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新潮文庫の一冊

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その昔、当時の嫁が妊娠中に「ヨンダ パンダ」のぬいぐるみが、可愛いと言って欲しそうにしていた。 それなら、出産後,退院の時にベビーカーに「ヨンダ パンダ」を乗せて迎えに行ってやろ… もっと読む
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『虐待児の詩』 新潮文庫の一冊

『虐待児の詩』 新潮文庫の一冊

「夏の夜の夢」(真夏の夜の夢)ここで語られている「夢」は、文字通りの夢ではない。
いや、むしろ僕らが解釈している文字通りの夢も、現実だと信じて疑わぬ白日の出来事も、同じ夢の延長に過ぎないと云うことを、シェークスピアは言いたかったのかも知れない。

伝染病による劇場の閉鎖、劇団の解散、貧困・・成功からどん底をくぐり抜けて復活を遂げたシェークスピアが、不遇の時代を、夢のまた夢のように感じていたのではな

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『虐待児の詩』 新潮文庫の一冊

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「三億円事件」一橋文哉の「三億円事件」といえば、ビートたけし主演でドラマ化されていたらしいのだが、残念ながら、再放送も無かったようで、私は見ていない。
それどころか、こんなにリアルでスリルのあるノンフィクションが存在すること自体知らなかったのである。

私と一橋文哉との出会い(といっても直接本人を知っているわけではなく、一橋氏の執筆のことであるが)は、仕事上読まなければならなかった多くの技術書に、

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『虐待児の詩』 新潮文庫の一冊

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「ケインとアベル(下)」上巻はその後に起こる波乱を予測させる形で終わっているが、下巻は現実の人生でもよくあるちょっとした行き違いや、必然としか言いようのない偶然が折り重なって人生模様を編み上げていく。
最後まで読み終えたときには、初めて読み終えたわけでもないのに、頬を熱い滴がつたっていた。

人は何のために産まれ、何のために生きているのだろうか。
人間にとって生きがいとはいったい何なのだろう。

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『虐待児の詩』 新潮文庫の一冊

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「ケインとアベル(上)」「ケインとアベル」を初めて読んだのは、もう随分昔のこと、留学先のボストンで友人に読んでみろと手渡され、強引に勧められたからだ。
そして、この物語は、私個人にとって非常に感慨深いものがある。

ひとつは読んだ場所が小説の舞台であるボストンだったということ、もうひとつはこれを勧めてくれた友人が、この小説から多大な影響を受けたと見え、特に主人公のひとりであるアベルに自分自身を投影

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『虐待児の詩』 新潮文庫の一冊

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「さぶ」「深夜特急(4) シルクロード」の投稿で、沢木耕太郎が一頁目を読んだだけで涙がこぼれそうになったと云うので、なんとなく読んでみたくなった、例の時代小説「さぶ」である。

時代背景は江戸、しかし、時代は古いがそこに描かれているものは人間、親子、知人との人間関係であり、現在と何ら変わりは無い。

半分ほど読み進んだ頃、何か前に一度、読んだことがあるような気がした。しかし、そんな覚えは無い。それ

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『虐待児の詩』 新潮文庫の一冊

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「深夜特急(6) 南ヨーロッパ・ロンドン」この旅は、どこで何が起こるか予測のつかない放浪とふれあいの旅であり、お膳立てされた観光などではない。つまり実際の目的はロンドンへ辿り着くことなどではなかったのだ。
自らの進むべき道を試行錯誤していた、当時26歳の著者にとってはきっと自分自身を見つける旅だったのではないだろうか。

なんとなくサグレスの岬に茶(CHA)を飲みに行ってみたくなった。
ただ、なん

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『虐待児の詩』 新潮文庫の一冊

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「深夜特急(5) トルコ・ギリシャ・地中海」生きていくということは、常に何かの代償と引き換えに、別のもの、行きぬくための糧のようなものを得ている。

著者の言いたいことは痛いほど分かるような気がしてならない。
彼も、きっとこの旅で得たモノの大きさに気付いたのではないだろうか。
旅も人生も、何かを無くさずに前に進むことなど出来ないが、その代償から得られるものは、計り知れないほど大きなものなのではない

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『虐待児の詩』 新潮文庫の一冊

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「深夜特急(4) シルクロード」第四巻は、いよいよシルクロードだ。

「だからどうしたの?」という声も聞こえてきそうだが、遥か悠久の時を経て西の果てローマから東の果ては長安、・・いや、正倉院を観れば奈良、と言っても過言ではない。

まだ近代的な交通手段の何もなかった時代に、国籍も人種も種々雑多な数え切れない人々によって形あるものは当然のごとく、文化のような無形のものに至るまで数多くのものが行き交い

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『虐待児の詩』 新潮文庫の一冊

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「深夜特急(3) インド・ネパール」生まれて物心ついた時に、自分の最も身近に存在し、すべてを委ねるしかない者(肉親、里親など)に対する子供の信頼は計り知れないほど大きいものである。
そんな子供たちの中には、貧しさ故に口減らしのため捨てられる子供たちも多い。もちろん、その日の食事さえままならない状況でも子供を捨てずに貧しさに耐えながら、なんとか生活を続ける親も多くいるだろう。

貧しい国ならどこでも

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『虐待児の詩』 新潮文庫の一冊

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「深夜特急(2) マレー半島・シンガポール」一旦、読むと決めたのだから全巻読んでしまえと六巻まで一度に買って来た。

デリーからロンドンと出発地点と目的地が決めてあるにもかかわらず、出発地点にさえもいつ着くのかわからない。そんな目的があってないような行き当たりばったりの放浪の醍醐味を人のふれあいの中から見出していく。

これはある意味サスペンスであり、そこにロマンを感じずには通り過ぎることなどでき

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『虐待児の詩』 新潮文庫の一冊

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「深夜特急(1) 香港・マカオ」第一巻の冒頭には次のような解説が一ページを占有して、単独で記されている。

「ミッドナイト・エクスプレスとは、トルコの刑務所に入れられた外国人受刑者たちの間の隠語である。脱獄することを、ミッドナイト・エクスプレスに乗る、と言ったのだ。」

著者が丁度この旅をしていた頃、同時期の実話をもとにしたアメリカの小説に、この隠語と同じ「ミッドナイト・エクスプレス」というものが

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