少価値はあるかと思います。



私がこの本を手に入れたのは、美術商を通してではなく、古本屋さんで見かけてでした。

ミュシャの挿絵本コレクターの日本人が所蔵品を整理したものを、私は何点か購入しました。

中でも「イルゼ」はコレクションの中核だったそう。


私はあまり骨董も西洋美術も詳しくないです。

ただその古本屋さんとは長い付き合いがあったものですから、富裕層の中国人に買われる前に「お救い」しておこうと思ったわけ。

お値段はヒミツ。6桁、ということだけお伝えしておきます。


上のようにHimashun所持版はソフトカバーで、あまり耐性もなさそう。

よくここまで綺麗な状態で残っていたな、と思うと同時にこれを大事に守ってきた代々の蔵主に感謝。


表紙の裏です。

余分な紙が折り込まれる形になっているのは、破損を防ぐための策か。

いずれにせよ、現代の製本には見られない光景です。


紙は羊皮紙を使用。

このように、端が統一されておらず、切り揃えられないままです。

もちろんこれは故意であって、古風を敢えて演出しようとしたものと思われます。


巻頭のページ。

丸善で買ったノートの裏にある女性の絵を反転したものが描かれてます。

ナンバーも手書きで振ってあり、私のは123番。

本文はこのようになってます。

「イルゼ」の物語は十字軍に取材し、トリポリ(北アフリカのリビア)のお姫様と吟遊詩人の男の子の悲恋物語です。

オリエンタルなムードを基調とし、胸をあらわにした女性や、謎めいたモチーフ、心身離脱など、非合理且つ退廃的なイメージが多く現れます。

本文がどうでも良くなるくらい豪華な挿絵。

これが150ページにわたって続きます。

ミュシャはアカデミックな美術教育を存分に受けているので、人体描写が的確。

魅力的なポージングが展開されます。

いかにもアール・ヌーヴォーって感じの装飾性豊かな挿絵。

本来はもっと鮮やかだったものが、酸化や隣ページからの色移りによってくすんでしまってます。

この本が出された1890年代はミュシャのパリ時代全盛期。

依頼殺到の中、「イルゼ」の挿絵はわずか三か月で仕上げたそう。

リトグラフは大変緻密な色遣いを可能にしています。

印刷も素晴らしいので、全ページカラーの100年以上前の本でも鑑賞に耐えうります。


ちなみに、「イルゼ」はこちらのミュシャ全集でも、一項が割かれてます。

最も状態の良いものはこんなに色が残っているそう。

雲泥の差かな笑。

版画だと、個々の作品の刷りの具合は相当重要です。

もちろん、現在どれくらい劣化したかも。

丸善のノートを見かけて、久々に私の「イルゼ」を手に取りました。

やはり劣化はしてますが、逆によくぞ無事で日本の我が家へ!という思いを強くしました。

この「イルゼ」が、ノートになったのはなぜかとっても誇らしかったです。

うちの家宝、これからも先人たちの思いを引き継いで大切にしていきます。

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