いちごジャムの夜【夢の話、または短編小説の種 #2】
まどろみのなかで、わたしは「少しお腹が空いたな」と感じ、どういうわけか二十代の前半に付き合っていたボーイフレンドのイアンの笑顔を思い浮かべている。「ベッカ」とわたしを呼ぶ声が聞こえた気がする。でもほんとうはイアンにほかに好きな人ができて、五年ほど前、わたしたちの関係は三年足らずで終わった。
わたしはそっとベッドを抜け出す。電気はつけず、キッチンに向かい、籐細工のかごからバゲットを抜き取り、ペティナイフでおおおざっぱに切り分ける。壁にかけてある時計を見ると、ほとんどちょうど一