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夏に至る

突き抜けるような青い空、遠くの入道雲、揺れる陽炎、纏わりつくような湿気、遠くの世界へ誘うような風鈴の音、生命の躍動、それらと隣り合わせの膨大な死の気配。

夏の高すぎる彩度にはどこか閉塞感がある、楽しい空気に満ち溢れているのに時間の流れがゆっくりで、神さまの戯れで作られた精巧な虚構みたいな、息が少し詰まって、胸が苦しくなって、どうしようもないくらい美しい

保護所の屋上で見た花火、施設までの気の遠くなるような坂道、つんざくようなセミの鳴き声、地面を溶かすような太陽の照りつき、毒々しいほど鮮やかな花々と木々の緑、ぬるい風、きみの額に張り付いた汗だとか、ひと夏の、恋未満の好意だとか

思い出す夏はいつも、古いフィルム映画のコマ割りのように断片的で、どこか非現実的だ

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夏の思い出

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